経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

財政フレームと中長期試算

2012年09月01日 | 経済(主なもの)
<とある会社の事業計画法>
課長「部長、うちの事業部の今後3年の中期計画なんですが、見てもらえますか?」
部長「どれどれ、経費を3年間は前年度と同額に抑え、年間の借入金の枠も増やさないわけか。なるほどね。それで、売上高はどう見ているんだ?」
課長「書いてません。全力で、しかっり、事業の再生戦略をさせていただくということで。」
部長「させていただくって、新規ネタを羅列しただけのものだろう。売上の予想がない事業計画なんて、あり得んだろう。キミ、気は確かかね。」
課長「一応、仮置の数字は、参考資料にあるんですが…」
部長「参考資料? こんな分かりづらいところに、小さくあっても、気がつかんだろう。それに何だこれは。今年度の売上高が昨年度より下がっているじゃないの。今のところ好調なんだから、こうはならないよ。」
課長「いや、それは、昨年12月に予算を決めた時の数字をそのまま使って…」
部長「足元の数字が狂っているのに、それをベースに伸ばした中期計画なんて、意味ないだろう。キミ、東大法卒だからって、私をバカにしとるのかね。」

………
 普通の会社では、平社員レベルでもなさそうな会話だが、本コラムの読者には、もう、お分かりのように、この会社は日本国であり、ラチもない課長は財政当局である。実際と異なるのは、部長が怒り出したりせず、「これは深刻な状況だ」と分かった風な顔をして、ありがたく中期計画を推し戴くことだろう。

 昨日、閣議決定された「中期財政フレーム(H25~27)」には、「売上」に当たる税収の見積りが書かれていない。財政というのは、「入るを計り、出るを制す」ではなかったっけ? こんな時には、耳にタコのセリフは出てこないんだね。まあ、書けないのも道理で、今年度は、このまま推移すれば、2兆円といった増収が期待できるから、政治家のバラマキの声を呼びかねない。

 肝心の税収はと言うと、「経済財政の中長期試算」の表の中に出てくる。2011年度は決算の数字で42.8兆円。2012年度は予算の数字のままなので、実質2.2%成長を前提にしているにかかわらず、42.3兆円と、マイナス0.5兆円である。2011年度は震災でゼロ成長に終わったが、前年度から1.3兆円も税収が増加したことを考えると、これはなかろう。

 しかも、更に1年先の2013年度を見ても、1.7%成長なのに、税収は44.7兆円でしかない。つまり、2年かけても1.9兆円しか増えず、1年当たりでは1兆円に満たないわけだ。別立ての復興特会の税収0.5兆円を勘案しても、少な過ぎる。今は、リーマンショックからの回復の過程であり、2007年の度税収の51.0兆円を目指し、大きく伸びる局面にある。

 実は、こうした税収の過少見積りには、重大な意味がある。当たり前の話だが、税収のベースが上がれば、プライマリーバランス半減の財政再建の計画を早く達成できることになる。逆に言えば、一気に消費税率3%も上げ、たった1年半後に更に2%アップするという、成長を潰しかねない無茶苦茶な計画を緩める余地が出てくるということだ。今日の日経では、一気増税の駆け込み対策で、年間1兆円もの住宅ローン減税をするというが、こうした本末転倒をしないで済む。 

 そして、「中長期試算」で本当に注目したいのは、成長シナリオなら、国・地方の公債残高は安定するということである。つまり、今年上半期の平均3%超の足元の成長の勢いを、できる限り保つことが何より大切なのである。順調に進んでいるのに、わざわざ壊すような無理な増税などする必要はない。

 「中長期試算」では、駆け込み需要と反動減を、税率1%当たりGDPの0.2%と置いていて、慎重シナリオでは、増税前の2013年度と増税後の2014年度の差は1.0%とし、0.7%成長を確保するとしている。おそらく、変動要因は、駆け込みと反動減に限り、増税による需要減はないものと考えているのだろう。これを見込む民間予測は、ゼロ成長への墜落である。財政再建のためにも、一気の増税は避け、成長を保ちたい。

 「中期財政フレーム」なんて立派な名前がついていても、マクロ経済との整合性など何も考えない、緊縮財政をやるという宣言にしか過ぎない。経済運営の常識として、成長率並みに歳出を増やさなければ、財政はデフレセクターになる。しかも、税収が増大するという隠されたデフレ要因もある。加えて、社会保険料は、労使合わせて25%を超えているから、これまた成長への経済循環のブレーキになる。

 本当は、こうしたことを念頭に置き、入ると出るの両方を把握して、中期的な経済財政の計画を立てなければいけない。まあ、今は及びもつかないね。何だか、去年も似たようなことを書いたように思うよ。この1年、日本の経済運営の手法に、まったく進歩はなく、逆に無茶苦茶な増税計画が決められただけだった。叱ってくれる練達の部長さんは、この国には求め難い存在なのだろうか。

(今日の日経)
 住宅ローン減税拡充、減税規模は最大で年1兆円規模。維新公約集・年金は積み立て方式へ。欧州重債務国の貿易赤字が縮小・イタリア輸出回復、緊縮で輸入減、ギリシャは輸出乏しく。戦後初の予算執行抑制。財政試算・楽観的すぎ。インド輸出が減速、ブラジル0.5%成長。三越伊勢丹・営業益上振れ、8月堅調。

※また素人の年金いじりか。※輸出がないと緊縮は辛いだけ。※設定する成長率を批判しても始まらない。※やはり外需は頼れない。※家計調査の分析は日を改めて。

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