白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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12月の情報会員解説

2017年12月08日 19時47分29秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
明日は最近囲碁アイドル企画で話題の、永代塾囲碁サロンにて指導碁を行います。
午後1時から1時間ほど解説会を行い、その後指導碁に入る予定です。
今回は昔の名人の打ち碁解説などしようかと思っています。
なお、指導碁の後はその場で棋譜をお渡ししています。
ご都合の合う方はぜひお越しください。


さて、本日は毎月恒例、日本棋院情報会員のPRを行います。
なお、過去の記事はこちらです。↓
第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第10回
第11回 第12回 第13回 第14回 第15回 第16回 第17回 第18回 第19回
棋譜再生ソフトの使い方は第4回で詳しく解説しています。

今月の私の担当分は、
2017崋山国際囲碁大会決勝 柯潔九段対周睿羊九段
第43期棋聖戦ファーストトーナメント 伊了初段金沢真七段
の2局を解説しました。
今回は大熱戦となった柯-周戦の解説の一部をご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
Kiin Editor」キャプチャー画面です。
今白△と打ったところです。
切りを見られているので、黒の次の一手は決まっている・・・ように見えるのではないでしょうか。





2図(実戦進行)
ところが、実戦はこのように進行しました。
えっ、何で黒2子を取られたの!? と驚かれる方が多いのではないでしょうか。
こういうところはプロの碁が難しく感じる要因の1つでしょうね。
ですが、これには分かり易い理由があります。
それでは順にみていきましょう。





3図(参考図)
ほとんどの方は、テーマ図の後は本図黒1とつなぐでしょう。
ですが・・・。

「黒1のつなぎも先手で打てますが、これを打ってしまうと、せっかくの狙いの厳しさを損なってしまいます。」

黒には大きな狙いがあり、黒2子を助けるとそれを邪魔してしまうのです。
その理由はこの後分かります。





4図(実戦)
実戦の進行に戻ります。

黒3「この白を攻めるのが黒の狙いでした。
左辺での動きも、全てはこのためだったかもしれません。」


左辺での動きとは、テーマ図以前の応酬を指します。
黒はずっと前から右上白への攻めを狙い、準備を重ねていたのでしょう。

ここで参考図が2つ入り、黒2子を助けなかったことの種明かしをしています。





5図(参考図1)
「後に黒1と押さえると、白は2と切る下がる一手です。 ※間違いがありましたので訂正予定です。
そこで、黒3と切っていく味があるのです。
例えば、このようになれば先手で外側が止まりますし・・・。」

攻め合いが1手差で、左辺白は中央へ出て行けない形です。
別の見方をすれば、右上白一団が左辺白とつながる可能性が無くなるとも言えます。
3図と本図を比べれば、本図の方が右上白への攻めが厳しくなることは明らかですね。





6図(参考図2)
前図では白がまずいので、対応を変えてくることが考えられます。

「あるいは、このような進行も考えられます。
現状白は捕まりませんが、これを横目に無数の利き筋ができます。
つまり、この周辺に見えない壁ができるので、それを利用して右上白を厳しく攻めようというのです。」


結果、白は中央を完全に塞がれることは防ぎましたが、それでも中央に黒石が増えたことには変わりません。
右上白を攻めるための援軍になるでしょう。
ここに示した2図は数ある変化のほんの一部ですが、白がどんな対応を選んだとしても、中央に黒の勢力が築かれるとご理解ください。

ただ、黒としてもこの狙いを決行する時期が早過ぎると後手を引いてしまったり、石を捨てることによる地の損が大きくなるかもしれません。
ですから、3図のようにつなぐ可能性も残しておき、白の出方に応じて選ぼうというのです。
言わば黒は後出しジャンケンをしようとしているようなものです。
なんとズルいことを考えているのでしょうか(笑)。
そして、プロは皆このズルさを持っています。





7図(実戦)
実戦に戻ります。

白1「何はともあれ、白はこの石を逃げ出します。」
黒2「応急処置を施しました。
地を守るというより、白の眼を奪った意味でしょう。」


右辺を地にしているように見えるかもしれませんが、あくまで黒の狙いは右上白一団です。
黒2のノゾキの意味は次の参考図で解説しています。





8図(参考図)
「このように1目取る手があったところです。」

1目取れば1眼できるので、白が生きに近付いてしまいますね。
これを防ぐためのノゾキでした。





9図(実戦)
実戦に戻ります。

黒1「そして、上下の連絡を絶っていきました。
大石の取りかけをも狙っている雰囲気があります。
さて、ここで白はどう守ったものでしょうか?」

白2「切って禍根を絶ちました。
地の得も小さくありませんが、何より絡み攻めを防いだ意味があります。
さて、ここで黒はどう攻めたものでしょうか?
一方石に死に無しと言いますが・・・。」


右上白を攻められているのに、白2と離れたところに打ちました。
これも実は右上白を守った手です。
後出しジャンケンを防ぐために、手札ごと奪ったということです。
その価値は次の参考図をご覧頂ければ感じられるでしょう。





10図(参考図)
前図白2を打たなかった場合の変化です(黒14は25の所)。

「白1などと守ると、かえってこのような絡み攻めを誘発する可能性があります。
一例として黒30までとなると白潰れです。」


図で見ると頭が痛くなりそうな長さですね。
白1を見て黒は用意の手札を切り、左右の白の絡み攻めに持ち込みました。
結果中央白が取られることになったという図です。

棋譜を見ているだけだと水面下の動きが見えないので、実戦の進行はわけが分からないように感じる方が多いでしょう。
ですが、種を明かしてしまえば、双方の考えていることは意外にシンプルだと分かります。
もっとも、対局者は膨大な読みの裏付けのもとに打っていますが、そこは把握できなくても大丈夫なのです。

9図の後、黒は右上白大石に迫るため、さらなる大作戦に出ました。
そちらも面白いところなので、ぜひ全ての解説をご覧ください。

なお、来月は
第22回LG杯準決勝 井山裕太九段対柯潔九段
おかげ杯国際新鋭囲碁対抗戦 村川大介八段対李映九九段
の2局を解説します。
お正月ということで、日本棋士の好局をのんびり楽しんでください。

ところで、私は詳細かつ分かり易い解説を心がけていますが、語りが少し硬過ぎるような気がしています。
来月からはもっと感情を出して、私自身の感動を皆様に直接お伝えするような内容を目指していこうかと思っています。

ご興味をお持ちになった方は、ぜひ日本棋院情報会員にご入会ください!
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