経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・強気と狼狽の混合物

2016年04月03日 | 経済(主なもの)
 異次元緩和Ⅱでミニバブルを作り、これに慢心して、緊縮型予算を組み、FRBのゼロ金利解除のリスクはまるで無視だったのに、年明けに円高株安に振れるや、慌てて外国人経済学者を呼び、財政出動路線を打ち上げ、春から大型の補正をやると言い出す。アベノミクスとは、強気と狼狽の混合物らしい。

 ところが、足元では、消費が底入れしたと見られ、1-3月期のGDPはプラス成長だろう。この局面で、補正のアクセルを吹かせば、効果はあるにしても、その後の剥落のブレーキも同時に用意することになる。こうした変動の激しさは、成長の基盤を壊しかねない。エコ・ポイントで翻弄し、電機業界を死地に追いやった経験は、未だ教訓になっていないようだ。

………
 3月の日銀短観は、急速な円高株安を受けて、大きく低下した。しかし、円・株は異次元緩和Ⅱ前の水準に戻っただけであり、当時に危機感があったわけではない。皆、慌て過ぎではないか。無意識に、アベノミクスに引きずられているように思う。異次元緩和Ⅰはともかく、消費増税を促すがごとくなされたⅡは、輸入物価の押し上げで消費を冷やし、ミニバブルの生成と消滅で混乱をもたらしただけだった。

 然らば、心配には及ぶまい。短観においても、非製造業(大企業)については、業況判断の低下は少なく、売上高は変わらず、経常利益はプラス修正だった。設備投資額の見込みと計画は、製造業、非製造業ともに、悪くない水準である。雇用人員判断の崩れもない。円・株の変動を目の当たりにして、リスクへの警戒は高まったが、実体に近い部分での判断は、落ち着いているように思われる。

 一方、2月の家計調査の結果は、消費の底入れを示すものとなった。下図のとおり、二人世帯(除く住居等)は、季節調整値が前月比+1.1である。その背景には、勤労者世帯の名目実収入が3か月連続で回復する中、消費性向が戻ったことがある。まあ、先月の本コラムの読みどおりというところだ。秋に収入が落ちて萎縮していた消費性向が、収入の回復傾向によって、通常に戻ってきたと言えよう。

(図)


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 さて、1-3月期GDPは、どうなるか。2月の消費総合指数を待ちたいが、家計調査からすれば、前月比プラスが順当だろう。ただし、2月の消費財出荷が大きく落ちており、割り引いて見る必要がある。それで、1月から横バイに終わったとすれば、平均の前期比は+0.5である。更に厳しく12月並みの低さに落ちたとしても、+0.2を確保できる。3月の鉱工業指数は高めが見込まれ、在庫減が少ないことも考え合わせると、GDPは、消費を中心に、プラス成長となる公算が高い。

 政権とすれば、5/18のGDP一次速報でマイナス成長という結果を得て、消費増税の先送りを決めたいのかもしれないが、そう都合良くは行くまい。プラス成長と言っても、ゼロ成長状態の範囲であり、前期のマイナス成長からの揺り戻しでしかないが、意外に高めの数字になり、振りかざした財政出動が場違いとなる可能性もある。年末の時点で、実体経済の不調は明らかだったのに、ミニバブルに酔い、やるべきことを怠り、緊縮予算に走るから、こんな無様なことになる。

 日本経済は、2015年秋から弱い景気後退となったが、その理由は、輸出、住宅、公共事業の下り坂の波がたまたま重なったためだと見ている。足元では、輸出が持ち直し、住宅も底入れし、公共事業は下がるところまで来た。他方、設備投資と雇用は崩れずに済み、堅調に推移しているので、ここから緩やかに景気は回復するものと期待している。

 景気の波は、男性の就業者数で端的に分かる。女性はコンスタントな増加だが、男性には波があり、消費増税以降、減少傾向だったものが、去年の夏頃に底入れし、足元で、ようやく増税前水準に戻ってきた。2月は前月の反動で落ちたものの、雇用者数では積み上げた。この3か月程、製造業や建設業で、フルタイムの新規求人が回復してきている。

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 FTの社説が指摘するように、日本は緊縮と刺激を繰り返す「非生産的な経済運営」をしてきた。2016年度予算では、400億円弱の保育士の待遇改善をケチり、待機児童で激しい批判を受けた上、次の補正では、子育てクーポン券のバラマキをやるらしい。成長戦略は、規制緩和ばかりのように思われるが、本来は、労働力供給を可能にする社会制度の整備を着々と進めなければならない。

 ところが、本予算では、成長戦略もそこ退けで、ひたすら緊縮をかける一方、補正予算では、後腐れがないよう、その場限りのムダ使いを、むしろ、好んで採用する。シャープの外資への身売りが決まったが、景気対策のエコ・ポイントが終わり、巨額投資が重荷になったことも背景にある。企業はカネを溜め込むばかりと批判されても、リスクを取った企業の末路は、こうであり、慎重派しか生き残れない。

 こんな「非生産的な経済運営」では、成長どころか、成長の基盤を壊し、公共政策への信用さえ失う。景気対策は、剥落時のことを考えないまま、ただ膨らまそうとするのではなく、小ぶりで良いから、非正規への被用者保険の適用拡大に必要な負担軽減策といった、成長の基盤が強化され、なおかつ、名目成長で徐々に財政負担が減るようなものを選ばなければならない。アベノミクスの強気と狼狽は、すなわち、緊縮と刺激なのである。


(今日の日経)
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