私たちビジネスマンが日常感じている悩みには、さまざまなものがあると思います。「自分の進むべき方向がわからない」、「目標を与えられていることは分かるが、そこまで到達するのにどうすればいいのかが分からない」、「相手の本当の考えがもっと分かればいいのに」等々…。
6月6日に行われたWBN(早稲田ビジネスネット横浜稲門会)の分科会では、二十年以上にわたり、そうした経営者をはじめとするビジネスマンのコーチングに携わってこられた、メタノイアの田村洋一さんから、エグゼクティブコーチングの考え方についてご講演いただきました。
はじめに、コーチングとコンサルティングとの違いについてですが、課題に対する解決策を提示するのではなく、解決策が当事者から内発的に生まれるようサポートするのがコーチングなのだそうです。サポートとは、簡単に言えばひたすら聴くことですが、そういう意味では、カウンセリングとも少し似ているのかもしれません。
しかし、現実には誰もが必ずしも明確な課題を持っているとは限りません。課題は達成したいヴィジョン(ゴール)と現状を認識するところから生じますが、そもそもそうした認識自体が不明確であるという場合が多々あります。こうした認識のサポートをすることもコーチングに含まれています。
さて、コーチングは「どうしたらいいですか?」という”How”に対して、「どうしてそうしたいのですか?そうするとどうなるのですか?」という”Why”で応えるというのが基本姿勢だそうです。その理由は、当事者が達成したいというヴィジョンが、本当に心から達成したいと思っていることなのか曖昧な場合があるからです。ヴィジョンが曖昧あるいは当事者にとって真のヴィジョンでない場合、当然ヴィジョンから見た現状認識も不適切なものになりますし、そのギャップである課題も不適切になります。意識の上でヴィジョンを描く前に、ヴィジョンの拠り所である価値(金銭では測定できない当事者の内面にある価値)まで掘り下げられるよう、サポートする必要があるということです。
次にヴィジョンから見た現状認識ですが、これは現状の問題点ばかりでなく良い点をも含めた認識であるということがポイントです。そのことをリアリティと呼んでおられましたが、「リアリティとは変えるべき敵ではなく、友」だということです。何故なら、「変わらなければならないと感じていてはいても、目指すべき方向が分からない」という場合もあり、そうしたことがなぜ起こるかといえば、そこにはそうできない何か、つまり現状に居心地の良い何かがあるからだそうです。この状態を「トランジション」と呼んでおられましたが、そうした理由で、現状については問題点ばかりでなく良い面についても紐解いていく必要があるのです。
お話の合間に、今回の「体感しよう!」というテーマに則って、いわゆる傾聴のワークを行いました。一人4分間、ひたすら相手の話すことを聴くだけです。しかし、話し手の方からは「自分のことを理解してもらえた気がした」、「自分の課題について整理することができた」といった感想が聞かれました。一方、聞き手の方からも「人の話を聞くことによって、自分の課題についてより良く理解することができた」という感想がありました。すなわち、傾聴には話し手、聞き手双方の変容を促す効果があるということが分かりました。日頃「傾聴が大事」といわれる所以がここにあるのかもしれません。
続いて、コーチングの現場のデモンストレーションが行われました。今回のケースは上司と部下数名に対するインタビューというものだったのですが、インタビューを受けた方からは「自分で話しているうちに、色々なものがこみあげてきて泣きそうになった」という感想がありました。ビジネスの世界では、たとえ心を開いて傾聴する意思と姿勢を持っていたとしても、職位や年齢といった目に見えない壁(これをランクと呼んでおられました)となり、下のランクにある側に遠慮が働いてしまうということが生じ得ます。ランクは前提としてあるもので、これを排除することは難しいということでしたが、それでも適切な質問を投げかけることによって、話し手がより開示しやすい環境を整えることはできるのかもしれないと感じました。インタビューも広義の傾聴に含まれるのかもしれません。質問している時、聴いている時の田村先生の姿勢、仕草、表情なども勉強になりました。
最後に。上の写真は、今回の内容をビジュアル化したものです。グラフィック・レコーディングと呼ばれる手法で、リアルタイムで視覚化することにより参加者の創造性を喚起したり、合意形成を促したりする効果が期待できるそうです。
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繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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