経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

生存本能と心の強さ

2012年03月26日 | 経済
 鳥は、ヒナの生存確率を高めるために、あえて最大限の産卵をしない。最大限にすると、環境が変化してエサが乏しくなった場合、共倒れを起こすからである。そのため、リスクを避けて、余裕が持てる産卵数にとどめる。経済学者は、最大化だけが合理的と信じがちだから、おそらく、そうした鳥は「競争に負けて淘汰される」と逆の主張をして、自然は間違っていると断ずるに違いない。

 今日の日経の「市場の心理学」では、行動ファイナンスを扱っている。人間の「不合理な選択」の例を挙げているのだが、筆者には、どれも不合理なものとは思われない。「人間が死せる存在」だとすれば、どれも自然な反応ではないか。

 例えば、確実な利得を重視するのは、ある程度の利得だけでも、生存確率を高められるからである。逆に、損害を忌避するのは、少しの損害が致命傷に至ったり、短い人生では取り戻せないと分かっているからだ。人類史の中では、飢えと短命の時代がほとんどであり、心性がそれに適合しているのは当然である。それを前提に、心性が通用しない現代的な状況に、どう対応するかが求められる。

 そんなことは当たり前だと言うなかれ。電力業界が原発をあきらめられないのは、損切りができないからであり、反原発派が強硬に再稼動に反対したり、震災廃棄物の受入れの忌避が起こったりするのは、少しの生存リスクも取りたくないからである。筆者のような中間の主張がほとんどなく、国論が分裂ぎみなのは、心性に反するがゆえである。

 今日の日経の「核心」で、滝さんは、気骨の人らしく、「原発を動かすリスクと止めるリスクを見据えて判断すべき」とするが、こういうのは、よほど腹が据わってないとできないことである。「市場の心理学」にあるように、資産運用者の採用で「超圧迫面接」がされるのは、リスクを判断する仕事には、特別な心の強さが必要になる。

 リスクの判断を、民意の空気を読む存在である政治家に期待するのは難しい。むろん、卓抜したリーダーシップを求めたいところだが、財政破綻の不安に怯えて、一気の増税に走るような具合では、ほど遠い。不安に耐えて一歩ずつというのは、簡単なようで、強さが必要なのである。

(今日の日経)
 東電の全原発停止。市場の心理学・迷わぬ投資家はいない。話し合い解散賛成55%。原油高、家計にじわり。核心・満点なきストレステスト・滝順一。電力業界の現実と非現実・安西巧。経済教室・自滅選択の回避・池田新介。

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2 コメント

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Unknown (通行人)
2012-03-27 17:06:03
ん?鳥も子供の生存率を最大化しているってことなんじゃないの?

それと、不合理な行動については、行動経済学より公共選択論で解釈したほうが良さそうだし、損切りの話はミクロ経済学の初級の教科書に書いてある、損益分岐点と操業停止点の差の話に近いと思われます。

批判をするなら、相手を良く知る事も大事かなと思います。というか、行動経済学とかをオカルトチックに引用するのって、まじめに研究している人に失礼かなと思います。
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Unknown (経済学初心者)
2012-04-01 08:35:43
失礼ながら、原発の是非をめぐるのはいいんですが、イデオローグ的なそれと政策的なそれとを混同なさられてる気がしますが。
実際には「電力業界」のみならず、「原発村」の言葉が示すように、監督官庁さらに政府筋で原発に絡む者は全員といっていいほど原発維持派です。したがって、原発再稼働以外の回答は彼らの中にはありません。なので、政策レベルでは原発の是非をめぐる論争なんぞハナから起きてないのが実情なんですが。
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