ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

劔岳・再びの奉納 「前剱へ」

2023年10月31日 17時48分56秒 | Weblog
大岩では、後から登ってきた他の登山者の方々も休憩していた。

実はこの方々(二名)とは、昨日も室堂付近でちょっとだけ会話をした二人で、この後も一日を通して下山時まで追いついたり追い越したりを何度も繰り返した。
劔沢でテント泊をして劔を目指している松本在住のご夫婦であり、会話を聞いているだけで「あぁ山が好きなんだなぁ・・・」としみじみ思えてくる仲の良さが伺える。

さて、ここ大岩に来たら恒例の記念写真を撮らなければなるまい。
嘗て職場の山中間であるAM君とは何度もこの場で撮り合ったものだ。
大岩の穂先に登りポーズを取るのだが、この穂先は高さはないものの結構な危険ポイントである。
安定したスタンスポイントがほぼ皆無状態で落ち着いて立っていることは難しい。
もちろん反対側へ落ちてしまえば・・・それまでとなる。


自分の背丈より少し高いだけの岩峰なのだが、ホールドポイントは多くあり登るには特に難しくはない。
が、いざ上で立ってみようとしても安定した足場が無い。
ずっと立ったままでいることは危険すぎるので、撮ってもらったらすぐに下りることが賢明だろう。


Uさんもチャレンジ。
穂先を見て「無理です(笑)・・・」
登り切ってはいないが、それが大事。


再スタート前に一緒にパチリ。
前剱山頂までもうひと登りだ。

この先にも長いクサリ場があり、そこを登り切って右へと曲がれば山頂が見えてくる。
山頂手前には左右に分かれるポイントがあり、往路(山頂)は右へ、復路は左から合流してくることになる。
かなり目立つペンキマークと文字で記されてはいるのだが、それでも左へと進んでしまう登山者が多く、自分が気付いたときにはその都度ルート変更を教えている。
また、前剱山頂は往路のみしか通過しない。
復路は山頂のすぐ脇下あたりをトラバースしながら通るため、前剱山頂に登ったら是非とも本峰をバックに写真を撮っておくべきだろう。


前剱山頂手前のクサリ場。
クサリを用いずとも登攀はできるのだが、復路は疲労も蓄積されているので下山時は利用している。


ここを登り切れば前剱だ。
徐々に危険性は高くなってきている、ゆっくりマイペースで頑張ろう!

AM9時。
前剱山頂到達。
時間にして約4時間かかってしまったが、これは初めから想定内のこと。
ましてや剱山頂で昼食を食べることを考えればむしろ丁度良いかも知れない。


遠く立山付近からは何度か見てきた劔岳。
Uさんがその劔岳をこれほど眼前で見たのは初めてのこと。
「凄い! これが劔なんですね・・・」
その一言からは、感動だけではない畏怖的な思いもあるような気がした。


自分も一枚。
ここからならタテバイのポイントや平蔵谷も良く見える。
指差ししながら説明をした。

軽く休憩を入れ平蔵の頭へと向かう。
いよいよ劔らしい難所のパレードがここから始まる。

劔岳・再びの奉納 「前剱 大岩へ」

2023年10月25日 19時23分45秒 | Weblog
一服劔でT君と別れ、自分たちは前剱への登攀を開始した。

一服劔から緩やかに下り「武蔵のコル(鞍部)」へと向かう。
そこからいよいよ前剱へのガレた急登攀となる。
往路(登り)はまだいい。
危険なのは復路(下山時)だ。
タテバイ・ヨコバイ・平蔵の頭等々、難易度の高い数々の危険箇所をクリアし、やっと少しは気の休まるエリアへまで下りてきた。
若干ではあろうが気のゆるみが出てもおかしくはない。
しかしちょうどこの辺りから疲労が出始め、下る際の踏ん張りが効きにくくなってくる。
過去の事故統計から見ても、最も件数の多いのが前剱のガレた下りなのだ。
二年前の9月だった。
単独で劔に挑み、下山時に前剱のガレた急斜面から滑落し最悪の結果となった事故が記憶に新しい。
まだ19歳の若き女性で、かなり損傷の激しい見るに堪えないむごい状態で発見された。
二年前は、その事故の直後に二十回目の劔に登っただけにいつもより慎重な登山だった。

覚えているのはそれだけではない。
前剱の登り口(取り付き口)が、ピンクのペンキでかなり大袈裟にマーキングされていた。
しかも今までとは全く違うポイントだった。
推測だが、岩雪崩がひどい為により安全を確保するにはそうするしかなかったのだろう。
それだけガレているのが前剱だと言うことに他ならない。
ちょっと嫌なことを思い出してしまったが、慎重に登攀することには何らかわりはない。

武蔵のコルあたりだったろうか、この辺りはまだ標高はそれほどでもなく高山植物が咲き乱れていた。
夏山ならではの彩りに心が和む思いだ。


純白の花びらが特徴の「ハクサンイチゲ」。
今回奉納する板にも描いた花だ。


ピンクの「ハクサンフウロ」
剣山荘の裏庭にもたくさん咲いていたが、チングルマやハクサンイチゲのように際だって群生になる花ではない。
ピンク色で遠目にも目立つ花なのに、どことなく遠慮がちに咲いているのがなんとも可愛いといつも感じている。
画像右手後方に見えている小高いPEAKが一服劔。

前剱へ取りかかる。
見上げるようなガレ場。
下からでも浮き石だらけの急登攀だということが嫌でも分かる。
事前の打ち合わせの時に、Uさんへ幾つか注意事項を説明しておいた。
・自己確保を優先すること。
・浮き石だらけであり、ホールドポイントやスタンスポイントは必ず目視をして確認をすること。
・先行する登山者には不用意には近づかないこと。(先行者からの落石)
・自身も落石に注意すること。(もしもの時は大声で「ラ~~ク!!!」と叫べ)
・クサリは有効に使用すること。

こんなことを言っただろうか・・・。


見ての通りガレガレの急登攀ルート。
過去に通った「池ノ谷ガリー」ほどではないが、つい落石を起こしてしまいそうになるので集中して登る。

自分が先行し、やや離れてUさんが来る。
時折振り返っては様子を見るが、今のところ問題はなさそうだ。
しばらくはその繰り返しで登攀を続けた。

休憩予定ポイントの大岩が見えてきた。
「ほら、あそこが大岩ですよ。そこまで登ったら少し休みましょう。」
互いに息も切れ切れだったが、目標が見えたことで少し安堵した。


後方中央に見えるPEAKが一服劔。
随分と標高を稼いだかなと感じるところまで登ってきた。
この画像で見る限りだが、これで「落石を起こすな」と言う方が無理にさへ思えてくる斜度だ。

やっと大岩のポイントまで登ってきた。
ここにくれば腰を下ろしてゆっくりとできるスペースがある。
そしてこの区間においては約2/3を登り終えたことになろうか。


大岩真横のクサリ場。
このクサリを登り切れば休憩だ。

ザックを下ろし水分補給をしながら周囲を見渡した。
文句なしの天候に笑みがこぼれた。
「どうですか。ここのガレ場は?」
「想像していたより厳しいですね。でもこの先もっと危険なんですよね。」
「そうですね、確かに危険ですね。でも危険な場所こそ集中すればいいんですよ。確かにいい意味での緊張感は必要だと思っています。つまり必要以上に緊張することはないと言うことですよ。集中すればそれだけ緊張を忘れることができる。俺はそう思っています。」
などと、さもベテランぶった言い方をしたが、自分とて未だに緊張はする。
北方稜線縦走の時は、緊張しまくり状態だったし・・・(笑)
その時いかにして緊張を集中へと変えるかがクリアの手段だと考えている。
ましてやUさんは初めての劔岳だ。
気持ちを少しでもほぐしてやるのが自分の立場だろう。

一服しながらこの先のルートについて説明確認をした。
前剱PEAKまでもう少し!

劔岳・再びの奉納 「RANDEBOO」

2023年10月18日 17時17分41秒 | Weblog
ほどなくして剣山荘に到着した。
小屋の外にはこれから劔を目指すであろう登山者で溢れており、靴ひもを締める人やザックのハーネスを調整している人で一杯だった。


剣山荘の庭で劔沢方面の写真を撮っているUさん。
自分も一眼レフカメラは持ってはいるが、さすがに山に持参するだけの勇気はない。
もし、岩にぶつけてもしたらと思うと「おぉ~恐!」と・・・
考えるだけで無理だと常々思っている。
自分にはコンパクトデジカメで十分である。

小屋の裏に回り一服劔を目指す。
剣山荘の裏は小高い丘となっており、晴れた日には青空と緑のコントラストが綺麗だ。
また、色とりどりの高山植物が咲き乱れ見ていて飽きのこない風景だ。


剣山荘裏の風景。
雲一つ無い青空。
白い雲の代わりではないが、残雪の白がいいアクセントになっていた。


何ゆりかは分からないが、オレンジ色が鮮やかだ。
ピンクの花は「ハクサンフウロ」。
この辺り一面に咲いていた。

ゆるやかに登りルートとなり始めた。
まだ大汗をかくほどではないが、真夏の太陽が差し雲が切れ始めれば遠く後立山連峰の峰峰を拝むことができる。
「あぁまた山に来たんだなぁ」としみじみと思える瞬間だ。


一服劔を目指す。
今日はこのルートのどこかでT君と会えるはずだ。
彼は今日中に室堂まで戻れねばならないから、スタートは間違いなく夜明け前のはず。
どのあたりで会えるだろうか・・・


劔沢をバックにUさん。
見えている建物は剣山荘。
快晴の北アルプス北部に満足かな。


後立山連峰がはっきりと目視できる。
目立っている山は鹿島槍だ。
まだスタートして一時間足らずだが、とにかく気持ちがいい!
空気が美味い!
足取りも軽く心地よい汗をかき始めた。
二年ぶりの劔岳に自分の心が弾んでいるのが分かる。

いよいよクサリ場のお出ましとなった。
とは言っても、一番と二番クサリはクサリを用いずとも無理なく登攀できる。
補助的に使えばいい程度なので危険性は少ないポイントだ。


上からの画像だとかなり急斜面に見えるが、まぁそれなりに斜度はある。

「一服劔までもうすぐですよ。」
着いたら一息入れる予定だが、今回の登山はいつもよりコースタイムはかなりかかってしまうこととなる。
単独であれば自分の場合どんなに休憩を入れても7時間もあれば十分だし、過去には6時間で戻ってきたこともあった。
しかし今回は初めての人を連れての劔岳であり、クサリ場をはじめとした危険区間は倍の時間を要することになる。
つまり、先ずは自分が先行し状況確認をする。
また、Uさんにスタンスポイントとホールドポイントなどをよく見てもらい、後から来てもらう。
往復で正確に何時間かかるかは分からないが、15時頃までには戻れると計算した。

一服劔に到着した。
周囲の山を見渡していると、一人の登山者が下山してきた。
「やっと会いましたね。」
なんとT君ではないか!
「おいおい、一体何時に出発したの?」
「4時前にはスタートしました。」
それにしてもあまりにも早すぎる!
「トレールランニング並の速さだよ。」
と笑って言ったものの、若さとは羨ましい・・・否、恐ろしいと痛感した。


前剱をバックにT君。


空の青と海の碧。
贅沢なまでの自然のグラデーションをバックに三人で記念写真。

お互いの安全を願いここで別れた。

劔岳・再びの奉納 「アタック開始!」

2023年10月09日 16時00分24秒 | Weblog
二日目、劔岳アタック日。
午前4時過ぎに目が覚め、先ずは空の様子(天候)を確認するために外へ出た。
真夏とはいえここは標高約2450m、少し肌寒さを感じた。

劔岳山頂付近には雲がかかっていた。
まぁあの雲の形(状態)だったら問題は無いだろうと確信できた。
すべての雲の形(状態)から天候を予測できるほど知識はないのだが、主なものであれば自分でも十分に予測ができる自信はあった。


早朝の劔岳。
もう少し早い時間帯であれば、見事な朝焼けを見ることができたかも知れない。

朝食は5時からであり、まだ時間に余裕があった。
ゆっくりと一服し、バーナーでお湯を沸かして珈琲を飲んだ。
やっぱり珈琲はレギュラーに限る。
この香りだけでも、こんな山奥にいると言うことだけで贅沢に感じる。

朝食もおかわりをし、腹を満たした。
昼食は山頂でカップ麺とし、あとは行動食で賄う。
日中暑くなることは当然であろうことから、水分はスポーツドリンクが3リットル、水は1.5リットル準備した。
「ちょっと多すぎるかな・・・」とも思ったが、大汗かきの自分にとって過去の苦い経験から『水分と行動食は足りなくなるくらいなら余った方が良い』というのが持論だ。

アタックザックの中身を最終チェックし登山靴を履いた。
ちょうど受付にいた新平さんが一言。
「○○さんなら技術的なことは問題ないでしょうが、かなり暑くなりますから熱中症には気をつけて下さいね。」
と、ありがたい言葉を頂いた。
「じゃぁ21回目の劔に行ってきます。」
笑顔で見送る新平さん。
その笑顔と言葉がすべての登山者に安心感をもたらしてくれている。


登る山が山だけに、靴ひもを締めること一つにしてもいつもとよりちょっと慎重になる。
それが劔岳だ。

雲は取れていた。
ほぼピーカンの青空をバックに、劔岳が眼前に迫っている。
劔沢小屋の庭からもう何百回と見てきたのに、今日もまた新鮮でならない。
本当に不思議な魅力を持つ山だ。


出発前に一枚。
そして6時10分小屋をスタートした。

先ずは剣山荘を目指すのだが、例年よりも雪解けが早くトラバースルートは岩がむき出しになっている区間が殆どだ。
残雪となっていたのは初めのトラバース区間だけであり、少し残念な思いでもある。


残雪を進むUさん。
いつもであれば、まだこの時期はひたすら残雪が続いているはず。
真夏に雪の上を歩くことだけでも、北アルプスに来たんだという感動が得られるのだが・・・

「ここのポイントからは、夜明け前の朝焼けがとんでもなく綺麗に見えるですよ。」
そう、後立山連峰の峰峰が黒くシルエットとなり、広大な空がスクリーンとなって群青、青、黄色、朱、そして赤が見事なまでにグラデーションとなり広がる。
先に進まなければと分かっていても、つい足を止めて見入ってしまう程だ。


2018年の同時期に撮った画像。
今思い出してもあの時の感動が蘇ってくる。

剣山荘に着き一息入れた。
ここは劔沢にあるもう一つの山小屋で、劔岳直下に位置する。
ただあまりに直下過ぎるため、劔の本峰を見ることはできない。
見えるのは前剱だけとなってしまう。
メリットとしては、自分が定宿としている劔沢小屋よりもコースタイムが往復で40分ほど短縮できるということだろう。
では、何故自分が劔沢小屋を毎年利用しているのか・・・
理由はいたって単純で、小屋の庭から劔岳の全景を見ることができるからだ。
コースタイムよりも位置を優先しただけのことだ。
それが最初の理由だったが、今ではご主人の新平さんの人柄に惹かれてと言ってもいいだろう。
予約の電話を入れ、名前を言わずとも自分の声を聞いただけで「あっ、○○さんですね。ありがとうございます。」
そして小屋に着けば、顔を見ただけで「○○さん、お疲れ様でした!」と言ってくれる。
もう外せる訳がない小屋となっている。
また残念ながら昨年に亡くなられてしまった二代目のご主人である友邦さんとその奥さんにも、登山者への惜しみない愛情を感じた。
一言で言えばアットホームで温かいなのだ。
もちろん剣山荘には剣山荘なりの良さがあるのだが、まだ利用したことのない自分には知らない部分だ。


2014年夏。
二代目、佐伯友邦さんと。
「事故のない山にしたい」と常に願い、頂を目指すすべての登山者を見守り続け、また数多くの遭難者の命を救ってきた。
ネパール、ダウラギリ山群にある「グルジャヒマール(7195m)」に世界初登頂を果たしたとんでもない人である。

さて、昔話が多くなってしまった。
一服劔に向けて進もう。

劔岳・再びの奉納 「長かった初日」

2023年10月04日 16時06分26秒 | Weblog
真砂岳をそのままスルーし別山へと向かうトラバースルートへと入った。
時間は予定よりも一時間ほど遅れてしまっている。
到着が少し遅れることを知らせた方が良いと判断し、劔沢小屋へ電話を入れた。
小屋のご主人である新平さんが出てくれて
「遅れても大丈夫ですから気をつけてきて下さい。」
と、ありがたい言葉を頂いた。


別山への登攀ルート。
今日最後の登攀となる。

本格的な登山は本当に久々のことで、身体にきついと感じ始めていた。
当然だろう・・・
4月にお手軽日帰り登山をして以来、山には登っていないこの身体。
ましてやここは北アルプスだ。
無謀と言われても仕方のないことをしていることにもなろう。

(「別山への登りって、こんなにきつかったかな・・・」)
疲労が蓄積しているのが嫌と言うほどわかる。
5分ほど登っては一息つく。
しばらくはその繰り返しだった。
(「ここさへ登り切れば終わりだ。あとは下るだけ・・・」)
分かってはいるものの身体は正直だ。
見上げるのが嫌になるほどPEAKはまだ先だった。


Uさんも頑張っている。
ここで自分が弱音を吐くことはできないなぁ(笑)

時刻は15時30分になっていた。
これ以上の遅れは小屋にも迷惑を掛けてしまうことになる。
別山での休憩を最後にして小屋への到着を急がねばなるまい。
などと、まだ別山に登頂してもいないのに考えてしまっていた。
今はひたすら上を目指すだけだ。

ヒーヒー言いながらも何とか別山に登頂した。
5分だけ休んだら出発だ。
貴重な5分間をどう使うか・・・
先ずは水分とエネルギーの補給。
そして急いで一服・・・かな。


別山山頂にある祠で休憩。
すぐ近くには残雪の名残があり、その上を雷鳥の親子が歩いていた。
ほんの刹那だったが心が癒される思いだった。


残雪の上を歩く雷鳥の親子。
ちょっと分かりづらいが、親鳥の周囲に見える黒い三つの点が雛だ。
今は7月の末、もう二ヶ月もすれば雛は大きく育ち倍以上の大きさになっているだろう。

さてここから別山乗越、そして劔沢小屋に向けて出発だ。
別山乗越へは約30分ほど下る。
一気に行ってしまおう。
途中に小屋へ向かう短縮ルートがあるのだが、それなりに危険なルートであることから通常ルートで向かった。
(自分一人だったら行っていたかも・・・)

別山乗越では休憩無しで、そのまま劔沢へと下った。
チングルマ、ハクサンイチゲ、ミヤマダイコンソウ、コバイケイソウ、シナノキンバイ、タテヤマリンドウ、ヨツバシオガマ等々、色鮮やかに高山植物が咲き乱れていた。
しかし、今日に限ってはその感動に浸っている余裕はない。
愛でるのは明日、明後日でもできよう。


劔沢からも劔岳を見ることは叶わなかった。
「大丈夫! 明日は必ず見ることができるから。」
そう言いながら小屋を目指す。

17時0分。
小屋の手前にある警備隊に寄り、ルートの状況確認だけをした。
そしていつもの手みやげである珈琲の差し入れ。
今回は通常ルートで劔を目指すが、裏劔ルートである北方稜線を縦走する時にいつも適切で確実な情報とアドバイスを頂いていることへのお礼だ。
警備隊の方々は警察官であり、情報提供は仕事である以上は手みやげなど渡す必要はないが、この情報提供とアドバイスと励ましの言葉がどれほどありがたいことか。
これは単独で北方稜線に挑んだ者でしか分からないかも知れない。

17時07分。
やっと劔沢小屋に着いた。
受付を済ませ、登山靴を脱ごうとしていると・・・
「あっ、○○さん、二年ぶりですね。ありがとうございます。夕食は6時(18時)からですからシャワーを浴びちゃって下さい。」
と、廊下を歩いている新平さんから挨拶を頂いた。
ここに来るのも、新平さんに会うのも、もちろん劔を見るのも登るのも、すべて二年ぶりだ。
改めて新鮮さを感じつつも、自分にとってこの小屋は定宿であると思った。

シャワーを浴びてさっぱり!
外で一服を済ませ夕食を待った。
ビールが飲みたい・・・が、今日は我慢。
明日無事登頂し、無事下山し、ここへ戻ったら飲もう。
今日この時、ビールを我慢するだけの価値はある。
それが自分にとっての劔岳だ。


豪華な夕食に感謝!

おかわりは三杯だった・・・かな。
食後にすこしだけのんびりし、明日のアタックの準備に取りかかった。
天候はまずまずの予報だ。

すべての準備が整い、外に出てみた。
星が輝いていた。
「疲れたな・・・」
久々の本格的登山、そして縦走は想定していた以上に身体に堪えた。
だが、あすは劔岳。
自分がもっとも愛する山。
身体はやや心配だが、それ以上に「劔に登れる」という嬉しさが勝っている。
おそらく今夜は爆睡だろう。
歯磨きして部屋へ戻ろう。