熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

木下 長宏 著「ミケランジェロ」

2021年08月15日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   ルネサンス期の最も偉大な芸術家であるはずで、存命中に、ジョルジョ・ヴァザーリが著した『画家・彫刻家・建築家列伝』などが残っているわりに、レオナルド・ダ・ヴィンチと比べて、巷の著作物が格段に少ないのが、ミケランジェロ。
   帶に、「混沌カオス」を生きる芸術家がここにいると言うタイトルがつき、芸術活動の核心に迫り、時代と切り結ぶ、新たな人間像を提示するという木下 長宏 教授の新書「ミケランジェロ」を読んでみた。
   ミケランジェロの作品を追いながら、ミケランジェロの伝記に及ぶ簡便な解説書で、独自の評論にも踏み込んだ興味深い本である。
   レオナルド同様に、かなり多才な芸術家だが、やはり、傑出しているのは、彫刻家であり画家であり建築家であると言う側面で、偉大な作品を残している。

   まず、幸いにも、随分前の話になるのだが、結構、イタリアを訪れていて、サン・ピエトロ大聖堂・バチカン宮殿にも通って、ピエタ像やシスティーナ礼拝堂の壁画「最後の審判」や天井画「天地創造」を見ており、フィレンツェでは、アカデミア美術館の「ダビデ像」やウフィツィ美術館の「トンド・ドーニ」、そして、礼拝堂や美術館などの彫刻、それに、ローマでは、サン・ピエトロ・イン・ヴィンコ聖堂の「モーゼ像」やユリウス二世の墓廟、その他ルーブルなど博物館美術館でも、意識して、ミケランジェロ作品を鑑賞し続けてきたつもりである。
   尤も、頼りない記憶なので、今となっては、図録や本の繪や写真を見ながらの追体験だが、細かく説明されると、なるほどと、感動を新たにしている。

   何を置いても、驚嘆したのは、彫刻家であったはずのミケランジェロの描いたシスティーナ礼拝堂の天井画「天地創造」と正面の壁画「最後の審判」で、最初に観た時には、しばらく、感動して動けなかった。
   3回ここを訪れているが、私の移動の仕方が悪かったのか、バチカン美術館の鑑賞ルートの一番奥にあって、焦れば焦るほど近づけずに時間が経ってしまって、憔悴しきって辿り着いたのを覚えている。
   尤も、この美術館は、素晴らしい美術作品の宝庫で、伊達やスイキョで見過ごせない大作が多くて、十分時間を取るつもりで訪問しないと罰が当たるのだが、旅人である以上、時間がないときには、鑑賞目的は、このシスティーナ礼拝堂しかない。
   (以下、インターネットから、写真を借用させて貰う)
   
   
   

   礼拝堂の入り口を入ると、まず、目に飛び込むのは、天井画の「天地創造」、
   実際は、9面の巨大な絵画で、描かれているのは「天地創造」「人類の誕生」「ノアの洪水とその後」など「創世記」の舞台で、著者は、有名な「ノアの洪水」を見ていると、ミケランジェロは、ノアをテーマにしたかったのだと思うという。
   興味深いのは、「創世記」を暗記するほど読み、法王庁に出入りする神学者や司教達とも議論し、十分に知識を積んで理論武装しておきながら、ミケランジェロは、イメージを繪にして、確信犯的に、「創世記」を裏切るような絵を描くなどしたにも拘わらず、これらの絵をローマ法王にすら間違っているから描き直せと言われなかったという。
   この天井画は、エントランスからは、ストーりーの逆方向に描かれていて、実際に、ミケランジェロもこの方向で絵筆を採ったという。

   やはり、注目は、書面の巨大な壁画「最後の審判」である。縦17メートル、横13.3メートル。
   
   
   天国行きか地獄行きか、我が世界では、冥界の王として死者の生前の罪を裁く神は閻魔大王であるが、この壁画では、正面のキリストが、最後の審判を下す。
   上昇する人体と落下する人体が入り乱れて、喧噪と混乱を繰り広げる群像の正面に鎮座するキリストは、オーケストラの指揮者の身振り、
   筆者は、この「最後の審判」の壁画の前に佇つと聞こえてくるのは、イエスという指揮者が演奏する壮大な終末のシンフォニーで、裸体の人物は、まるで音符のように、和音や不協和音を騒然と奏でている。と言う。

   この壁画だが、キリストのイメージは、神としてではなく全く独特で、この絵自体、神々しさなど全くなくて、ダンテの神曲の「天国篇」など程遠くて、「煉獄篇」と「地獄篇」の挿絵を見ているような感じがして、異様な感じがするのだが、ミケランジェロの想像の世界と創造力に圧倒されてしまって、驚嘆の一語である。
   ダンテの「神曲」を読んだので、この壁画の冥府の河の渡し守カロンや地獄などイメージそっくりで、ミケランジェロのこの絵でインスパイアされたロダンの彫刻が彷彿として興味深い。
   
コメント
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