白石勇一の囲碁日記

ほぼ毎日更新、囲碁棋士白石勇一六段のブログです。
著書「やさしく語る 碁の本質」「やさしく語る 布石の原則」発売中!

縦の読み・横の読み

2017年12月09日 20時28分25秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
本日は午前は五反田・午後は永代塾囲碁サロンにて指導碁を行いました。
近年は指導碁を数多く打っていますが、私の仕事の中でも最も楽しい部類ですね。
打つこと自体が楽しいということもありますが、お客様の上達を感じることができる点も大きいです。
何しろ、私自身はもう大きく棋力が変わることはありませんから・・・。
あと2子ぐらい強くなりたい気持ちはありますが、それは流石に無理でしょう(笑)。

さて、本日は読みについてお話しします。
囲碁において読みは非常に重要です。
ですから、読みのトレーニングは有効な上達法とされています。
ただ、注意点として、読みには2種類あるということを知っておきましょう。



<1図>
まずはこの図をご覧ください。
黒が1手目をこう打って、白が2手目をこう打って、黒が3手目をこう打って、白が4手目をこう打って・・・。
このように、数手先を想定していくことを私は縦の読みと呼んでいます。
地面を真っ直ぐ掘り進んでいくようなイメージですね。

「何手先まで読めますか?」という質問は、プロなら誰しも受けたことがあるでしょう。
そして、例えば「60手先まで読むこともある」などと答えると「凄い!流石プロだ!」などと驚いて頂けたりします。
でも、実際にはそんなに凄いことではないのです。
一本道を読むのであれば、プロにとっては10手だろうと100手だろうと難易度に変わりはなく、確認にかかる時間が違うぐらいです。





<2図>
ですが、読みは縦だけではなくにも広がります。
つまり、自分や相手の手には複数の選択肢があるということです。

自分が黒1の手を打ったとして、それに対して相手は白2で何通りか選択肢があります。
そして、そのそれぞれの手に対して黒3の手を打つわけですが、それにもまた何通りか選択肢があり、その枝分かれの先にまた白4をどう打つかの選択肢があり・・・。
と、想定されるコースはどんどん長く、かつ幅広くなっていくわけですね。
例えば、1つの手に対する対応が3通り考えられるとすれば、白2の時点でルートが3つに分かれ、黒3の時点でそれが3倍になり、白4でまた3倍になるわけです。
たった4手のうちに、27本ものルートが生まれました。





<3図>
また、そもそも初手にもいくつか選択肢が考えられるわけで、ここでも3通りとすれば27×3=81本のルートを想定することになります。
ほんの少し先を読もうとしただけでも、かなり大変であることが分かりますね。

そして、その読みを元に初手はどこに打つかを決めることになります。
初手黒Aから派生するルートの中で、双方が最善を尽くした結果の評価はこのぐらいで、同様に初手Bならこのぐらい、初手Cはこのぐらい・・・。
そして、その中で最も黒にとって得なルートが想定できる手を打てば良いわけですね。

ただ、碁を打つ際に実際に虱潰しに読んでいるかと言えば、そうではありません。
こんなことをしなければいけないとしたら、碁を打つ人が誰もいなくなってしまいます(笑)。





<4図>
実際には、ある程度直感に頼って打つことになります。
例えば、初手の時点で正解に見える手を本命に考え、そのルートを掘り進めます。
それはその先の枝分かれでも同様であり、ひたすら本命だけを追っていけば、1本のルートを読むだけで4手先に辿り着くことさえ可能です。

つまり、横の読みで重要になるのは、数ある選択肢の中から直感で正解を感じ取る力です。
簡単な詰碁を解くことを推奨されるのは、これが理由なのです。
沢山の手筋や石の形に触れておけば、実戦で似た形が現れた時に「あっ、これは見たことあるな」と感じられるようになるのです。





<5図>
一方で、やはり碁は勘だけでは打てないところもあります。
時には具体的な図を読まなければいけません。
そこで、石を置かずに頭の中で想定図を作れるようにしておく必要があります。

ただ、頭の中でルートAの図を作り、次にルートBの図を作り、そして両方の図を頭の中で見比べる・・・といったことは慣れないと難しいです。
そこで、まずは一本道の図・・・縦の読みに絞って練習すると良いでしょう。

例えばシチョウ問題などは、縦の読みを鍛えるには最適です。
と言うのは、シチョウは基本的には必要とされる技術はほとんど無く、ただ交互に追いかけていくだけです。
ですから、頭の中で図を作ることに専念することができるのです。

例えば、本図で黒1とシチョウに抱えて白△を取れるかどうかを考えてみましょう。
右上に白×がいて、邪魔になりそうな気配もありますが・・・。





<6図>
結果はご覧のように、無事白を捕まえることができました(黒48だけは多少の技術が必要ですね)。
ここまで、なんと48手もの読みが必要です。
ですが、このぐらいのシチョウは実戦で頻繁に現れます。
普段シチョウを間違えない人は、縦だけの読みならこのぐらいはできるということです。
アマのレベルでもっと長手数の読みを要求されることはまず無く、単純なシチョウがスムーズに読めれば縦の読みは十分でしょう。

いきなりこの長さは厳しいという方は、5手や10手で終わる問題を解けば良いのです。
慣れればだんだん長く読めるようになってきます。
シチョウの他には、ゲタや追い落としなどで石を取る問題も良いですね。


よくポカで石が取られるという方は多いですが、それはうっかりミスというよりも、石を置かずに考える力が不足しているせいかもしれません。
簡単なトレーニングで劇的に改善される可能性もあるので、ぜひ取り組んで頂きたいですね。
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今月の予定&囲碁用語について・その5

2017年12月04日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
まずは今月の私の予定をお知らせします。

12/5(火) 囲碁アカデミー級位者クラス
毎月第1火曜日は私の担当です。
教室の流れとしては、
宿題解答・解説→皆様自身で問題を解く練習→大盤解説→指導碁または生徒さん同士の対局
となっています。
モバイルプリンターを導入したので、指導碁の棋譜をその場でお渡ししています。

12/6(水) 有楽町囲碁センター指導碁
基本的には毎月1回の当番です。
最大3面打ちの指導碁を午前11時~、午後2時~、4時~、6時~の4回転行います。
級位者から高段者まで、お客様それぞれの棋力に合わせた指導をしています。

12/8(金)、12/22(金) ユーキャン囲碁ネット指導碁
毎月第2、第4金曜日にネット指導碁を行っています。
14時~16時半の間に申し込み可能です。

12/9(土) 永代塾囲碁サロン指導碁
今回も13時から大盤解説を行う予定です。
級位者向けで、ご質問には何でもお答えするスタイルです。
また、指導碁の後はその場で棋譜をお渡ししています。

外での仕事が無い日は、大体五反田でお客様をお待ちしています。
最近は土日も営業しておりますので、お気軽にお問い合わせください。


さて、今回は囲碁用語シリーズの最終回です。
テーマは囲碁用語の表記です。

かつて、囲碁用語は漢字で記されるものでした。
例えば尖(コスミ)、征(シチョウ)、粘(つぐ)など・・・。
中国から入ってきた表記を日本語で読ませる形になっており、直感ではとても読めないものも多かったのです。
そのためでしょう、終戦後からは漢字をあまり使わず、カタカナ表記中心となりました。
確かに、カタカナであればほとんどの人が読めますね。
これで碁の本などは格段に読みやすくなりました。

ただ、一方で問題も含んでいるように思います。
それは、読めたとしても意味が伝わりにくくなった用語もあるということです。
例えば、追い落とし(オイオトシ)、打って返し(ウッテガエシ)、ツケ越し(ツケコシ)などは、表記によって直感で理解できるかどうかが違ってくるように思います。
カタカナ表記によって囲碁用語は読みやすくなりましたが、少し行き過ぎているのではないでしょうか。
当時とは現在では、文章におけるカタカナの使用頻度が違いますし・・・。

もっとも、これは難しい問題です。
もし表記を変えると、今までの出版物との統一性は?
小さい子供や外国人などが読むことを想定すると、その対応は?
などなど、考えなければならないことは多いですね。
しかし、囲碁普及のことを考えると、いかに囲碁用語を分かりやすく表現するかといったことも重要になるかと思います。
私自身、毎日文章を書きながら答えを探しているところです。
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囲碁用語について・その4

2017年12月03日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
連日囲碁用語についてお話ししてきましたが、今回で一区切りつけようと思います。
いくらでも語れそうですが、こればかりになってしまいますからね。
それでは、まずは前回の問題の解答を発表します。



<1図>
これが正解です。
正解率は如何でしたか?
フェイスブックやツイッターでの反応を見る限り、やはりしっかりと区別できている方は少ないようです。

まず、自分の石の隣に打つ手がノビ(伸び)という認識をお持ちの方が多いかと思いますが、それは少しずれていると思います。
基本形は並びでしょう。
並びは純粋に形だけを示す用語であり、そして相手の石に直接働きかけない手です。
右下の問題では白が近くにありますが、黒△が白のダメを詰めているわけではありませんね。
この並びを基本として、相手との位置関係や着手の目的によって別の名前が付けられると考えると分かりやすいでしょう。
生物の分類で例えるなら、「ナラビ科ナラビ属」「ナラビ科ノビ属」「ナラビ科サガリ属」・・・といった風になるでしょうか。



<2図>
では1つ1つ見ていきましょう。

上段左の伸びは文字通り先へ進む意図を持った手です。
白に△の所にハネられると矢印方面への進出を止められるので、それを防ぐ手とも言えます。

上段真ん中の押さえは、相手の進出を止める手です。
この手によって白が左側へ進めなくなっていますね。
左図とは出来上がりの形こそ同じですが、黒△の意味は全く異なります。

上段右の下がりは、下(盤端)に向かう手です。
前に向かう手には違いありませんが、向かう先が行き止まりですね。
基本的に地や根拠を意識した手であり、同じ形のようでも伸びとは目的が異なることが多いので、名前が違っているのです。
主に1線~3線、時々4線の時に下がりと呼ばれることが多く、5線以上では大抵伸びと呼ばれます。

中段左の這いは、相手の下に潜り込む手です。
主に隅や辺に向かって進出する目的で打たれます。

中段真ん中は左と全く同じ形ですが、中央でできると押しと呼ばれます。
白が矢印方面へ一歩先に進出していたところに、黒が後から体をぶつけていって、そちらへの道を作ろうとしているイメージです(これは這いも同じですね)。
このように中央で形ができるか、あるいは隅や辺でも自分の石が相手より上(盤端から遠い)である時に押しと呼ばれます。

中段右は引きです。
文字通り、後退する手ですね。
図は下方への進出を目指して黒×にツケたら、白×に押さえて止められたという設定です。
そのまま放っておくと黒×の石が危険なので、上方(矢印方向)に撤退しました。

下段左のブツカリは、まあ見た目通りですね(笑)。
他に突き当たりや、非公式ですが頭突きなどと呼ぶ人もいます。
定義は一歩進んで相手の石に自分の頭をぶつける手であり、着手の目的は含まれていません。
相手の石に圧力をかけたり、自分の石全体を守ったりするために打たれます。
一般的には、あまり良い形ではないとされています。
ですが、相手に対して強制力が強い手なので、先手になりやすいというメリットもあります。


如何ですか?
同じような形でも、これだけ名称があるのは面白いですね。
なお、これらの中で押さえだけは、必ずしも並びの形をしているとは限らないことを付け加えておきます。

一番ややこしいのは、伸びと引きですね。
ここに示した図では問題ありませんが、時にはその手が前に進んでいるのか後退しているのか、判別が難しいこともあります。
伸びと引きに関しては、昔ネット上で連載されていたメイエン事件簿というコラムを思い出します。
その中の1つに、囲碁用語の正しい使い方についての話がありましたが・・・。
確か棋士仲間に異端認定された王メイエン九段が、それでも地球は回っていると主張するような内容だった気がします(笑)。

囲碁用語は慣れていないと難しく感じることもあるでしょうが、違いを楽しむ気持ちで触れて頂ければ嬉しいです。
用語の正しい意味を知っていれば、解説などで見聞きした時、それだけでその手の目的が分かることもあるでしょう。
囲碁用語が分からなくても碁は上達できますが、碁の楽しみ方の幅を広げる役に立つのではないかと思います。

綺麗にまとめた風ですが、新たに書いておきたいことができたのでもう少し続きます。
冒頭の言葉は嘘になってしまいました。
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囲碁用語について・その3

2017年12月02日 14時52分06秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんにちは。
本日は空き時間があったので、珍しく昼間の更新です。
さて、前回の囲碁用語について・その2では、形を示す囲碁用語は意味・目的を含んでいることがあるとお話ししました。
今回はそれを確認していきましょう。



<1図>
まずはこの図をご覧ください。
左上黒△は、前回示したコスミですね。
自分の石から斜め隣に打つ手であり、これは純粋に形だけを示す手と言って良いでしょう。
ですから、黒△の代わりに2路上や2路右、2路斜め右上に打つ手も全てコスミです。

そして、右側の白△が肩ツキ(衝き)であることも前回示しましたね。
では、下辺白△はどうでしょうか?
これは肩ツキではなく、単にカド(角)と呼ばれます。
カドというのは相手の石の斜め隣に打つ手の総称です。
机の角、本の角などと同じイメージですね。
肩ツキもカドの一種なのですが、打たれる目的がある程度はっきりしているため、独自の名前が付いています。



<2図>
1図の後の進行を考えてみましょう。
上辺黒1~白4は、肩ツキからの基本の進行です。
この結果ですが、元々黒石には中央方面への道があったところを、白が上から押さえ付けて妨害したことになります。
大抵の場合、肩ツキはこういうことを目的としているのです。

次に、下辺を見てみましょう。
黒5までの進行を想定してみますと、黒石の中央方面への道は止まっていませんね。
つまり、1図下辺白△には肩ツキと同じ目的は無いので、単にカドと呼ぶことになります。

ところで、また上という表現が出てきましたね。
上が碁盤の中心、端が碁盤の下であるという概念は、慣れないとピンと来ないかもしれません。
一方で上辺、下辺といった表現をすることもあり、ちょっとややこしいですね。
ですが、囲碁用語を正しく理解するためには重要な概念です。



<3図>
意味や目的によって、形の名前が変わることがある・・・。
それを示すために、問題を作ってみました。
8問とも、最後に黒△と打ったところです。
それぞれの黒△は、何と呼ばれる手でしょうか?
解答は次回です。

初段ぐらいの棋力があっても、全問正解できるとは限りません。
囲碁用語を覚えることは、棋力アップのために必須のことではありませんからね。
ただ、覚えておけば解説などを聞いていて混乱することは減るでしょう。
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囲碁用語について・その2

2017年12月01日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
本日は昨日に引き続き、囲碁用語についてお話しします。
昨日は位置を表す用語をご紹介しましたが、今回はを表す用語をご紹介します。



囲碁における形とは、主に既に置いてある石との位置関係を表すものです。
図で言えば赤丸の中の△が付いた手ですね(右下は△に黒が打つとポン抜きができます)。

ここでご紹介した形は、直感で理解しやすい用語が多いのではないでしょうか?
間を空けて打つ飛び、将棋の桂馬の動きと同じケイマ、相手の石にくっつけるツケ、一間飛びのつながりを邪魔する割り込み、相手の肩を上から衝く(圧迫する)肩ツキ、ポンと相手の石を取り上げるポン抜き・・・。
コスミだけは語源が分かり難いですが、小隅とも小角とも言われていますね。
いずれにしても、四角いマス目の隅(角)から隅への、斜めの動きを表したものなのでしょう。

この形を示す囲碁用語も便利なもので、数字を使わずに座標を示すことができます。
位置を示す囲碁用語と合わせれば、「右上星からケイマに打つ」「天元の石に右からツケる」などと表現できます。
プロ同士など、時々会話だけで碁の検討をすることがありますが、それができるのも囲碁用語があってこそです。

ただ、この囲碁用語は非常に便利なのですが、使用に慣れ過ぎていると知識に差がある相手と食い違いが生じたり、あるいは全く理解されないということにもつながりかねません。
その原因としては、1つは囲碁用語の数が非常に多いことです。
我々プロは普段使われる囲碁用語は大体知っていますが、アマの碁の経験・知識は様々です。
ですから、解説しやすくするために囲碁用語を使い、逆に伝わらなくなることが考えられます。
そうならないよう、あまり用語を使い過ぎないことも大切ですね。

2つ目として、棋力が高いほど言葉を省略してしまいがちだということです。
例えば、図の上段中央の手を、「次の手は星下の白から1間飛びして・・・」などと言えば、プロはほぼ白△しか考えませんが、アマの方にはAや左右に打つ手も思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。
気を利かしたつもりで「上に一間飛び」と表現するかもしれませんが、上と言うとAだと感じる方は多いでしょう。
碁盤の中心が上で、端が下であることは前回お話しした通りですが、それも知識が無いと分からないことですからね。
この場合、「5線に一間飛び」もしくは「中央に向かって一間飛び」とした方が通りが良いでしょう。
言葉を省略した方が効率は良いので、なかなか悩ましいところではありますが、伝える相手によって表現方法を変える努力はするべきでしょう。

原因の3つ目、形を示す囲碁用語にはややこしい点があって、それは位置関係だけではなく意味・目的を含んでいることがある点です。
そのため、同じ形でも名前が変わることがあります。
次回、そのことについてお話ししましょう。
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