本と旅とやきもの

内外の近代小説、個人海外旅行、陶磁器の鑑賞について触れていき、ブログ・コミュニティを広げたい。

ルビ

2008-09-16 09:49:12 | Weblog
 ほとんど記憶は彼方だが、二葉亭四迷の『浮雲』を取り上げて、漢語に和語のルビを振っているのが面白い、と書いたことがある(と思う)。
 このルビ振りは明治時代の小説の特徴ではないか。試しに書棚の文学全集を見開いて、広津柳浪の『今戸心中』と小杉天外の『初すがた』から拾ってみた。かっこ書きがルビである。

 御酒肴(おあつらへ)、戦慄(みぶるい)、莞爾(にっこり)、目的(あて)、好色(すけべい)、服装(なり)、循環(めぐり)、粗略(ぞんざい)、挙動(そぶり)、事情(わけ)、戯言(じょうだん)。性急(せっかち)。

 以上はほんの一例に過ぎない。実に切りなくある。
 ルビとは漢字の読み方を示す振り仮名だから戦慄(せんりつ)、莞爾(かんじ)となるのが本来のルビだろう。むろん、この本来の使い方もたんと出てくる。
 一方、先の例のように漢語の意味を和語、しかも口語体で説明する手段としてのルビもふんだんにあるということだ。たぶん、読者の理解を助けるためだったのだろう。
 なかには、断念らない(おもいきらない)、柔弱たがる(にやけたがる)などの動詞にも使われている。広津の作には「放擲って」、小杉の作には「放棄って」とあるが、どちらも(うっちゃって)のルビである。

 明治の小説から丹念に語彙を拾って、漢語と和語の対比表を作れば面白いと思う。さらに、これらは何年ごろまで盛んでいつから少なくなったか、少なくなったのは、教育の向上と関係があるのか、言文一致運動が成熟したからか、などと押し広げるどこかの国文学の学生はいないものだろうか。

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