ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

劔岳と雲海「奢らずに」

2020年03月23日 00時23分07秒 | Weblog
これで何度目のタテバイ攻略になるだろうか。

不安はない。
あるとすれば奢りや慢心、そして冷えてしまった体の回復具合だろう。

「3分だけ待っててほしい。3分したら上からGOサインを出すから。」
とだけ言い残し岩肌に取り付いた。


N君が下から撮ってくれた画像。

この時覚えていることは、体の冷えから手のひらがやたら冷たく感じていたことだった。
もちろん岩肌の冷たさもあってだろうが、「ちょっと指の動きが・・・」と何となく鈍さを感じていた。


もうすぐタテバイのラストとなる。

この辺りだったらもういいかなと思い、岩壁に取り付いたままの体勢で上からGOサインを出した。


後から画像を見て高低差が分かるようにと思い、敢えて自分の足を入れてみた。

登り始めたN君。
後続者のことは一切気にせず、ゆっくりマイペースで登ればそれでいい。


徐々に距離が縮まってきている。
そうそうその調子。

今度は自分が撮影と指示の場所を変えた。
N君のほぼ真横からの撮影だ。


高度を稼ぐに連れてタテバイの難易度も上がってくる。
尚のこと慎重にゆっくりと!


N君の後続者3名は初めてのタテバイと聞いていた。
後からその人達から聞いた話だが、自分からN君へのアドバイスを聞いていたことでかなり助かったということだった。
まぁそんなことでお役に立てれば嬉しい。


ここからが最後の難関。
特に気をつけることは腕と足を伸ばし過ぎないことだろうか。
伸ばしきってしまうことで次の動作、つまりホールドポイントやスタンスポイントへの動きができにくくなってしまうことだ。


さぁラスト!
ここさへ登り切ればタテバイは完全攻略だ。


っしゃぁ~!
タテバイ攻略おめでとうN君。

後続の3名も無事登り切ることができた。
自然とみんなでハイタッチした。
すると一人の方が「3分待っててと言ってましたけど、1分半でしたよ。みんなで驚きました。(笑)」
おそらくは体が冷えてしまっていただけに、早く動いて回復させなきゃと少し焦っていたのかも知れない。

タテバイを越え、ヨコバイとの合流ポイントも越え頂への最後の登攀を始めた。
すると再び、いや、三度か、あの素晴らしい絶景を目にすることができた。


足が止まる。
もうすぐ山頂であることは分かってはいても、足を止めこの素晴らしき大自然からのご褒美を頂かない訳には行くまい。

劔岳と雲海「体は冷えるけど・・・」

2020年03月20日 00時14分52秒 | Weblog
カニのタテバイ直下で、N君に最終確認の意味を含めてアドバイスをした。
まぁいくら口で説明をしても限度はある。
だがしないよりはずっとましだと思い、敢えて行った。


先行者がいたので、その人の動きを参考にさせてもらった。
(水色のヘルメットが自分)

先行者との距離もかなり空いたので「じゃぁ登ろうか」と思った時のことだった。
ガイドと思われる人が一組の老夫婦を連れて登り始めようとしていた。
(「まぁ先に行かせてもいいかな・・・」)と思い「どうぞお先に」と譲った。
これが間違いの元だった。

順番を待っていたのは自分たちを含めて5人で、ガイドを含めた3人の登攀を下で待つこととなった。

先行者の年齢を考えれば動きがスローでローペースになってしまうことは仕方がない。
そう、そこだけは十分に理解できるし当然のことでもある。
しかしこの老夫婦、そのローペースときたら唖然としてしまう程のものだった。
いや、ローペースだけならまだ「仕方ないか・・・」とあきらめもつく。
手の運び(ホールドポイント)、足の位置(スタンスポイント)が「お・おい! そりゃないよ!」と言うくらいに危ない。と言うよりデタラメだった。
「ねぇ、どこに手を掛ければいいの?」「足はここでいいのかしら・・・」
という信じられない会話が何度も聞こえてきた。
更には、アンザイレンで結んだザイルが体に絡まり身動きができないこともしばしばだった。
(「ザイルは体の内側にまわせばいいだけなのになぁ」)
なんとか体の内側にザイルを移動させるも、何故かすぐに体の外側になってしまい、その都度「ちょっと待って。ロープが邪魔で動けないの・・・」という声が聞こえてくる。

つまり、小声での会話が十分に聞こえてくる程しか登っていないということ。

ガイドの方や夫があーだこーだとアドバイスをするも、一向に改善されるようには思えなかった。

下から見上げながらN君へ一言。
「あまり近づかないほうがいいと思うので、諦めてしばらく待った方がいいと思う。」
すると他の登山者も同じ意見だった。

諦めはついたのだが、ここはタテバイの直下。
つまりは剱の南壁であり、太陽の日差しは一切届かない。
体が次第に冷えてくるのが嫌でも分かった。
両手で体をさすったり、軽くジャンプをするなどして体温の低下を防いで3人が登り切るのを待った。
他の登山者は予備のジャケットを着始めた。

人それぞれに目的があり、いろいろな思いを持って山に登る。
その思いを叶えるための一つの手段がガイドを雇うことだ。
ガイドは承諾をした以上は責任を持って山に登らせる。
ただこのお三方、あまりにも準備不足だ。
もちろん出発前には自主的に情報を取得し、またガイドも情報の提供をしただろう。
基本的なロープワークやクサリ場の登攀技術なども練習はしてきただろうし、そうでなければならない。
いや、そうであったはずだと信じたい。

正直に言えば腹も立った。
「勘弁してくれよなぁ」とも思った。
だが、ひょっとしたらあの老夫婦は、若い頃は一緒に登山を楽しんでいたのかも知れない。
夫の方は剱にも登っていたかも知れない。
だから体がまだ動くうちに「せめて一緒に」という思いで臨んだのかもしれない。
ずっと聞いていると、奥さんへの声の掛け方や口調に優しさを感じるのだ。

下からずっと老夫婦の会話を聞いているうちに、何故かふとそんな考えが浮かんできた。
そう考えると不思議と腹も立たなくなり、「ゆっくりでいいから頑張って」とも思えた。

今はまだそれほど迷惑をかけずに登ってはいるが、自分だっていつかはそうなる。
いや、そうなったら潔く山はやめているかな。(笑)

体はすっかり冷えてしまったが、何故か心温まる思いになったし、逆にいいものを見せてもらった。
さぁ、次は俺達の番だ。
いざ、タテバイへ!

劔岳と雲海「前剱の門そして平蔵の頭」

2020年03月11日 00時08分19秒 | Weblog
いつまでも雲海に見とれているわけにはいかない。
今日の16時くらいまでに室堂へ戻るためにはどれほど遅くなろうとも昼前にはテン場へ帰ることが絶対条件となる。

この先、いよいよ別山尾根ルートの核心部へと突入する。
慣れているルートとは言え、初めてのN君にとっては全く未知のルート。
いい意味で緊張感を持って臨むべきルートだ。

前剱からややトラバース気味に進むと、前剱の門へと繋がる鉄梯子が見えてきた。


画像では分かりにくいが、手前と中央のドーム型の岩峰を結んでいるのが鉄梯子となっている。


アップの画像。
赤い○印が鉄梯子で、その先は岩壁に沿ってトラバース気味に登って行く。

「いよいよだね。ここからが剱の醍醐味だよ。」
あまり緊張させないよう気遣ったつもりの言葉だったが、果たして・・・。


今日は風が殆ど無いぶん立っていられるが、風速10mにもなれば危険極まりないポイントへと急変する。
落ちたら絶対アウト! 


先ずは途中まで自分が進み、ホールドポイントやスタンスポイントを後ろから確認してもらった。

「オッケー! 来て!」


一歩一歩確実に進んでいるN君。
いいよいいよ、その調子。


すぐ後ろから一人の登山者が迫ってきてはいたが、マイペースで確実に進んでとアドバイスをした。
・・・が、この後続者のおじさん、かなり危ない人だった。
つまりはいつも出会う「関わりたくない人」だ。

前剱の門を巻き終えてから、N君にそっと耳打ちした。
「すぐ後ろの人、どう下駄を履かせても剱に登るレベルじゃない。できればあまり関わりたくないんだ。」
それだけ言えばN君も分かってくれた。

この後「平蔵の頭」が待ち構えてはいるが、タテバイの手前に着く前にできるだけ差を広げておきたい。
なぜなら過去にこの時と同じような登山者に「同行させて欲しい」と何度も言われたことがあり、その殆どを断ってきた経緯がある。
理由は簡単だ。
ここに来るべきレベルじゃない。多くの意味で足手まといになることがはっきりしている以上、面倒を見ることはできない。
冷たいようかも知れないが、自分自身で自分の登山レベルを客観的に判断できないような者が来るべき山ではない。
それが劔岳だと考えている。

さて、平蔵の頭が見えるポイントまで来た。

赤い○印が平蔵の頭。

N君には事前に何度も説明をしておいただけに、「なるほど往路だと確かにそんなに高さは無いんですね。」という感想。

さっそく自分が頭を登った。

N君が下から撮ってくれた画像。
なかなかいい感じ(笑)。


頭のてっぺんから見下ろしたN君の画像。

頭のてっぺんからは剱本峰のどでかい岩のかたまりがドドーンと迫って見えた。
「おぉ~いよいよですね。」
「まぁこの先にタテバイはあるけど、N君ならできるからあまり心配しないで。」
とリラックスできそうな言葉をかけた。

先に頭を下り、下でN君を待つことにした。


三点支持、クサリは補助的に、そして確実なホールドとスタンス。
自分と比べてしまうとまだ登山歴は短いが、飲み込みは早くバランス感覚もいい。

平蔵のコルへと進み、ちょっと一息入れた。
前剱の門で見たあの登山者の姿は、振り返ってもまだ見えない。
何となくホッとした。

往路最大の難所と言われている「カニのタテバイ」がすぐ目の前にそびえ立っている。
だがここでもちょっとした問題が起きてしまった。