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社会が豊かになれば個人主義的な価値観が必ず優位となる

2020-11-15 06:00:00 | 読書ノート
ロナルド・イングルハート『文化的進化論:人びとの価値観と行動が世界をつくりかえる 』山﨑聖子訳, 勁草書房, 2019.

  「世界価値観調査」1)の主導者による、国際比較とトレンドの分析という内容である。メスーディ著と邦訳タイトルが似ている(原題はまったく同じ)が、本書は生物学な進化論とは無関係であり、価値観の変容に一定の方向性があるという意味で「文化の進化」を使っている。原書はCultural evolution : people's motivations are changing, and reshaping the world (Cambridge University Press, 2018.)。

  世界価値観調査によって、世界各国は「非宗教的・理性的価値vs.伝統的価値」の軸と、「生存価値vs.自己表現価値」の軸の二つでできた図の中に位置づけることができるという。その結果は「イングルハート‐ヴェルツェル図」として下記サイト2)で見ることができる。途上国においては生存価値と伝統的価値が高く評価され、先進国では世俗的価値(=非宗教的・理性的価値)と自己表現価値が評価される傾向にある。日本は儒教圏として高度に世俗的でかつ中位の自己表現価値を持つ国として位置づけられる。

  著者の言う「文化の進化」とは、経済が発展して生存が当たり前になれば、必ずや個人主義や自己表現が重視されるようになるということである。一方で、宗教は衰退し「自国のために戦う」と答える国民は減少する。こうした傾向は、調査結果の経年的変化で確認できる。価値観の変化は民主制度の導入に先行する。しかし、例外的に見える現象もある。先進国における排外主義である。これは、オートメーション化の進展による雇用構造の変化の結果生まれた「文化的」なものだと解釈され、排外主義支持者の生存価値が脅かされているわけではない、と著者は分析する。

  以上。なるほどと思わせる議論であり、大雑把な傾向は著者の記すとおりなのだろう。ただし、ヨーロッパにおけるイスラム系住民を上手く説明できていないので、そうだとすると排外主義の分析は不十分である。また、旧共産圏の混乱への分析もあるが、そこで示されたように国家体制の崩壊が幸福感を低下させるならば、混乱より安定のほうがマシということで権威主義的体制を国民が支持し続ける可能性も高いはずだ(中国とか)。そういうわけで、世界のリベラル化の傾向に対してそう楽天的に構えていいものかという疑問が残った。

1) World Values Survey Database http://www.worldvaluessurvey.org/

2 「世界価値観調査」の視覚的表現 http://wvs.structure-and-representation.com/
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