経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

変わらぬ意識と歴史の流れ

2011年12月30日 | 経済
 1年を振り返ってみると、このコラムも作風が少し変わったように思う。当初は、いろいろな話題を取り混ぜて書いていたが、財政運営を批判することが増えた。一番の要因は、震災に際して、稚拙さに我慢できなくなったことだ。筆者も、東北には特別の思いがある。何とかしたいという思いが、そうさせたのだ。

 筆者は近代史が好きで、「あの時、別の選択はなかったのか」と考えたりするのだが、時代状況を踏まえると、後世の人が「なんで、あんなバカなことを」というような選択も、なかなか他には取り得えなかったのだろうと思うことが多い。満州より英米貿易に利があったとしても、英霊の血で贖った土地を手放すことはできなかったのだ。

 今の日本は、「財政再建病」に取り憑かれている。2010年度は、財政破綻への不安から、14兆円もの度外れた緊縮財政を試み、後半に成長を失速させた。その後、日本は、震災で生産と輸出に大打撃を受け、救助と復旧に巨額の財政支出を要したが、経済はビクともしなかった。結果から言えば、2010年時点の不安は過大であり、緩やかに財政再建を進めておけば十分だったことになる。過激な緊縮は、経済のパフォーマンスを悪くしただけだった。

 しかし、歴史的結果が出てもなお、どれほどの人が、その事実に気づき、反省しただろうか。長年に渡って培われてきた、財政破綻への不安は、あまりに強固だ。むしろ、震災で借金が増したのだから、もっと過激な緊縮や増税が必要だという雰囲気だ。満州を死守するために、中国全体へと戦線を拡大していったように。

 よく「意識改革が必要」というようなことが言われる。筆者は、人の意識を変えることほど難しいものはないと思っている。意識が現実に合わなくなり、そのためにボロボロになってすら、まだ現実を認められない人を、たくさん見てきている。おそらく、国レベルであっても、同じことは言えるのではないか。

 昨日、民主党は、2014年4月に消費税を3%アップすることを決めた。2014年度の成長率が1.5%程度の常識的なものであったら、消費税1%は、GDP1%の約半分なので、成長の増加分をすべて税で吸い上げることになる。「増税しても消費は減らない」とする論者は別だろうが、筆者に言わせれば、ほとんど自殺行為である。

 もちろん、増税の一方で、社会保障を拡大するなどして、デフレ・インパクトを緩和することも考えられるが、財政再建のために増税しようというときに、歳出の拡大をしようとはならないものである。1997年のハシモト・デフレの失敗は、消費増税だけでなく、定率減税の廃止、公共事業の削減、社会保険の負担増も合わせてやったことである。消費増税を単独でしていたら、成功していたかもしれない。

 実際、昨日の党税調の議論でも、増税は行革が前提とされている。格差是正のために、高所得者の増税もすることになった。また、2014年には復興が一段落して公共事業が急減するし、年金の「払い過ぎ是正」のための減額は2014年度も行われる。おそらく、1997年と同じことが起こる。意識が変わらないのだから、同じことを繰り返すのである。たとえボロボロになっても、改まることはない。

 戦前の歴史では、「東郷外相が開戦閣議に反対して辞職していれば」などの歴史のイフが語られる。現実を分かった者がいたとしても、大多数の人の意識は変わらず、押し流されるようにして、国は破局へと向かっていく。戦前の歴史を見て、若い人は、理に適わない選択を、なぜ、当時の人がしてしまったのか、理解できないと思う。それは、我々が未来の日本人から受ける批判でもある。

(今日の日経)
 消費増税14年4月8%、15年10%で決着。給付控除は間に合わず給付金か。富裕層増税を明記・1600億円。相続税対象4%から6%へ。14年金融所得20%に戻し。景気条項の数値明記せず・財務省の意向反映。デンマーク・金融課税先行に反対。ヤマト・個配へ最短4時間。経済教室・人材育成・守島基博。

※2014年と想定して、年金債でなく交付国債にしたのか。※所要の措置だから、停止以外でもよいことにしてある。※意向を明記とは珍しい。※金融課税は課題の一つだ。

※日経にはなかったが、伊国債3年物は大きく金利が低下、10年物はわずか。調達量はまずまずだった。大幅な低下が3年物までというのは、やはり、ECBの金融緩和の成果だろう。裏返せば、緊縮財政は大して意味がないということ。こういう読みは、日本人の意識には、縁遠い話かもしれんがね。

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