アイゼンを外せば登攀は飛躍的に早くなる。
体は疲れてはいたが、ここさへ登り切れば小屋に着くという安心感はあった。
雷鳴はもう聞こえなくなっていた。
一抹の悔しさを抱きつつ小屋へ向かう。
息が切れる・・・、されど「もうすぐ」という安堵感。
11時過ぎに小屋にたどり着いた。
玄関に入ると新平さんが受付におり、ちょっと驚いた顔で自分を見た。
すべてを分かった上での一言だったと思う。
「いいんですよ。無事で何よりです。」
泣きたくなるような悔しさはあった。
あったのだが、新平さんの一言で救われた思いだった。
「昨日小屋に泊まっていた四人組の人たちと一緒になったのですが、やはりクライムを諦めて下山し始めました。もう間もなく戻ってくると思います。心配はないからと新平さんに伝えておいて欲しいという伝言を受けました。」
「分かりました。○○さんも残念だったでしょうが、あの天候じゃ絶対に無理をしちゃだめでしたよ。お疲れ様でした。部屋でゆっくりとしてください。」
部屋へ戻り着替えた。
濡れたウェア類を乾燥室へ持って行き、外で一服。
なんという碧い空なんだ。
恨めしいまでの青空を仰ぎながら煙草を吸う。
「これでよかったんだ・・・。俺の判断は間違ってはいなかった。」
自分に言い聞かせるように思った。
もちろん悔しさは残る。
思い切り残る。
だが、間違ってはいなかったと無理に言い聞かせている訳ではない。
何故なら、過去には無理をして遭難や疲労凍死直前まで来てしまったことが何度かあった。
「ここまで来たのに・・・」と、損得勘定が働き怪我に至ったこともあった。
それでも遭難や事故のギリギリ一歩手前程で登頂を断念したことで助かってきたことの方が多い。
今回のことも考えてみれば分かることだが、仮にあの荒天の状況で登攀を続け、仮に登頂できたとしよう。
そして仮に何とか下山し戻って来れたとしよう。
決して褒められたことではないはずだ。
また、それを「すごい」とか言って褒める奴もおかしい。
「悔しいなぁ・・・でも煙草が美味いなぁ・・・」
劔岳と青空を見上げながら、まだ戻ってこないあの人達を待った。
数時間前に雷雨があったことなど信じられない夏空だ。
体は疲れてはいたが、ここさへ登り切れば小屋に着くという安心感はあった。
雷鳴はもう聞こえなくなっていた。
一抹の悔しさを抱きつつ小屋へ向かう。
息が切れる・・・、されど「もうすぐ」という安堵感。
11時過ぎに小屋にたどり着いた。
玄関に入ると新平さんが受付におり、ちょっと驚いた顔で自分を見た。
すべてを分かった上での一言だったと思う。
「いいんですよ。無事で何よりです。」
泣きたくなるような悔しさはあった。
あったのだが、新平さんの一言で救われた思いだった。
「昨日小屋に泊まっていた四人組の人たちと一緒になったのですが、やはりクライムを諦めて下山し始めました。もう間もなく戻ってくると思います。心配はないからと新平さんに伝えておいて欲しいという伝言を受けました。」
「分かりました。○○さんも残念だったでしょうが、あの天候じゃ絶対に無理をしちゃだめでしたよ。お疲れ様でした。部屋でゆっくりとしてください。」
部屋へ戻り着替えた。
濡れたウェア類を乾燥室へ持って行き、外で一服。
なんという碧い空なんだ。
恨めしいまでの青空を仰ぎながら煙草を吸う。
「これでよかったんだ・・・。俺の判断は間違ってはいなかった。」
自分に言い聞かせるように思った。
もちろん悔しさは残る。
思い切り残る。
だが、間違ってはいなかったと無理に言い聞かせている訳ではない。
何故なら、過去には無理をして遭難や疲労凍死直前まで来てしまったことが何度かあった。
「ここまで来たのに・・・」と、損得勘定が働き怪我に至ったこともあった。
それでも遭難や事故のギリギリ一歩手前程で登頂を断念したことで助かってきたことの方が多い。
今回のことも考えてみれば分かることだが、仮にあの荒天の状況で登攀を続け、仮に登頂できたとしよう。
そして仮に何とか下山し戻って来れたとしよう。
決して褒められたことではないはずだ。
また、それを「すごい」とか言って褒める奴もおかしい。
「悔しいなぁ・・・でも煙草が美味いなぁ・・・」
劔岳と青空を見上げながら、まだ戻ってこないあの人達を待った。
数時間前に雷雨があったことなど信じられない夏空だ。