29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

芸術への資金援助は「間接的な方法」が良いとのこと

2013-11-04 16:47:21 | 読書ノート
タイラー・コーエン『アメリカはアートをどのように支援してきたか: 芸術文化支援の創造的成功』石垣尚志訳, ミネルヴァ書房, 2013.

  文化政策論で、一国の芸術活動をどうファイナンスするかについての考察。著者は経済学者だが予備知識は不要。原書は2006年刊の"Good & Plenty"で「良い作品を豊富に」という感じかな。芸術を支援する哲学的根拠については説得的とは言えないが、どのような方法がもっとも適切かについては詳細に議論されている。

  米国のこれまでの文化政策を振り返りながら、直接助成より間接助成の方が成功しており、今後もそちらを重心においた方が望ましいと説く。直接助成とは、芸術家に直接に資金援助する方法である。だが、政府および地方自治体の関与は、芸術の境界やら助成に値する芸術家やらをめぐる面倒な批判にさらされること間違いなく、結果として投資が保守的になる恐れがある。一方の間接助成とは、芸術活動を支援する財団や大学を資金援助したりそれらに対する寄付金の免税をするなどの方法であり、それぞれが資金を集めてマイナーな芸術家に投資する。結果として競争的な状態を保ち、国全体の創造的な活力を保つことができるという。

  間接助成中心の米国の芸術支援制度については、仏人マルテルの『超大国アメリカの文化力』(1 / 2)の方が事例豊富で面白い。だが、本書は米国も実はヨーロッパ諸国のように直接助成をやっていると明らかにするところと、前衛芸術と大衆文化の関係まで視野に入っているところがポイントだろう。前者を支援することはポップカルチャーにも波及し、全体としての米国文化の魅力を高めるということである。

  あと細かい点。「オープンに意見が言えるような状態が重要」とよく肯定的に語られるが、本場米国でさえ公的支出をめぐる議論は当事者を委縮させるものであるということがわかる。批判の存在は公共政策を保守的なものにする。どこの国でも、面倒な議論は避けたいものなのだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする