白石勇一の囲碁日記

ほぼ毎日更新、囲碁棋士白石勇一六段のブログです。
著書「やさしく語る 碁の本質」「やさしく語る 布石の原則」発売中!

明日は指導碁&Master対棋士シリーズ・編集後記

2017年08月29日 23時25分25秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
明日はいよいよ、名人戦挑戦手合が始まりますね!
2年続けて、とてつもなく大きなものを賭けた勝負になっています。
名勝負を期待しましょう!

なお私は明日、有楽町囲碁センターで指導碁を行います。
ご都合の合う方はぜひお越しください。


さて、今回はMaster対棋士シリーズの編集後記です。
文字数制限も無いので、好きなように書いて行くとしましょう。

〇このシリーズが始まるまで
Masterの登場は衝撃的でした。
従来の囲碁の常識では考えられなかった数々の打ち方・・・。
そして、60戦無敗という信じられないほどの強さ・・・。
正直なところ、見なかったことにしたいと思いました。

しかし、私は現役の棋士です。
Masterの打ち方が棋士の対局に取り入れられていくことは明らかで、それに取り残される訳にはいきません。
そこで、モチベーションアップも兼ねてこのシリーズを始めることにしました。
棋士として囲碁ファンに見せる以上、自分なりにしっかり考えなければならないからです。
こうして全60局との戦いが始まりした。

〇Master? 強いよね。序盤、中盤、終盤、隙が無いと思うよ。
Masterは何が強いかと聞かれると、正直なところ困ってしまいます。
布石は先の先まで見据えた打ち方をしますし、中盤の攻めは力強く、凌ぎや捌きも鮮やかです。
大局観に優れていますし、弱点になりがちな部分戦でもミスが見当たりません。
ヨセだけは明らかな損をしますが、そもそも目数の差が縮まることを何とも思っていない感じで、最後は必ず残します。
全ての面で人間を凌駕しており、しかもポカ(バグ)が出ない・・・。
こんな存在に、勝ち目があるとはとても思えません。
2016年3月の李世ドル九段との対局時点でも人間を超えてはいましたが、もはや手が届かないレベルになってしまいました。

その後、AlphaGoの名前に戻って柯潔九段と対局しましたが、正直なところレベルは変わっていないように思えました。
しかし、公開された自己対局の対局を見てまた大変な衝撃を受けました。
強いのか弱いのか、全く分かりません。
多くのアマの皆様は、棋士の手の良し悪しを結果や勘によってしか判断できませんね。
同じことが、AlphaGo同士の棋譜を見る我々にも起こりました。
手が届かないというレベルではなく、もはや離れすぎて霞んで見えます。

〇Master流の流行
シリーズ完結までの7か月の間に、Master流の研究はずいぶん進んだようです。
当然のことではありますが、良いものは取り入れ、使いこなせそうもないものには拘らないという姿勢を取る棋士が多いですね。
AlphaGo自己対戦で打たれた手はまだまだ実験段階だと思いますが、そちらもいずれ落ち着いて来るでしょう。

〇Master流の活用法
「互角とされる定石を打てば良い勝負になる」「自分より強い人の打ち方を真似すれば勝率が上がる」
これらは、非常にありがちな勘違いです。
碁には基本的な石の形や考え方があり、そこを理解していないと付け焼刃になってしまいます。

Masterが選ぶ定石(?)はあくまで1つの型であり、正しく活用できなければ意味がありません。
表面的なものだけではなく、その裏にあるものを感じて欲しいですね。
このシリーズをきっかけに、定石全般についての誤解も解いて頂ければ幸いです。

〇最後に
このシリーズには大変な反響を頂きました。
おかげさまで、やりがいを感じながら取り組むことができました。
ありがとうございました。
なお、三村智保九段のブログでは、私とは違った視点でシリーズを振り返っています。
そちらもぜひご覧ください。
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Master対棋士 第60局

2017年08月16日 19時43分15秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
明日午前10時から、第36期女流本因坊戦挑戦者決定戦、謝依旻女流棋聖吉原由香里六段の対局が行われます。
幽玄の間での解説者は私です。
多くの皆様にお楽しみ頂ける解説を目指しますので、ぜひご覧ください。

さて、本日はMaster対棋士シリーズ最終回となります。
ラストバッターを務めたのは古力九段です。
本来は柯潔九段が打つ予定だったそうですが、体を壊して入院・・・。
Master攻略のために根を詰め過ぎたのでしょうか。

さて、それでは見て行きましょう。
最終回ということで、いつもの倍の分量となっています。



1図(実戦)
黒1と肩ツキしたのは当然Master・・・ではなく、古九段でした。
Masterの打ち筋を逆用するような場面も、本シリーズではよく見られましたね。

と言っても、こういった早い段階で黒1と肩ツキするのは、Masterの生み出した手という訳ではありません。
日本国内の公式戦でも何度も打たれています。
ただ、あくまで個人の趣向の域を出ない打ち方と見做されて来ました。
しかし、Masterの出現により、従来の価値観に疑問を抱く棋士が増えています。

さて、黒1に対して白Aと押せば黒Bと飛ぶでしょうし、白Cの這いなら黒Dと飛ぶでしょう。
大半の棋士は、どちらを選ぼうかと考えますが・・・。





2図(実戦)
Masterは白1のコスミツケ!
コスミツケは最善手になることもありますが、一方で悪手になりやすい手でもあります。
そして、この状況でコスミツケを考える棋士はほとんどいなかったでしょう。

と言うのは、単に白3、黒4となれば白Aと進出する手が残りますが、白1、黒2の交換があるために中央への道が塞がってしまったからです。
この手順だけ見たら、序盤から隅の地を気にした悪手と思えます。





3図(実戦)
しかし、Masterは白1~7まで黒を切断し、両側の黒への攻めを狙っているのです。
後に白Aと挟んだ時、白△は黒Bの滑りなどを防ぎ、予め根拠を奪っておいた手とみることもできます。
一旦隅に引き籠っておいて、外側の生きていない黒石を狙う・・・。
これも一種の壁攻めであり、Masterの得意とするところです。

また、隅が白地になっていますが、これは数字として数えるより、根拠を確保したとみるべきですね。





4図(実戦)
後に白1の挟みが実現しましたが、黒4に対して2子を動かず、右上白5に先行しました。
また、黒8~12の切断に対しても、構わず白13に先行しています。

左右の白△は、どちらも黒を切り離している要石です。
それをあっさりと捨ててしまうとは柔軟ですね。
前図とは状況が変わり、戦うべきではなくなったと判断しているのでしょう。
何という切り替えの早さでしょうか。





5図(実戦)
黒1~5と、中央作戦に出ました。
中央の黒石を全てつなげ、赤で囲ったあたりを全部地にしてしまおうという構想です。





6図(変化図)
これに対して、白が普通に打てばこのような図が想定されます。
中央が大きく、これは黒なかなかのものでしょう。
黒△は痛んでしまいましたが、まだAやBから動き出す余地があります。





7図(実戦)
しかし、Masterの対応は的確でした。
黒4までは前図と同じですが、白5から変化して白9までとなりました。
前図との大きな違いは、前図でBにあった白石が9にあることです。

この後黒Aと外を止めれば、白Cとつないで効率の良い白地が完成します。
白DやEから黒地を荒らす狙いも残り、それでは黒勝てません。





8図(実戦)
そこで、黒1~5まで打つことになりましたが、白6の飛び出しに回られました。
黒7は白Aなら黒Bと切り、白6の石を取ってしまう狙いですが・・・。





9図(実戦)
白1とゆるめた手がまた柔軟です。
黒4の切りで先手で白△を取られますが、白7まで飛び出せれば十分とみています。
この後、黒はAと目一杯に囲って頑張りますが・・・。





10図(実戦)
白△が決め手になりました。
黒Aと遮りたいのですが、白B、黒C、白D、黒E、白Fとなり、黒△が切り離されてしまいます。





11図(実戦)
そこで、黒1~7とかわしましたが、先手で黒△を取っては白十分の戦果です。
白8からヨセに入り、白の優勢は明らかです。
この後、黒は右下隅で生きるなど頑張りましたが、白に安全確実に逃げ切られました。


1月17日から始まったシリーズでしたが、これにてついに完結となりました。
あくまで私個人の見解ですが、Masterの強いところや不思議なところなどを、皆様にお伝えできたのではないかと思います。
なお、後日番外編として、シリーズを通しての感想を改めて記す予定です。


さて、最後にお知らせです。
毎月永代塾囲碁サロンで指導碁を行っていますが、今月は指導碁の前に講座を入れてみようと思います。
時間は未定ですが、40分ぐらいになると思います。
内容は「Master流定石の活用法」です。

Masterは例えばあんな手こんな手を打って世間に衝撃を与えましたが、今では採用する棋士も少なくありません。
アマの皆様も真似したくなるでしょうが、付け焼き刃では逆効果になることも多いでしょう。
そこで、そういった手を上手く使うコツをお伝えしようと思います。

指導碁を受けなくても席料のみでご覧頂けますので、ぜひお越しください。
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Master対棋士 第59局

2017年08月15日 22時07分18秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日もMaster対棋士シリーズです。
Master、Master、Master、Master・・・。
高校球児並の連投ですが、もう完結は目前です。

今回登場するのは周睿羊九段(中国)です。
1991年生まれの26歳、中国ランキングトップになったこともある実力者です。
一部では名前が周鶴洋九段と紛らわしいと評判です(笑)。



1図(実戦)
Masterの黒番です。
黒1と白△を挟みましたが、白は動かず大場に先行するスピード作戦を採りました。
棋士同士の碁と言われても違和感の無い進行ですが、黒がMasterであることが少し意外に感じますね。
AIはスピード重視というイメージがありますが、Masterはこのようにじっくり打つことも多いですね。
やはり、Masterの碁を棋風という枠にはめて理解しようとするべきではないのでしょう。

ちなみに、配石と手番は違いますが、昔依田紀基九段張栩九段の碁に左上の形ができました。
局後の感想は確か・・・。

依田「黒が隅から5、1と2手かけた理屈。足が遅いので白良し」
張「いや、その後白△と黒3の交換をしたことになっている。これは白の悪手なので黒良し」

というものだったと思います。
スピードを重視するか、石の形を重視するか・・・。
棋士にとって永遠のテーマですね。





2図(実戦)
さて、図はその後左下白1と黒△を取った場面です。
左上では意外な変化がありました。
白AとBが見合いで、隅で白全体が生きています(白△が当たりになっていますが、カス石です)。

となると、黒は地が足りなくなってしまったように見えますね。
しかし、私が著書などでしつこく強調していますが(笑)、早い段階で地は気にしなくても良いのです。
自然な着手を続けていれば、必ず得られるものがあります。
では、この碁で黒は何が得られるのでしょうか?





3図(実戦)
ここでMasterの選んだ打ち方は、黒1~5!
白に激しく迫って行きました。
主な目標は白△の一団ですが、下辺に孤立した白×への攻めも視野に入れています。

左上一帯の黒は絶対に死なない強い石で、これらが戦力として役立ちます。
そして、白を攻めている間に、赤で囲ったあたりを大きな黒地にしてしまおうと言うのです。





4図(実戦)
その後、黒△と打った場面です。
白は△を捨て石に、右辺に地歩を進めました。
大きな黒地も作らせておらず、白が上手く打ち回したようにも見えます。

しかし、問題は白×の大石です。
黒△で中央進出を止められていますが、まだ眼がありません。
「大石死せず」と言いますが、周囲の黒石が強いのでかなり苦しい状況になっています。





5図(実戦)
黒1は間接的に白大石の眼を奪った手、一方白2は白Aあたりからの脱出を見て、間接的に大石を助けた手です。
しかし、黒3と眼を取られて白△が全滅してしまいました。
これで地合いは大差で黒良しとなり、勝負あり。
白も頑張りましたが、結局はMasterの完勝でした。

次回、ついに最終回です。
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Master対棋士 第58局

2017年08月14日 22時36分28秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
世界ペア碁最強位戦本戦は、井山裕太九段謝依旻六段ペアが優勝しましたね!
10月上旬には、世界一をかけて柯潔九段-於之瑩五段ペアと対決します。
世界最強ペアに対してどう戦うのか、非常に楽しみですね。

さて、本日はMasterと常昊九段の対局をご紹介します。
常昊九段は、かつて中国囲碁界の頂点に君臨した棋士です。
世界戦でも3回の優勝経験があります。
私の世代では、中国を代表する棋士と言えば、まず常昊九段を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

そんな常昊九段も、近年はトップ争いから外れています。
現在の中国囲碁界のシステムでは、30代以上でトップにいることは難しいようです。
1976年生まれなので、高尾紳路名人と同い年ですが・・・。



1図(実戦)
常昊九段の黒番です。
黒1に対して白2、4の対応は、白A付近に白石が無い場合は良くないと考えられていました。
黒5で黒Bからの切断を狙われますが、それを守るピッタリした手が無いからです。

しかし、Masterの考え方(?)は違いました。
「守る手が無いなら守らなければ良いじゃない」
傷を放置して白Cと打ったり、実戦のように全く別の所に打ったり・・・。

実際、手を抜かれると黒もどう咎めるか難しいのです。
この打ち方を認めたプロも多いようで、公式戦でも時々現れています。

ただ、運用には攻め合いや死活の読みも必要になります。
誰にでも使いやすい型ではないので、そこは要注意ですね。
とりあえず、私には使いこなせる気がしません(笑)。





2図(実戦)
その後、白は左辺で色々やりましたが、黒石を左辺に偏らせるためです。
結果黒は白△4子を取りましたが、左辺に黒は19子あり、差し引き15手かけたことになります。
15手かけてできた黒地は20目ちょっとなので、効率が悪いではないかと主張しているのですね。
また、黒石は内側に籠っており、今後の戦いに役立ちそうもありません。

ただ、問題は外側の白です。
いくら黒石の効率が悪いと言っても、外側の白がボロボロになってはいけません。
白1に黒2と切られ、どう対処するのでしょうか?
次に黒Aと出られると、白2子を取られてしまいますが・・・。





3図(変化図)
白1と2子を助けてみましょう。
すると黒8までの進行が想定されます。
左下白はかろうじて生きただけのつらい格好です。
また、黒8と挟まれると下辺は黒が攻勢です。
この図は白が全くダメですね。





4図(実戦)
実戦はなんと、要石に見える白△を捨ててしまいました!
黒6と抜かれた形は、見た目は白最悪です。
ですが、冷静に状況を確認してみましょう。

まず、白△を抜いたことで、左辺の黒一団はさらに強くなりました。
しかし、左辺の黒は元々強かったので、少し地が増えただけとも言えます。
一方、弱かった白×は、黒〇を取り込んで強い石に変わっています。
どちらが得をしたかは明らかですね。

2図の場面で問題に出されれば私でも正解できますが、もっと前から想定しておくのは大変です。
ましてや、持ち時間の無い早碁では・・・。
この後、Masterは右下でも捨て石を用い、着々と優勢を固めて行きました。
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Master対棋士 第57局

2017年08月13日 23時53分06秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
阪急囲碁まつりは大変盛り上がったようですね。
夏休みは囲碁のイベントが目白押しです。
仕事や学校がお休みの方が多い時期ほど、棋士は忙しくなります。

さて、本日もMaster対棋士シリーズです。
対局者は申真ソ八段(韓国)です。
2000年生まれの棋士ですが、既に韓国ナンバーワンの朴廷桓九段に肉薄しています。



1図(実戦)
Masterの黒番です。
黒3と挟む前に、黒1のノゾキ一本!
以前ご紹介しましたが、何度見ても真似したくない手です(笑)。





2図(実戦)
黒1、3は予定の行動とみられます。
ここは黒4、白1、黒Aと左辺に展開する余地もあるのですが、それをあっさりと捨てました。

また、黒5にも注目したいところです。
ここは黒Bの方から利かす手もあったところで、それを無くすことで黒△の弱体化につながっています。
しかし、黒△は捨てても構わないとみているのです。

つまり、Masterは赤で囲んだあたりの空間を全く重視していないということになります。
実際、そのあたりは50手以上放置されることになります。





3図(実戦)
戦いの中では、黒1~5の攻め方などが特徴的ですね。
黒1、3で「ジリッ、ジリッ」と地道に根拠を奪い、白4には一転、「ガツン」と黒5!
緩急自在の攻め方です。





4図(実戦)
黒1~9も、誰でも打てそうな一歩一歩の打ち方です。
しかし、これが白に反撃や躱しの余地を一切与えない、無慈悲な攻めとなっています。





5図(実戦)
その後黒△に石が来て、下辺の黒地が大きくなりました。
攻めの効果は十分です。
白1、3で黒×を取る手が残りましたが、もう黒は白を攻める必要がありません。
黒4の大場に回り、形勢有利を宣言しました。
この後白Aの突入から意外な変化になりましたが、黒の優勢は揺るぎませんでした。

1月から始まったこの企画も、とうとう残り3局となりました。
ラストスパートで、一気に駆け抜けてしまうつもりです。
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