ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

長治郎谷右俣「初めて出会った花」

2019年12月31日 01時23分20秒 | Weblog
ヨコバイの一歩目をスルーしてしまったことへの反省は反省として真摯に受け止めなければならない。
それだけ危険なことを冒してしまったということに他ならない。


ヨコバイを通過中のAM君。
彼もこのポイントは三度目になる。


ヨコバイ → 鉄梯子 → そして長い区間のクサリ場を下山中のAM君。
もうこれくらいのコースはお手のものだ。
安心して見ていられる。

さて、長いクサリ場区間をやっと通過し、平蔵のコルへと下りてきた。
いつもならよりルートに近いポイントで腰を下ろし一息入れるのだが、今回に限っては何故かいつものポイントよりも数メートル高いポイントで腰を下ろした。
特に意味はなく、ただなんとなくそうしただけだった。


赤○あたりがいつもの休憩ポイント。
今回は何故か緑○あたりで休憩を取った。

ザックを下ろし先ずは水分補給。
目の前にはタテバイの岩壁がそびえている。
「さっきは危なかったなぁ。まさか気づかなかったとはなぁ。」
そんなことを言いながら何気なく右手側を見ると・・・。

見たことのない花が咲いている。
「ん? 知らないなぁ・・・」
咲いている数こそ少なかったが、初めて見る高山植物だった。


黄色いイワベンケイに混じって咲いている紫色の花。

「俺、何度も剱には来てるけどこんな花初めて見たよ。AM君名前知ってる?」
「いえ、自分も初めて見ました。」
お互いに名前の知らない花だったが、知らない分だけやけに存在感のある花に見えた。
写真を撮っておけば後日調べることは出来ると思い数枚撮っておいた。


「カニのタテバイ」をバックに一枚。

帰宅後に調べてみると「ミヤマオダマキソウ」というらしい。
高山植物については、名前さへ知らない聞いたことのない花の方が圧倒的に多いが、このミヤマオダマキソウについては、17回も登っておきながら剱で初めて見た花だったということで記憶に残るものとなった。
いや、ひょっとしたら何処かで見ていたのかも知れない。
周囲に目をやることもなく、「疲れたー!」と言いながら体を横たえていただけなのかも知れない。

そしてもう一つの出会いが・・・。


「コマクサ」だ。
高山植物の中でもかなりメジャーなものであり、ややザレた岩場であれば結構お目にかかる機会は多いと言ってもいいかも知れない。
なのだが、実はこのコマクサも剱で見たのは初めてのことだった。
「へぇー、連続で初対面だよ。ほんの少し座る場所を変えただけなんだけどね(笑)。」

僅かに数メートルだ。
その数メートルの違いがこれほど素敵な出会いの場となるとは。
やっぱり剱だ!
まだまだ奥が深いぞ!



長治郎谷右俣「セオリーをスルー」

2019年12月25日 23時42分59秒 | Weblog
山頂までのラスト15分は比較的緩やかな稜線づたいに登って行く。

夜明け前の4時にテント場をスタートし約9時間、劔岳に登頂した。
午後の1時ともなれば山頂にいる人は少ない。
僅かに数人がいるだけであった。


これで17回目の剣岳登頂となる。
ただし別山尾根ルート、早月ルートの通常ルートでは約半数で、残りの半数はバリエーションルートでの登頂となる。
毎年、そして毎回同じことを思う。
「飽きない。この山は決して飽きることのない山だ。」
いろいろな面での新しい発見があり新鮮な登山となっている。
もちろんどの山でもそれなりに新しい発見はあるだろうが、思い入れが強い分この山はいつも新鮮だ。


プレートをじっと見つめた。
(「確かに危険だったなぁ。毎回違う試練が待ってるもんなぁ・・・。」)
しみじみと感じながら越えてきたルートを振り返った。

山頂では15分程の休憩のみですぐに下山を始めた。
その途中で新たな発見(出会い)があったのだが、早朝から長時間のバリエーションルート登攀縦走を続けてきたせいか、危険箇所に対して感覚が鈍ってしまっている自分に気付かずにいた。

下山ルートは別山尾根ルートであり、通常ルートになる。
だからといって劔岳の通常ルートが楽なわけではなく、一般登山道の中でも最強(最恐)クラスであることに違いはない。
なのに何処かで感覚が麻痺しまっていた。
(「下山ルートか・・・。いつものルートになってくれた。あとは楽だな。」)
そんな思いになってしまっていた。

ヨコバイへ向けての急な岩場を下った。
長いクサリ場の始まりだ。
補助的にクサリを用い急な岩場を下って行く。
感覚としては「落ちないように」「足を滑らせないように」「クサリは補助的に」「三点支持で移動」。
これを念頭に置きいつものように下って行く。
だたそれだけだった。

この長いクサリ場の途中に右へ90°曲がるポイントがある。
そこからが「カニのヨコバイ」の始まりとなり、その曲がる時の一歩目の足の置き場が大変重要な意味をなす。
それを無視して曲がってしまうと大けがへとつながり、下手をすれば生命をも失ってしまう。
事実、過去に何人もの命を奪ったポイントでもある。

慎重に下っているつもりだった・・・。
90°曲がり終え、数歩進んでから気付いた。
「ん? 待てよ。今のポイントって・・・。」
クサリにつかまりながら振り返り、AM君に確認してみた。
「ここってヨコバイか?」
「はい、そうですよ。」
「ってことは、俺は足の置き場をスルーしてストレートに来ちゃったってことか・・・。」
「えっ、分からなかったんですか?」
「いや、まったく気付かなかった。やっべぇことしちゃったなぁ。冷や汗ものだ。」
「もう危険に対して麻痺しちゃったんじゃないですか(笑)」


自分がヨコバイと気付かずに素通りしそうになり、唖然としている表情がよく分かる。(笑)

数メートル手前にある90°曲がるポイントにおいて、ヨコバイの始まりだと気付かずにそのまま足を伸ばしてスルーするように曲がってしまっていた自分だった。
結果として曲がることが出来ているから今ここにいるのだが、俺はなんていう初歩的なミスを犯してしまったんだ。
嘗てここで膝に大けがを負って以来、この曲がるポイントでは決して基本を疎かにせずにしてきたつもりだったのに。

「そっか、気付かなかった・・・。いやすまない。危なかった。」
決して侮っていたわけではないが、「慣れ」の様なものもあったのだろう。
そしてバリエーションルートからの解放に気が緩んでいたのだろう。
手綱を締め直す思いで下山を再開した。

長治郎谷右俣「最後のひと登り」

2019年12月20日 18時42分31秒 | Weblog
長治郎のコルに来たのはこれで何度目になるだろうか。
記憶が正しければ今回で6度目となる。
初めてこのポイントに立った時、日本海(富山湾)の海の碧さと快晴の空の青さに感動し、疲労困憊であったはずの自分の体は一瞬で回復してしまった。
それ以来人間の疲労感などというものは気持ちの持ちようでどうにでもなるものだと考えるようになった。
まぁそれに当てはまるのは自分だけかも知れないが・・・。


長治郎のコルに咲いていた高山植物。
おそらくは「イワベンケイ」と呼ばれているもので、時折高所の岩場で見かける。


「イワベンケイ」のアップ。
こうして高山植物に目が行くようになったことが心のゆとりを現している。
本来はいついかなる状況においてもそうでなければならないのだが、実際の現場ともなればそこまでのゆとりを持つことは難しい。

特に大きな問題が起きなければ山頂まではあと30分程度だ。
コルから剱の裏側を見上げながらルートファインディングをする。


幾つかのコースが想定されるが、実際にとったコースは緑色のコース。
記憶にも残っており、後日画像を見ただけでも分かる。

ほぼ垂直の岩壁を越えるポイントに来た時だった。
一瞬顔がほころんだ。
(「あの時と同じだ・・・」)


岩壁に咲く「ミヤマダイコンソウ」。
もう5年くらい前になろうか・・・。
この裏剱ルートを登攀している時に出会ったのがこのミヤマダイコンソウだった。
もちろんそのポイントはこの岩壁のポイント。
このミヤマダイコンソウにどれ程癒されたことか。
「こんなところに・・・。おまえすごいな。」
そう思うと癒しだけではなく励まされた覚えもあった。


この画像が5年前の同じポイントで撮ったもの。

懐かしくもあり、再び励まされた思いだ。
「っしゃ! もう一息だ。」

長治郎谷右俣「ルートファインディング④」

2019年12月12日 00時03分15秒 | Weblog
家で食べるカップ麺と同じ物なのに、こうも味が違って感じるのは「登山」ならではのこと。
体力とカロリーを著しく消費し、空腹ならではの時に食べるカップ麺がこんなにも美味いとは!


絶景がスパイスとなり美味さを増している。
これは間違いのないことだろう。


AM君は「リゾッタ」というフリーズドライ風のご飯。
ベーコントマトクリーム味で自分も食べたことがあり、リゾッタシリーズの中で一番のお気に入りだ。
因みに冬期などで生鮮食材が持参できるのであれば、鶏ささみ肉、タマネギ、ピーマンを小さく切り、さっと炒めて加える。
大量発汗の後であれば、更に少量のケチャップとタバスコをプラスすることでディナーにおける見事なメインディッシュとなる。
是非お試しあれ(笑)。

昼食タイムは20分程で終え、先を急ぐことにした。
が、その前にどうしても確認しておきたいことがあった。
ザックを背負い、北方稜線を見渡せるポイントまで移動。
そのポイントは見下ろせば50m以上はある断崖絶壁だ。
しばし佇み北方稜線を眺める・・・のではなく、足元の断崖を見下ろす。
安堵感だった。
(「良かった。もう完全に大丈夫だ。」)

恥ずかしいかな、去年大規模な岩雪崩を起こしてしまった事による「高所恐怖症」からどれくらい回復出来ているかを確認しておきたかったのだ。
去年は同じこのポイントに立った時、腰に力が入らず生まれて初めて足が竦むという感覚に陥ってしまった。
北方稜線ど真ん中という緊張感の中、ささやかだが嬉しい思いになった瞬間だった。

さて、次は「長治郎の頭(ずこ)」越え、そして「長治郎のコル」への下りのルートファインディングだ。


この辺りはまだルートらしい区間がはっきりとしてくれており助かる。
しかしいよいよ長治郎の頭へと辿り着くと、予定していたルートは雪で完全に塞がれてしまっていた。
「どうします?」
「まぁこれは想定内の範疇だからね。」
と、無理に不安を煽るような言葉は避けた。
もちろん自分とて不安が無い訳はない。
そのために20mのザイルも準備してきている。
ただ使わないにこしたことはないだけだ。

2年前のルートは完全に無理。
じゃぁ去年のルートは・・・。
途中までは行けたが、やはりとんでもない量の残雪が行く手を阻んでおり、アイゼンを装着したところで越えるのは不可能と判断した。
「毎回違うルート探しか・・・。さすがはバリエーションだね。」
などと感心している場合ではない。
また新たにルートを探さなければならないことになった。
「少し登ってみようか。」
先導し、頭の上部へと登ってみた。
もちろんこの僅かな距離の登りでさへルートファインディングであり、無理であったら戻らなければならない。
その判断をしながら一歩一歩登った。

すると目の前に残置ハーケンにしっかりとくくりつけられているザイルがあるではないか。


(「これを使えれば。でもってコルまで伸びていてくれれば・・・。」)

ザイルの伸びている先端を見下ろす。
問題ない。コルまで下りる為の十分な長さを維持してくれていた。
後は支点の具合だ。


支点となっているフィックスハーケンとザイルを触感と目で確認した。
「よし、これなら行けそうだね。」
唯々感謝のフィックスロープだった。


全体重をかけずにゆっくりと下りる。
ザイルはあくまでも補助的だ。
もし、支点が外れたら・・・。
もし、ザイルが切れたら・・・。
怪我は避けることは出来ないが、最悪の結果にまでは至ることはない。
というのが、このザイルを利用するに至った判断だ。
不安と緊張を伴いながらもコルまで下りることが出来た。
「オッケー! 下りてきて!」


AM君が後から続いて下りる。
足場を急に左に変えなければならないポイントがあるが、問題なくクライムダウン。

「助かったなぁ・・・。毎回違うんだもんなぁ。」
お互い笑顔でコルへと辿り着いたが、バリエーションルートの洗礼はもう少し続くことになる。


長治郎のコルから振り返り、クライムダウンした頭を見た。

黄色い線が2年前に越えたルート。
緑の線が去年越えたルート。
そして赤い線が今回越えたルートとなる。

「7月中は残雪が多くてルートファインディングが難しいね。来るならやっぱり8月後半かな。」
「確かに厳しいですね。自分一人じゃ絶対に無理です。」
そう言って苦笑いしていたAM君の顔が印象的だった。

長治郎谷右俣「ルートファインディング③」

2019年12月10日 00時03分09秒 | Weblog
絶対的な自信はなかった。
かといって絶対的に不安ばかりだった訳でもない。
自信と不安、そして楽しみが入り交じった北方稜線のルートファインディングだった。


長治郎谷側に沿って劔岳を目指す。
再び雪渓が稜線にまで迫っていた。
しかしここからでは完全に稜線が雪で埋まってしまっているのか否かまでは分からなかった。
(「どうか溶けていますように。」)
祈るような思いだった。
同時に雪渓を越えたらどう進むべきかを考えていた。
セオリー通りであればやはり長治郎谷側へ少し下るようにして行くべきだ。
画像では最も左側のルートとなるが、それでも一瞬見ただけでは複数のルートが見て取れる。
先ずは雪渓があるかどうかが先だ。

恐る恐る近づくと、幸いにして稜線上に雪はなかった。
仮に残雪があったとして・・・
仮にトレースがしっかりと残されていたとして・・・
仮に踏み跡が固く締まっていたとして・・・
仮に好条件に満たされていたとして、果たしてアイゼンの装着は必要か・・・。
判断に迷うところだろう。
今回はアイゼン不要であったことに感謝したい。

「そろそろモアイなんだけどなぁ・・・」
そう、去年の丁度今頃、劔岳側から北方稜線へと出て、通称「モアイ像」と呼ばれるポイントで昼食を食べた。
今年もその同じポイントで昼食の予定だ。

「腹減ったぁ~」と大声で叫びたくなる程に空腹感を覚えていたが、やっと目線の先にモアイ像を確認することが出来た。
「ほら、やっとモアイだよ!」
「えっ、あっあれですか。去年とは逆の位置から見てるからちょっと分からなかったです。でもやっと飯ですね!」

モアイ像を通り越し、安全に腰と荷物を下ろせるポイントまで来た。
要は去年と全く同じ場所で昼食を食べるということだ。


「なんか、たった一年前ですけど懐かしいです。」
ここまで来れば一度通ったルートだけに彼にとっても一安心ってところだろうか。


予定より30分近く遅れてはいるが、まずまずのコースタイム。
昼食はあまりのんびりとは出来ないが、シャリバテ気味だけにとにかくカロリー摂取だ。


見下ろせば長治郎谷全体が見渡せる。
自分たちが越えてきたルートの一部(赤い線)がよく見えた。
「どう? こうして上から見ると結構な距離だったことがよくわかるだろう。あそこを登ってきたんだから自信を持ってもいいはずだよ。そう滅多に人が来るコースじゃないしね。」
「なんか凄いことやったって感じがします。」
「いやいや、その凄いことをやったんだよ。(笑)」

そんなことを話したことを覚えている。
さてさて、やっとザックを下ろして飯じゃ~!

長治郎谷右俣「ルートファインディング」②

2019年12月07日 02時02分56秒 | Weblog
微かな記憶と事前の下調べ情報を元に進む。
確実に分かっているのは進むべき方向のみであり、ルートではない。

例の岩棚が見えてきた。
二年前の縦走においてかなり危険だと判断したポイントだ。


一般的には赤い線に沿ってトラバースするのだが、青い線づたいに乗り越えることも出来るという情報を得ていた。
「本当か?」とかなり懐疑的ではあったが、トライしてみる価値はあるかも知れない・・・、だが「もし・・・」となると取り返しのつかないことにもなる。
実際にYouTubeでgoプロを装着してここを越えた動画も見たのだが、池ノ谷側の崖に身を乗り出すようにしてギリギリのところを越えていた。
どの方法が最も確実で、最も安全で、最もまともな方法であるのかが分からない。
だったらやはり過去のやり方で通過すべきだろう。

AM君にはこのポイントの通過については十分に説明をしてある。
「もしフィックスロープが無かったら自分がスリングを掛けるから、それを利用してトラバースする。とにかく慎重に通過しよう。」
と言ってある。

岩棚の目の前まで来た。
あの緊張感が蘇る。
左へとほぼ直角に曲がるポイントで立ち止まり、大きく深呼吸をした。
「よし、行くか。」
小声でつぶやき一歩を踏み出す。
少しずつあのピンポイントへと近づく。


5mm程の真新しいフィックスロープがあった。
支点のハーケンはしっかりとしているようにも見えた。
ところがだった。
「ん? こんな程度だったかな・・・」と思える程スムーズに通過することが出来た。
もちろん危険で難しいポイントであることには違いないのだが、二年前に感じた怖さがなかった。
「あの時の緊張感と怖さは何だったんだ」と感じる程スムーズな通過だった。

AM君にはスタンス・ホールドポイントを説明し、通過してもらった。

慎重に一歩ずつ。
そしてクリア。
「ちょっと大袈裟に言いすぎたかも知れないけど、あの時の緊張感は無かったよ(笑)」
まぁ二人とも無事通過したということで結果オーライとしよう。


源治郎尾根と真下の雪渓が見えてきた。
かなりズタズタ状態の雪渓だ。
それを見下ろしながら「あのシュルンド一つ越えるにしても時間がかかるし危険度も大きいし・・・。なんだかんだ言ってもまだ右俣にシュルンドができてなくて良かったよ。」
「本当ですね。去年の平蔵谷の下りで生のシュルンドを初めて体験しましたけど、一つ越えるのでも大変でしたしね。」

緊張感はまだまだ続く。
そして維持しなければならない。
(「早くモアイのポイントまで辿り着きたい。そこで昼食を摂りたい。」)
そうは思っていても、この先は岩稜だけではなく、どこにどれだけの残雪があるのか分からない。
状況によっては僅かな距離のために再びアイゼンを装着する必要に迫られるだろう。


コルの様なポイントの手前で立ち止まる。
残雪がコルのすぐ直下まであったが、なんとかアイゼンは不要と判断した。

こうして一箇所ずつルートファインディングをしながらクリアを続けたが、標高3000m近い岩稜地帯、そして尾根のルートファインディングのミスは命取りとなる。

進むべき方向だけが分かっており、それ以外は地図は役に立たない。
本音を言おう。
「怖い。怖かった」
だから「怖さを乗り越えなければここから剱を目指すことなど出来ない」
なんてカッコイイことは言わない。
怖さと同居しながら時が過ぎているだけだ。

長治郎谷右俣「ルートファインディング」①

2019年12月06日 00時07分50秒 | Weblog
幾たびと「ルートファインディング」という言葉をこのブログで用いてきた。
ルートファインディングは力であり、知識であり、技術でもある。
趣味とはいえ、このルートファインディング力を持っていなければ最悪どうなってしまうのかは言わずもがなである。

などとさも偉そうに綴ってはいるが、ごく初心者向けの日帰りコースであれば地図読みが苦手でもまぁ何とかなってしまうことがあるのは事実だ。
だからといってそのままでいることは極めて危険であり、より多くのより難易度の高い山(ルート)に臨むのであれば必須科目と言えよう。

今回で三度目の北方稜線バリエーションルートだが、今回も幾つかの試練を与えられた。
その一つがルートファインディングであった。

バリエーションルートであるが故に何ら保証も確証もない。
つまり、安全は確保されていない。
道は自分で見つけて判断する。
岩崩れが起きても一切整備はされない。
昨日通れたからと言って、今日通れるという保証はない。
当然、クサリやボルト、ましてやペンキマークなど一切無い。
更には、「ひょっとしてここなら行けるかも・・・」と思ってほんの少し登ってみたがやっぱり無理だった。「じゃぁ一端下りようか・・・。ありゃ、下りられない。どうする・・・」
なんてこともあり得る。
早い話が「行ってみなけりゃわからな~い!」ってことだ。

だからこそルートファインディング力が重要であり、試されることになる。

二年前に初めてここを縦走するに当たって、事前に相当下調べをした。
それでもかなりの不安を残したままとなってしまった。
幸いなことに結果として縦走は出来たが、大きな反省も残った。


池ノ谷の頭から見た劔岳方面への北方稜線ルート。
まだ記憶に浅いルートではあるが、そのすべてを覚えているわけではない。
うろおぼえのポイントもかなりある。

「すっごいですね。本当にすごいです。でも行けるんですよね。」
AM君の感動と不安の混沌とした言葉だった。
「通れなきゃまた右俣を下りるしかないよ(笑)。道を探して自分で決めて通るだけ。」
カッコイイ言葉にも聞こえそうだが、実際には不安だらけだ。

あらためてルートファインディングとは・・・
「地図を読む力。通れる(登れる・降りられる)道を発見する力。 地図、コンパス、高度計などを使いこなし、それらの情報を元にして自分の知識とを照らし合わせ正しいコースを発見する技術。
場合によって経験や「勘」も必要であると思う。

いざ、長治郎の頭まで!

勉強も兼ねてであり、AM君に質問をしながら進んだ。
「どこ選ぶ?」「じゃぁ行ってみようか。」
そんな会話をしながら進むが、別に意地悪をしている訳ではない。
バリエーションルートにおけるルートファインディングの重要性を分かってほしいだけだ。
これからの彼の登山人生において、絶対に避けては通れない課題でもあるからだ。


北方稜線とは言え、あきらかにここは通れるというポイント(区間)もある。
先ずはごく簡単そうなポイントだけAM君に任せることにした。


赤い線で示した様に、幾つかの候補ルートがある。
どのコースを選択するかは一端登ってみなければ分からないことが多い。
そしてこの時大切なことがある。
前述したことでもあるが「登ってはみたが、その先は無理そうだったので諦めた。じゃぁ下りよう。でも危険すぎて下りることが出来ない。」
ってなことにならないようにすること。
そのためには下りることも含め、往復できるか否かを考えて登ることだ。
これってけっこう面倒で、いちいち考え早めに判断することを必要とされる。

面倒がらずに集中して取り組むこと。
すべては自分自身のためである。



長治郎谷右俣「頭(ずこ)を越える」

2019年12月02日 00時15分10秒 | Weblog
山岳地図にはよく「○○の頭」というポイント名が出てくる。
「頭=かしら」と読むことが多いが、この地域一帯ではかしらではなく「ずこ」と読む。
「谷」を「たん」と読むのも同じであり、ある種の方言のようなものと思う。

池ノ谷乗越に到達したら、次は池ノ谷の頭を越えなければならない。
かなり急斜面の岩壁ではあるが、ホールドポイント・スタンスポイントは豊富にあり、ルートファインディングのミスさへなければ結構スムーズに登り切ることができる。


見上げればご覧の通りの見事な岩壁である。
二年前にここを登った時、事前に警備隊の方に言われたことは、赤い矢印のルンゼに沿って登ってしまうと落石が起きた時に避けることが出来ないので、ルンゼの右側(青い矢印)あたりを攻めるとよいというアドバイスを受けた。
今回もそのルートファインディングで攻める。
このことは事前にAM君に何度も言っておいたことであり、彼自身も十分理解している。
あとは焦らずゆっくりと確実にホールドし、数手先を読みながら登攀すればいいだけだ。

「えぇ~ここですか! ネットの動画で見ておきましたけどやっぱり現実は・・・・・」
と、苦笑いしながら言ったが、初めてのチャレンジであれば不安があっても何ら不思議ではない。
「大丈夫、俺が先導するからその後を追えばいい。ただし、万が一の落石もあるから距離をおいてがいいよ。」

先ずは自分がスタート。
できるだけ彼に分かってもらえるようにゆっくりと登り始めた。


一定の距離が開くまで登り、AM君にスタートを促した。


AM君登攀開始。
とにかくゆっくりと確実なホールド&スタンスを取ることだ。


彼が追いつき、再び自分だけでの登攀開始。
落石への細心の注意を払いながら登るが、途中どうしてもごく小さな小石を落としてしまうことがあった。
「ラ~ク! すまん!」
「大丈夫で~す!」
ホッと胸をなで下ろし上を目指す。


この辺りで立ち止まりGOサインを出す。
結構登ってきたがまだ先はある。


順調に来ている。
このまま登り続ければ問題はないだろう。
気付けば八ツ峰の岩峰群がほぼ目線の高さになっていた。


尺取り虫の要領で登り続けた。
まだ、斜度は緩くはなってこない。
(「こんなに登るんだったかな?」)
と、疑問と不安を抱きながらだったが、今更どうすることもできないし唯手足を伸ばし続けた。

AM君が追いつく。
「頭のてっぺんはまだ見えてこないけど、標高的にはかなり登ってきているしもう少しだと思う。最後まで慎重に行こう。」
とだけ言った。


斜度がやや緩やかになり、頭のてっぺんが近いことを教えてくれた。


振り返れば北方稜線を象徴する岩峰が目の前に!
自分の大好きな場所にたどり着いた証でもある。
左から「チンネ」「三ノ窓ノ頭」「八ツ峰ノ頭」。
見事としか言いようがない北方稜線岩峰群だ。


右俣と八ツ峰を見下ろすポイントまで来た。
もうすぐである。


ここまで来ればもう安心だ。
AM君、やったね!


大好きな頭をバックに撮ってもらった。
感無量の思いだった。

ここから100%岩稜地帯を縦走し長治郎のコルへと出るのだが、そろそろどこかで昼食をと考えている。
まだ11時にもなってはいないのだが、なにせ早朝4時の出発だっただけにいい加減腹が空いてきた。
早めに食べて後半戦に繋げるべきと考えた。