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2012年10月22日(月)7:00pm
NHKホール
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ブラームス 交響曲第3番
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ブラームス 交響曲第1番
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(アンコール)
ワーグナー リエンツィ序曲
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クリスティアン・ティーレマン 指揮
ドレスデン国立管弦楽団
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ここのところNHKホールで聴くコンサートが続いている。
ティーレマンは前回聴いたのがいつだったか思い出せない。
ブラームスの3番から始まったこの日のコンサート。当節の御多分に漏れず、ディテールとピアニシモにこだわった、つまり、いまはやりの細部と弱音にこだわった演奏。これの悪いところは構築物の形式がわからなくなってしまい、度を越すと建築物が倒れかねないということ。
この種の演奏は日常的にほかの指揮者も同じようなことをしているので、またか、という感じです。最近の演奏で崩壊に近かったのは上岡のGM4(2012.1.25)
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ティーレマンはデリカシーをピアニシモで表現しようとしているのでしょうか。それなら手段の一つとしてわからなくもない。でもブラームスの場合デリカシーが第一義的にあるわけではないと思います。
ピアニシモの為のピアニシモという具合で、作為の為の作為、作為をだいぶ感じる。音楽にうねりもないしもっと伸縮自在に出来ないものか。伸だけですからね。
ここはフルトヴェングラー&ベルリン・フィルの演奏を何度でも聴いて参考にしてほしいですね。あまりに巨大な演奏でぶっ飛ばされます、それでいてこの構築感。ティーレマンのこの日の演奏は足もとにも及びませんでした、いくら方向性が違うからなどと言ってみてもよく聴くとすべての方向性を内包しているのがフルトヴェングラーの神髄であり、そのうちの一つの表現、ピアニシモの極意でさえ勝ち目はない。
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それから、プレ・コンサート・トークで解説者が、これみよがしに3番は全楽章弱音系で終わる、みたいな解説は不要です。そんなこと昔、吉田秀和が言った言葉で、この場で言う言葉でもない。演奏会の前の解説でこんな話しちゃだめですよ。
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ティーレマンは第4楽章の冒頭のたたきつけるフォルテシモを導入する緊張感ある雄弁なピアニシモ表現をしましたが、あれでいいと思います。あすこの表現はピアニシモの為のピアニシモではありませんでした。激烈でドラマチックなソナタ形式でいいと思います。
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この日の弦編成は、
16+14+12+10+8 対向配置。ベースしもて。
後半ウィンド、ブラス増強。トップが前半とだいぶ変わっていた。普通に考えたらメインディッシュのブラ1のほうにトップを持ってきているのでしょうね。
ティーレマンに合っているのは1番の方でしょう。あまり手を加えずともドラマチックな演奏となる。そもそも息の長い、ドラマチックな流れを作るのが得意だと思いますので、ジャストフィットな演奏だったと思います。ディテールにこだわると、ときとして先が見えなくなり、その場だけの表現に陥ってしまいますけれど、1番の曲想にも助けられ、うねり流れるいい演奏になっていたと思います。
第2楽章は作為を離れ、深く静かに音楽の呼吸を感じることができた。ウィンドの折り目正しい演奏は特筆。気持ちよく高性能オーケストラを堪能できました。また休止をかなり長めにとるところがあり、緊張感をはらむ。昔はなかった表現だと思います。
こうゆう進行であればこそ後半楽章も生きてくる。終楽章冒頭の抑えたピッチカートは絶妙。また、ホルンの信号から例の主題までの流れは、なにか別物の音楽が漂う不気味さのようなものを感じました。言葉でうまく表現できません。止まって漂うシュヴァルツシルト境界の感覚。この曲のぜったい外せない部分という確信に近い信念。そんなところです。
ティーレマンは、派手さよりも前進力、前に進む力が魅力的。決して空虚な響きの陥穽には落ちない。思いっきりブラームス」というところまでは行ってなかったと思いますが、後半は良かったと思います。それから、3番1番ともにブラスをもっと鳴らしてもいいのではないかと思いますね。
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バスドラ、ありました。
アンコールはリエンツィ、ここで聴けるとは思いませんでした。ブラームスからさらにインストゥルメントを増量、ブラスは水を得た魚みたいにバリバリ。弦の後ろからではなく、弦の上からこちらの方向にかぶさってきました、弦のサウンドを決してかき消すことなく。これがドレスデン。
今日のプログラムで一番ティーレマン向きの曲。なんでこの陰影をブラームスで出せなかったのかな?最初から最後まで力任せでよかったんだよ。と本人も少しは反省しているに違いない。
インテンポや壮大なポリフォニック、はてはフォルテシモのアゴーギク、そんなものに対する呪縛的恐怖でもあるのかな?単にドライブ出来ないだけ?昨今の指揮者たち。
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今回、オーケストラの名称が、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団ではなく、ドレスデン国立管弦楽団となっておりました。ドイツ語表記は同じだと思いますが、なにか変化があったのかしら。
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ご参考:
ドレスデン初来日1973に続き、2回目の来日1978の際の感想。
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