熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

クリス・アンダーソン著「メイカーズ」

2013年06月04日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   この本のタイトルの「メイカーズ THE MAKERS」は、製造業一般をさすのではなく、「デジタルツールを利用して画面上でデザインして、デスクトップの工作機械でものづくりを行うメイカーズで、次に、ウェブ世代のこのメイカーズは、当たり前に自分の作品をオンラインでシェアする。モノづくりのプロセスにウェブ文化のコラボレーションを持ち込むことで、メイカーズは、これまでのDIYに見られなかったほどの大きな規模で、一緒になって何かを創り上げて行く。」のだと言う。

   すなわち、メイカーズは、DIY(専門業者に任せず自分でものを作る)ムーブメントをオンライン化することで、オープンソースによってパブリックの場でものづくりを行うことで、巨大な規模のネットワーク効果を生み出す、デジタル・マニュファクチュアリングとパーソナル・マニュファクチュアリングが一体となって起こる第三次産業革命ともうべき、メイカーズムーブメントの産業化であって、これが、次代の製造業の大きな潮流となると説く。

   まだ、製造業としての段階ではプリミティブだが、CADで作成したデザインを、3Dプリンタやレーザーカッター、CNC装置で作成して、製品として、インターネット販売すると言った総てICTデジタル・システムで成り立つメイカーズムーブメントが、小規模ではあるが発生している。
   これは、序の口だが、10年後には、このオープン・ビジネスを基にしたデジタルDIYものづくりが、当たり前になると言うのである。
   インターネットが、出版、放送、通信を民主化した結果、あらゆるデジタル活動に人々が参加するようになり、参加者の裾野がが爆発的に広がりビットのロングテール現象が起こったが、同じことが、個人が自分でものを作って発信すると言う製造の分野でももののロングテール現象が起ころうとしているのである。

   また、個人的に、高度な3Dプリンタや製造機器がなくても、CADファイルをアップロードすれば、見積もりを取ることが出来、世界で最高の製品を最安値で調達することが可能になっている。
   アマゾンの創始者ジェフ・ベゾフが関係するMFGドットコムは、世界最大のカスタム製造委託会社で、50か国に20万人以上の会員を持ち、これまでに1150億ドルを越える取引をしており、その取引品目は、日用雑貨から高度な製品まで多岐にわたると言う。
   製造業のサプライチェーンのすべての参加者が、CADから電子機器まで、総て同じファイル形式を使っているので、同じ言語で共通のプラットフォームを形成しており、情報伝達ロスもなく、取引コストはぐんと下がる。
   MFGは機械工場向けのサイトだが、中国のアリババ・ドットコムは、このモデルをあらゆる人のためのあらゆるものへと拡大しており、今や、世界のどこからでも、自分のデザインした作品を製造して、世界へ販売できるルートが整ったとと言うことなのである。

   このメイカーズムーブメントによって、デスクトップの制作機械と製造請負サービスが手軽に利用できるようになったおかげで、アイデアさえあれば、誰でも本格的な製造業を始められるようになり、また、ウェブのお蔭で、こうした製品をグローバルに販売できるようになった。
   物理的なモノづくりの世界での参入障壁が、急速に著しく下がったので、起業を促進する環境が生まれたことになる。

   しからば、次は、資金調達だが、アンダーソンは、サポーターや未来の顧客が商品の製造に必要な資金を援助する「クラウドファンディング」について紹介している。
   面白いのは、「キックスター」と言うシステムで、支援者が、一定以上の金額を、プロジェクト立ち上げ時に支払って、商品を予約する形式で資金を集めるやり方で、既定数に満たなければプロジェクトはポシャるのだが、非常に重要な利点は、初期段階に資金が調達できるのみならず、顧客をファンのコミュニティに変えると同時に、市場調査が必要がないと言うことである。
   ここで、興味深い記述は、ソニーが新製品のスマートウォッチを販売しようとした時に、キックスターが、先を越して、
   ほんの数人のメイカー的な起業家が、デザインでもマーケティングでも価格でも、世界最大手のエレクトロニクス企業の上を行く製品を作ったのだと紹介していることである。
   大きな車は回りが遅いと言うよりも、はるかに優れた逸材をグローバルベースで糾合出来るオープンビジネス、オープンイノベーションの勝利と言うべきだと思っている。

   このメーカーズムーブメントが、大企業を変えると言う章で、自動車産業と言う製造業中の製造業の雄である巨大産業を換えつつあるとして、このメイカーの原則に則って経営されているUSAのローカルモーターズを紹介している。
   自動車デザイナーがアイデアを公開し好きなデザインを選ぶサイトを立ち上げて、デザインをクラウドソーシングして、既成部品もほぼ同じように選ばれる。アイデアはオープンで特許で守らないので、他者がその上にアイデアを積み上げて全員で改善してゆき、また、在庫を持たず、買い手が頭金を支払って製造日を予約した後に、部品を買い付けて準備する。トヨタがジャストインタイム方式で部品を供給するサプライヤーたちの生態系を変えたので、必要なものはほぼ市場で調達できるようになったので、顧客の住む場所に近い工場で組み立てられる。

   
   更に、アンダーソンは、デジタル工作ツールで何でも内製する宇宙開発のスペースXシステムを自動車に応用しようとしている、多目的型のKAKUロボットが活躍している殆どオートメのテスラ社についても紹介していて、次代の製造業が如何にあるべきかを示唆していて非常に興味深い。
   デジタルマニュファクチュアリングが進行すればするほど、そして、クリエイティブ時代に突入して、多様化と更なる価値の創造が求められる傾向が強くなってくると、従来のマス・マニュファクチャリングが機能不全となり、分散化・民主化が進むと考えられる。
   このことは、ネットショッピングなどの商業やサービスやメディアなどソフトの世界で起こっていることが、正に、ハード、すなわち、ものづくりの世界で、起ろうとしてしていると言うことであろう。

   今日、産経電子版に、”「3Dプリンター」広がる期待と不安 “夢の工作機械”下請けに危機感”と言う記事が出ていたが、既に、メーカーズムーブメントの大きな潮流が、日本経済をも揺さぶり始めている。
   ICTデジタル革命によって、前述したように、個人も中小企業も、大企業と同列でメイカーズを営める時代になったのであるから、産業構造が大きく変わらざるを得ない、謂わば、下克上の時代に突入したと言うことである。

   アンダーソンは、このメイカーズムーブメントの進行によって、労務費等人件費の比重が低下して、グローバル経済が、コスト平等に近づくので、中国など恐れるに足らず、USA製造業にも未来があると語っているのだが、いずれにしろ、このメーカーズムーブメントの新しい潮流に、どう対応して行くのか、企業のみならず、国家としても考えなければならないことであろう。
   
   
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