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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

笹まくら

2017-11-12 18:04:46 | 丸谷才一
丸谷才一 昭和48年 講談社文庫版
昭和41年刊行の長編小説、著者が芥川賞とる昭和43年より前で、まだ現代仮名づかいで書かれてる。
文庫を古本屋で買ったのは、ことし6月ころだったか、夏が終わってから読んだんだけど。
笹枕というのは、作中に出てくるエピソードによれば、俊成卿女の歌
「これもまたかりそめ臥しのさゝ枕一夜の夢の契りばかりに」(p.158)
にあることばで、草枕とおなじで旅寝を意味するらしいんだが、笹を頭の下にしたら、かさかさする音がして、不安な感じを含んでいそうなニュアンスがあって、それが物語とからんでくる。
物語の現在は、戦後二十年くらいの時代で、主人公は大学の庶務課の職員で45歳、奥さんはだいぶ年下。
問題なのは、戦時中に徴兵忌避をしてた過去があることで、今となっては罪は問われないんだけど、陰に陽に響いてくる。
話は、その逃避行中に世話になってた四国宇和島の女性が死んだ報せが届くところから始まる。
で、特徴的だなと思うのは、現在と過去を語る展開が、ちょっとした出来事をきっかけに、自由自在といってもいいくらい軽々と切り替わるやりかた。
油断してると、気づかないうちに、ふっと戦中に飛んぢゃって、何の話になったのか道に迷っちゃう。
『彼方へ』では焦点のあたる人物がそうやって変わってったけど、この話の時間軸の移動もまた独特だと思う。
前に、十九世紀小説は時間が順方向に進むだけだけど、二十世紀では行ったり来たりするようになったって話を読んだけど、そういう意味ぢゃあ、やっぱこの小説なんかは新聞連載みたいな場には向かないんぢゃないかと。
なかには、3章から4章へ移るところで、もっと大胆に、最後の文が終わりまで書かれずに途切れて、章が移って違う人物の独白が始まるなんて技法が使われてる。(p.168)(で、5章は文の途中から始まる。)
そんなこんな行ったり来たりするうちに、二十代前半の戦時中に、名前を偽り、日本中を転々としてた過去の出来事が明らかにされてくる。
軍医の息子に生まれたけど、高等工業を出て就職したのも束の間、兵隊にとられる前に家を出て、ラジオや時計の修理をして、そのあとは街頭での砂絵売りになったりと。
しかし、けっこう複雑な語られようで進められてくんで、主人公とその女性の知りあう場面は、やっと247ページになってからだし、徴兵から逃れようと決意する気持ちが語られるのは266ページまで待たなくちゃならない。
そのうち太平洋戦争突入直前の主人公と友人の議論で、「国家というものは無目的なものだ(p.313)」みたいな話がでてくるんだけど、そのへん『裏声で歌へ君が代』とつながるものがある。
>国家に対し、社会に対し、体制に対し、いちど反抗した者は最後までその反抗をつづけるしかない。(p.364)
なんて現在に戻った主人公の独白をみると、ふーむ、『たった一人の反乱』なんかもそうだけど、そういうものへの反抗は丸谷才一にとってのひとつのテーマなのかなって気がした。
コメント
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