熟年の文化徒然雑記帳

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高学歴軽視の日本と、必死に高等教育を推進するオバマ

2013年08月21日 | 政治・経済・社会
   この口絵のグラフは、ホワイトハウスから送られて来たメールマガジンの、President Barack Obamaからの「A personal mission」の「This is why it's time to make college more affordable」に添付されていたものである。

   1980年初頭からの30年間に、典型的な家族所得は、16%しか増えていないのに、4年制の公立大学の学費は、257%の増加、約3倍になっており、そして、奨学金や学費融資を受けた学生の卒業時の負債額が、26000ドル(260万円)にもなっていて、とてもじゃないが、このままでは、アメリカの若者たちの大学への門戸は、益々狭くなって行く。
   アメリカ人の庶民にとって、大学教育を、もっともっと、手の届く状態にすべく大胆な改革を実施する必要があり、特に、ミドルクラスの安全安寧のためには、大学教育を手軽に受けられるような状態にすることこそ、正に、かなめ石だと言うのである。

   同じ資料に添付されていたもう一つのグラフが、次の図である。
   
   上段から下段に行くにつれて、学歴水準が落ちて行き、左右の鉛筆は、左手の赤が失業率、右手の黄色が週当たりの所得額である。
   これを見れば分かるように、MBAやロースクール、メディカルスクール等プロフェッショナル・スクールを出た大学院卒が一番有利だが、学歴が下がるにつれて、失業率が高くなり、給与も下がって行く。
   いずれにしろ、現在、アメリカ経済が苦境にある大きな原因の一つは、中産階級ミドルクラスの没落で、この層を厚くするためには、大学教育を受ける機会をもっともっと与えて、生活水準をアップすることが必須だと、オバマ大統領は、考えているのである。

   最近、アメリカの若年層の教育水準が異常に低落して、新興国当たりの生徒たちとの比較でさえも後れを取り始めていることで、教育行政の悪化が喫緊の問題となっているのだが、ここで重要なことは、アメリカでは、学歴が上がれば上がるほど、就業機会が増して、待遇が向上することで、教育改革を実施して国民の教育水準を上げることが、経済成長と国家隆盛に即寄与すると言うことである。

   さて、私が、今回、議論したいのは、このアメリカの事情とは全く違っていて、日本では、大学院を出た博士や修士など高学歴の人材が真面に活躍できずに、生活さえ困窮している人が、非常に多いと言う現実である。
   日本の現状の経済社会での受け入れ待遇が極めて悪くて、博士課程を修了したポスドクの多くが定職がなくて生活に困窮したり、大学に残っていても非常勤であるために、待遇が劣悪であるばかりではなく、最貧層に近い給与水準で働かざるを得ず、そして、何時職を失うかもしれないと言う状態にあることである。

   これまで、この高学歴者に対する日本の劣悪な扱いについて、如何に国家的な損失であるかを、何度も論じて来たが、今回、池田信夫氏の「日本の大学は非常勤講師を使い捨てる「ブラック大学」」と言う記事を引用しながら、再度、問題点の深刻さについて論述し、警鐘を鳴らしたいと思っている。

   冒頭の記述によると、
   早稲田大学が今春から非常勤講師に適用した就業規則について、早大の非常勤講師15人が6月、早大総長や理事らを労働基準法違反で東京労働局に刑事告訴した。原告によると、非常勤講師は今年度から契約更新の上限を5年とする、と大学から一方的に通告されたということで、「早大はわれわれを5年で使い捨てるブラック大学だ」と批判しており、大阪大学も今年度から非常勤講師の契約期間の上限を5年とする規定を設け、これに対しても労働組合が告訴する動きがあり、これは一部の大学の問題ではないと言うのだが、4月から改正された労働契約法では、非正規労働者が5年を超えて勤めると、本人が希望すれば期間の定めのない「正社員」に転換しなければならないため、多くの企業で契約社員などを5年で雇い止めする動きが広がっている。と言うので、そのための非常勤雇用の恒久化であろうか。
   今まで事実上無期限に勤務してきた非常勤講師が多く、早大の場合は教員の6割、4000人が非常勤だというから、雇い止めの影響は大きく、ある非常勤講師の場合は、1週間に10コマ掛け持ちしても年収は300万円程度で、ボーナスも昇給もないので、50過ぎても生活は苦しい。と言うのだから、悲惨と言うほかにない。

   大学での非常勤講師であるから、少なくとも、大卒であり何か特別の資格保有者であろうし、多くは、大学院を出て博士号や修士号を持っているだろう。
   また、研究やR&Dに携わる多くの理系技術系のポスドクなど多くの人々の雇用条件も劣悪で、
   iPS細胞の山中伸弥京都大教授でさえも、京大研究所のスタッフの90%が、非正規職員であるために、有期雇用であって先の保障がなく、山中教授が、一番頭を痛めて奔走しているのは、スタッフの生活の安定とその保障だと言うのであるから、日本の大学や研究機関などが、如何に、高学歴の日本人を、悲惨な状況に追い詰めているかが良く分かる。
   また、一般企業や各組織団体などにしても、学位保有の高学歴者を、有効に雇用や活用ができないケースが多いので、益々、門戸が閉ざされてしまう。
   先に示したアメリカの雇用状況では、博士ないし修士の失業は、2~3%で、最も恵まれていて給与水準も高いのと比べてみると雲泥の差である。

   日本は学歴偏重ではなく民主的だと言う人がいるが、これは間違いで、出る釘を叩きながら、使い勝手の良いスペアパーツばかりを育成して産業化を進めて来たので、昔は、中高卒が金の卵で、今日は、大卒で十分であって、各界のトップに立つリーダーでも、殆ど大卒程度で、欧米のリーダーと伍して行けるような学位保有者は、殆ど居ず、その上、日本人の学歴が低い所為もあってリベラル・アーツの素養教養が不足するので、グローバル世界での活躍、交渉力は極めて低くて、存在感が薄い。
   それよりも、前述したように、折角、修士や博士の学位を得た有為の人材に、十分な活躍の場を提供できずに、飼い殺しにしているような、お粗末極まりない教育行政を行っておれば、早晩、国家は滅びてしまうと言う危機意識さえないことが実に悲しい。

   今や、クリエイティブ時代に突入して、卓越した知的創造者によるクリエイティブな価値創造が国家の命運を決すると言われるほど、優秀な高学歴者の熾烈な争奪戦が、グローバルベースで展開されているのだが、この意味でも、正に、日本は、ガラパゴス。
   優秀な日本の高学歴者の多くが、昔のインド工科大学の卒業生のように、日本を見限って、外国へ雄飛するかも知れない。

   これまで、何度も、日本の教育問題について、持論を展開して来たのだが、案外、日本企業に国際人材が育たないのも、あるいは、国際人材を採用して活用できないと言った国際化グローバル化の問題も、その根底には、前述した高学歴者を活用できない日本人のメンタリティにあるような気がしてしかたがない。
         
   
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1 コメント

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早稲田、ブラックなんですか…。 (mac)
2013-08-23 20:00:09
この派遣法のこと、知っています。派遣が自由な働き方として持て囃された、あの頃のことを思うと、胸が痛みます。スーパーウーマンな派遣社員を題材にしたドラマまでありました。
環境が変わると一転、経営が保守的になり、新卒と既得の正社員保護のような行動にミスリードするような法律ばかり。一体どっち向いて作られているんだか。って経営者の方なんでしょうか…。
ところで日本の新卒ってお客様みたいに大事に大事に育てられるじゃないですか?
それと対照的にも映るのが、アメリカのスペシャリスト制度。日本では部署異動も日常茶飯事ですけど、アメリカでは考えにくく思います。
大学、大学院の課程そのものに根本的な違いがあるような気がします。
学生のマインドも違うのかもしれません。
卒業論文などの修めるポジションにも差があるような気がするんです。いかがでしょうか?
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