ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

劔岳と雲海「前剱へ」

2020年02月25日 00時29分24秒 | Weblog
ようやくヘッデンが不要になりホッとした。

それにしても事前にヘッデンのチェックをしておきながらも結局「まだいいか」と買い換えをしておかなかったこと。
予備のヘッデンはテントに置いてきたままだったこと。
全く持ってド素人じゃあるまいに、なんて様だとあきれかえる程の情けなさだ。
二度と犯してはならない大いに反省すべきことである。

気を取り直していざ前剱への登攀を開始した。
気をつけることはたくさんあるが、これは自分自身のためだけではない。
例えば、浮き石などに乗ってしまい落石を起こしてしまうと、後から登ってくる登山者へどれだけ危険な思いをさせてしまうかだ。
危険な思いだけならまだましな方で、怪我でもさせてしまったらとんでもないことになる。
焦らず慎重に、基本を大切にして慎重に登攀を始めた。

程なくして「大岩」のポイントが見えてきた。

今にも崩れ落ちそうで落ちない「大岩」
このポイントを通過することで現在地が容易に分かる。


大岩のすぐ横を登る。
クサリはあるがそれほど必要性はない。
(本当は利用した方が安全確実なのだが・・・)


N君が大岩の真横にいる。
本当に今にも転げ落ちてきそうな感じだ。


大岩を通過し終え、大岩の上に立つN君。
「両足でピシッとたってごらん」というと、「いやぁちょっと無理です。ここかなり恐いです。」
そりゃぁそうだろう。俺も恐かったしね(笑)。

ここからしばらくはガレ場の登攀となる。
前剱山頂まではそうは時間はかからないのでゆっくりと確実な足取りで挑む。


「もうここから先は100%近く岩場だからね。土は殆ど拝めないと思っていいよ。」
「いよいよ迫ってきたって感じですね。」
N君にも緊張が走ってきているのが分かった。

ひたすらガレ場を登る。
顔を上げ頻繁にルートの確認をする。
ペンキマークを見落としてはいないか。
浮き石に乗ってはいないか。
とにかくルートを間違えやすい区間であることは、自分の体と記憶が嫌と言う程覚えている。

ふと見れば、足元には「イワツメグサ」が咲いていた。

ごく僅かだが、まだ夏の高山植物にお目にかかれたことが嬉しかった。
「緊張の中にも心が和む」
これってすごく大切なことだと思う。


かなり標高を稼いできた。
あと20~30分もあれば前剱山頂だろう。
慎重に頑張れN君!


ここまでくればもうすぐだ。
「もうちょっとで本峰が見えるよ。お楽しみに~♪」
「いよいよですね。楽しみです。」
N君にとっては期待に胸が膨らむ思いだろう。

2813m、前剱山頂。

ドド~ンと迫る劔岳本峰・・・というよりは、眼下一面に広がる雲海に目が行った。


N君曰く。
「本物の劔岳とこれだけの雲海だなんて・・・。今ものすごく贅沢な風景を見ているんですね。雲海は偶然かも知れませんけど、すごく贅沢ですごくラッキーだと思います。」


自分にとっても劔岳でこれだけの雲海は初めてだろう。記憶にない。
晴れていれば本来なら日本海(富山湾)が見えているはずだが、この広大な雲の絨毯は実に見応えのある大自然の風景だった。

スタートからここまで休憩を入れて2時間10分。
実にいいペースで登ってきている。
このままなら剱のてっぺんまであと一時間程で着くはずだ。
だが、N君にとっての本当の試練はここから始まる。


この先には「前剱の門」「平蔵の頭」「カニのタテバイ」「カニのヨコバイ」そして再び「平蔵の頭」と、たて続きに屈指の難所が待っている。
試練と言うには少々大袈裟かも知れないが、その先には乗り越えた者しか味わうことの出来ないサプライズがある。

だから登る!

劔岳と雲海「夜が明ける・・・」

2020年02月13日 21時57分53秒 | Weblog
一服剱までもう少しというポイントまで登った。
「そろそろ夜が明けるなぁ。ヘッデンはもうちょっとだけお世話になると思う。本当に申し訳ない。」
そう言って足元ばかり見つめていた視線を上げた。
東の空が随分と明るくなってきていることに気付いた。


雲海がはっきりと目視できる。
これなら稜線や山頂は間違いなくいい天気だろう。


西側の市街地や富山湾方面はまだ暗いが、雲海はぼんやりと確認できた。


何度も登っているこの山、そしてこのルート。
これだけはっきりとした雲海にお目にかかったのは記憶にない。
ひょっとして初めてかも知れない。
雲の下にいる人たち(住んでいる人たちや登山者)にしてみれば、今日の劔岳は残念なことになっているだろうが、実際に登っている自分たちにとっては素晴らしい自然現象との出会いだった。


ほどなくして一服剱に登頂した。
やや風があり、秋の北アルプスの肌寒さを感じた。
一服剱から間近に見える前剱。
劔岳本峰はこの前剱を登り切らなければ見ることは出来ないが、迫り来る前剱の岩峰を初めて見るN君にとってはたまらない光景に違いない。


更に日が昇り周囲が明るくなってくる。
普段は完全夜型人間の自分にとって、これだけゆっくりと静かに夜が明ける時間の流れを肌で感じるのは登山の時でしかない。


「なんかすごく贅沢な時間ですね。登りたいですけど登るのがもったいないくらい見ていたいです。」
N君の言葉はこんな場所でしか味わうことが出来ない、感じることが出来ない重い言葉に感じた。


今日の16時までには室堂に戻らなければならないのだが、せめてあと5分くらいはこの場にいて静かに夜が明けるのを待っていたかった。

ヘッデンもそろそろ大丈夫かな(笑)。

劔岳と雲海「暗闇の中を登る」

2020年02月09日 00時04分02秒 | Weblog
ヘッデンを灯して山を登った経験はある。
だが、回数にすれば僅かなもので、決して慣れている訳ではない。

N君の灯りが後方から足元を照らしてくれる。
幸いにしてまだホールドしながら登攀をしなければならないポイントは少なかった。
だから自分の足元の凹凸やスタンスポイントに集中していれば何とか安全に登ることは出来た。


おそらくは2番クサリだろうと思う。
日の出方面の空がやや白んで来ているのが分かる。


西側はまだ暗闇の中だが、街灯りが浮かんで見えた。


後方からN君がクサリ場に近づいている。


ストロボを用いればこの通りハッキリと分かる。

日の出が待ち遠しかった。
一刻でも早く自然の灯りに照らされて登りたかった。
もちろんそれは安全のためでもあるが、N君への申し訳なさでもある。
勝手な推測だったが、一服剱へ出る頃にはヘッデンも不要になってくれるだろうと思っていた。
だからそれまでは何が何でも足元への細心の注意を怠ってはならない。


後方を振り返った。
雲海らしき風景が目に入ってきたが、まだその風景を愛でるだけの余裕はなかった。
「俺が危険であることに違いはない。でもそれを補うためにN君自身も危険な状態なんだ。」
ずっとそのことを考えながら登り続けた。

日の出が心から待ち遠しい。

劔岳そして雲海「何という失態!」

2020年02月04日 23時20分24秒 | Weblog
翌早朝(深夜)、3時に起床し珈琲を飲む。
そっとジッパーを開けテン場と空の状況を確認した。
テント内に灯りが点いているのは自分とN君の他に数張り確認できた。
(「へぇ~やっぱり(他にも)いるんだ」)と思った。

空には星が瞬いている。
(「これなら行けそうだ」)
言葉として口にこそ出さなかったが、思わずニンマリだった。

今日はひょっとしたらまともに昼食を食べる時間すら無いかもしれないと思い、いつもより多めに朝食を食べた。
かといって食べ過ぎてしまうと動きが鈍くなるので難しい加減だった。

4時10分、予定通りにテン場を出発した。
ヘッデン(ヘッドランプの俗称)の灯りがやや心もとない明るさにも感じたが、予備の電池は持ってきているので心配ないだろう。
そのままテン場を通過し、剱沢小屋方面へと下った。

劔沢小屋を越え、剱沢雪渓へと下る途中で、やはりヘッデンの灯りの弱さが気になった。
「ルートがルートだし、やっぱり電池交換しておくね。悪いけどちょっとだけ待っていてほしい。」
と言い、アタックザックの中から新しい電池を取りだした。
N君のヘッデンの灯りに助けられながら交換終了。
「よし、これで安心だ」と思いスイッチを入れる・・・が、点かない。
「へっ、なんで?」
+-を間違えたのかと思い確認するがそれはなかった。
冷や汗ものだった。
日の出まではまだ一時間程ある。
その間ヘッデン無しでどうやって剱に挑む・・・。
何度やってみても点灯はしなかった。
「ひょっとしてこれって電池の問題じゃなくて、電球そのものの方かも・・・」
恥ずかしいかな、未だに7年以上も前の白熱電球タイプのヘッデンを使用している。
今の時代誰もがLED電球を使っているのに、時代遅れも甚だしい限りだ。

予備のヘッデンはテントの中だった。
今更戻っても・・・。
N君と相談し、N君にすぐ後ろから照らしてもらうことにした。
もちろんN君自身の足元を最優先するが、幸いにスイッチを「High」にすればかなりの広範囲を照らすことが出来た。
「いや、本当に申し訳ない。情けないとしか言えない。」
こんな凡ミスは初めてだった。
道具を長く大切に使うことは大切だが、交換のきかない電球をいつまでも使っていることは危険だ。
「そろそろLEDに買い換えようかな。」と思ってはいたが、そのそろそろがいつまで経ってもそろそろのままとなっていた。
その「つけ」がよりによって剱で来てしまったのだ。


雪はすっかり溶けていたが、剱沢雪渓をトラバース。
後方からのN君の灯りだけが頼りだった。

何度も歩いたルートだったが、さすがにヘッデン無しではどうすることも出来ない。
申し訳無さと情けなさとが混沌としながら歩き続けた。
(「剣山荘」を越えたら少しずつ登攀になる。危険さは増してくる。」)
そう思うとガイドを買って出たくせにヘッデンが故障だなんて、失態の極まりだ。

あれこれと考えるが、気持ちを切り換える必要があった。
これから先はクサリ場も出てくるし、慣れたルートでもこの暗闇では集中して臨まなければ転落は免れない。
緊張の中での登攀となった。


「一番クサリ場」に到着した。
普段はこの一番クサリは使用したことはなかったが、今回はそんなことは言ってられなかった。
先ずは安全第一、左手で補助的にクサリを利用して登った。


さすがにこの画像だけでは正確なポイントは不明だ。
おそらくは一番クサリと二番クサリとの間だろう。

スタート時と比べればやや空は白み始めているが、まだまだヘッデンの灯りは必要だ。
N君には本当に申し訳なかった。