The Smiths "The Queen is Dead" Rough Trade, 1986.
前回の続き。これはオリジナル・アルバムとして三作目(1985)で、やはり彼らの代表作。前作と比べてかなりマイルドになり、落ち着いて歌を聞かせようとする楽曲が増えた。激しいのは一曲目のタイトル曲'The Queen Is Dead'だけ。ギターにワウ効果をかけて疾走するドライブ感のある曲で、演奏が6分以上に及びこのバンドとしては大作である。歌詞は、スパナとスポンジを持ってバッキンガム宮殿に乗り込んだ青年と女王陛下との噛合わない会話でできている。同じくアンチ王室のSex Pistolsの名曲'God save the Queen'に比べればずっと柔和な表現だろう。
この曲以降、スカビートにのせて「音楽史に名を残したいので仕事を辞めます」と嫌いな上司に告げる'Frankly,Mr Shankly'(track 2)、うめくように一人ぼっちの現状を歌うスローバラード'Never Had No One Ever'(track 4)、オスカー・ワイルドら文学者の墓参りを爽やかに歌う'Cemetry Gates'(track 5)(アコギの速いコードストロークが本当に気持ちいい)、「ジャンヌダルクの気持ちがよくわかる」と吐きつつ「僕は人類の仲間に入れてもらえない」と歌詞が展開する、同じく速いストロークを聴かせる'Bigmouth Strikes Again'(track 6)、後半のモリッシーのスキャットが気持ち悪くてかつ美しい、軽快な'The Boy with the Thorn in His Side'(track 7)(「心に茨を持つ少年」という邦題が付いている)、普段は偉そうにしている牧師が屋内で女装して踊っているところをこっそり覗いてしまうカントリー調の'Vicar In A Tutu'(track 8)、何については明らかにしないが「ある少女たちは他の少女たちより大きい」と物憂げに繰り返す'Some Girls Are Bigger Than Others'(track 10)と続く。
しかし、このアルバムのハイライトは'I Know It's Over'(track 3)と'There Is a Light That Never Goes Out'(track 9)である。二曲とも地味で暗めだが、孤独な心に沁みる名曲である。前者は「あなたがそんなに面白い人なら、そんなに賢い人なら、そんなに人を楽しませるタイプなら、そんなにいい男なら、どうして今夜は一人ぼっちなの?」とたたみかける。後者は、夜のドライブ中に「二階建てバスにぶつかって死んでもあなたと一緒なら本望だ」と流麗なストリングスにのせて歌い上げる。前作の歌詞における「死ぬ死ぬ」連呼には性急さを感じてしまうが、本作の場合、楽曲と演奏に聴き手の共感を獲得する説得力がある。青臭さはもちろんあるけれども、歳食った後に歌詞を眺めてみても、笑えるような感覚はなく、奇矯な言葉遣いなのにしみじみとさせられる。
個人的には、この作品に関しては冷静になれないそうもない。まさしく厨坊のときにLPで聴いたのが最初だが、中年なった今でもしっくり聴けるアルバムである。
前回の続き。これはオリジナル・アルバムとして三作目(1985)で、やはり彼らの代表作。前作と比べてかなりマイルドになり、落ち着いて歌を聞かせようとする楽曲が増えた。激しいのは一曲目のタイトル曲'The Queen Is Dead'だけ。ギターにワウ効果をかけて疾走するドライブ感のある曲で、演奏が6分以上に及びこのバンドとしては大作である。歌詞は、スパナとスポンジを持ってバッキンガム宮殿に乗り込んだ青年と女王陛下との噛合わない会話でできている。同じくアンチ王室のSex Pistolsの名曲'God save the Queen'に比べればずっと柔和な表現だろう。
この曲以降、スカビートにのせて「音楽史に名を残したいので仕事を辞めます」と嫌いな上司に告げる'Frankly,Mr Shankly'(track 2)、うめくように一人ぼっちの現状を歌うスローバラード'Never Had No One Ever'(track 4)、オスカー・ワイルドら文学者の墓参りを爽やかに歌う'Cemetry Gates'(track 5)(アコギの速いコードストロークが本当に気持ちいい)、「ジャンヌダルクの気持ちがよくわかる」と吐きつつ「僕は人類の仲間に入れてもらえない」と歌詞が展開する、同じく速いストロークを聴かせる'Bigmouth Strikes Again'(track 6)、後半のモリッシーのスキャットが気持ち悪くてかつ美しい、軽快な'The Boy with the Thorn in His Side'(track 7)(「心に茨を持つ少年」という邦題が付いている)、普段は偉そうにしている牧師が屋内で女装して踊っているところをこっそり覗いてしまうカントリー調の'Vicar In A Tutu'(track 8)、何については明らかにしないが「ある少女たちは他の少女たちより大きい」と物憂げに繰り返す'Some Girls Are Bigger Than Others'(track 10)と続く。
しかし、このアルバムのハイライトは'I Know It's Over'(track 3)と'There Is a Light That Never Goes Out'(track 9)である。二曲とも地味で暗めだが、孤独な心に沁みる名曲である。前者は「あなたがそんなに面白い人なら、そんなに賢い人なら、そんなに人を楽しませるタイプなら、そんなにいい男なら、どうして今夜は一人ぼっちなの?」とたたみかける。後者は、夜のドライブ中に「二階建てバスにぶつかって死んでもあなたと一緒なら本望だ」と流麗なストリングスにのせて歌い上げる。前作の歌詞における「死ぬ死ぬ」連呼には性急さを感じてしまうが、本作の場合、楽曲と演奏に聴き手の共感を獲得する説得力がある。青臭さはもちろんあるけれども、歳食った後に歌詞を眺めてみても、笑えるような感覚はなく、奇矯な言葉遣いなのにしみじみとさせられる。
個人的には、この作品に関しては冷静になれないそうもない。まさしく厨坊のときにLPで聴いたのが最初だが、中年なった今でもしっくり聴けるアルバムである。