魅惑の日本映画

日本がこれまでに生み出した数々の名作、傑作、(珍作?)の映画を紹介していきます。

下町(ダウンタウン)★★★★☆

2009年01月04日 | Weblog

★あらすじ★

【注意】
以下の文章はgoo映画の「下町」に記載されているあらすじです(一部改訂)。
物語のラストまで書かれているので、ネタバレが嫌な方は飛ばして下さい。



戦後四年の早春。
りよは今日も下町の工場街を茶の行商をして歩く。
彼女はまだシベリヤから還らぬ夫を幼い留吉と共に待っていた。
とある鉄材置場の番小屋の男鶴石は親切だった。
彼女を火にあたらせ、茶まで買ってくれた。
彼はシベリヤの復員者だった。
二人は身上話をしながら一緒に弁当をつかった。
りよは幼友達きくの二階を借りている。
きくは療養所の夫のため闇の女をしている玉枝へ部屋を貸し、客の世話をしてその上前をはねていた。
きくはりよにもそういう商売をしたらと持ちかけてくる。
翌日りよは留吉を連れて行商に出た。
三人分のおかずを買い鶴石の小屋を訪ね、三人は楽しい昼飯を食べた。
留吉は彼によくなついた。
その夜、おきく夫婦と玉枝は売春の疑いで警察に呼ばれた。
鶴石の休日に、浅草へ遊びに行った帰途、激しく雨に降られ、三人は小さな旅館で休んだ。夜半、鶴石が彼女にささやきかけてき、抱こうとした。

「いけないわ。わたし、シベリヤのことを考えるのよ」

鶴石はぎくりとし、そのまま動かなかった。
一瞬りよの心は崩れ、りよの方から鶴石の首を激しく抱いた……。

翌朝、鶴石は固く結婚を約束した。
夫の死目に会えず、一人骨壷を抱いて故郷へ発つ玉枝を見送った翌日、りよ親子は鶴石の小屋を訪ねた。
小屋には見知らぬ男達が集り、なかを片づけていた。
神棚にはお燈明が上っている。
男達は彼女に鶴石の死を告げた。
前日、大宮から鉄材運びの帰途、トラックもろとも河に落ちたという。
りよは声も出なかった。
「りよどの二時まで待った」
黒板に鶴石の字で書いてあった。
小屋を出たりよは噴き出る涙をそのまま、留吉を連れ、川風に吹かれながら、とぼとぼ土手を歩いて行った。


★感想★

私の山田五十鈴のイメージは、「どん底」の毒婦 「億万長者」の口達者な芸者が強く印象に残っていて、今回の役どころは新鮮でした。

戦後間もない下町に生きる女。
しかも子供をつれ、シベリアに抑留されている夫を待ちながら売れ行きのよくないお茶を売りながら間借りして生活している健気な母親。

部屋を貸しているきくは新しい夫を紹介するが、りよはあまり乗り気ではない様子。そんな折、りよは茶売りの途中、偶然にも鶴石のバラック小屋で弁当をつかわせてもらう。その日をきっかけに、子供を連れて一緒に浅草にも行った。前半は、そんなささやかな鶴石との幸せな時間を描く。

同年に公開された「どん底」では心のそこから憎みあう泥棒と毒婦の骨肉のバトルが見ものだった二人の共演(競演)でしたが、今回は純粋に愛し合う者同士の慎ましやかな関係が本当に心に突き刺さるくらい切ない

二人の、控えめな台詞、相手を思いやりながら、ひとつずつ言葉を選びながら発している感じがして、なんて思慮深いんでしょうか昔の映画は

同じ家に住まわせてもらっているパンパンとして生きる女との交流や、お惣菜屋のおばさんとの微笑ましい会話など、下町に生きる人間達の関係も描かれています。
葛飾区役所とか、うちの近所ですよ
荒川区とか、江戸川区とか、昔の下町を垣間見ることが出来ます。


山田五十鈴の「母親」を十二分に堪能できる作品でした。
彼女は芸達者ですねぇ。
鶴吉のバラック小屋を去り、子供と二人で土手を歩いて行く姿は、どこか頼りなげですが、彼女の表情はきりっと引き締まり、もう子供を支えに生きていく心情が伝わってきます。

三船敏郎は「椿三十郎」や「用心棒」などの豪快な役と、「静かなる決闘」のナイーブな役が入り混じった複雑な役を好演しています。
ここらへん、「無法松の一生」に通じるところがありますね。(無法松はよりいっそう悲劇的なんですけど。)
兎に角、こういう役を見るのは後年の三船出演映画では甚だ困難です。

ま、この映画を見ること自体困難なんですが…
(ほんとに何でこれDVDにならないのかなあ、林芙美子原作だし、三船&山田コンビの代表作だし、あ、音楽が大魔神に似てるから?理由はなんにせよ一日でも早いDVD化を望みます。)

59分の小品ながら、非常にいい映画を観ました。
この映画、VHSにもDVDにもなってないので、全く私のアンテナに引っかかってきませんでした。(私の邦画情報源はもっぱらAmazonです…)
そういう滅多に見る機会のない映画を上映してくれるのが「リバイバル上映」というやつで、神保町シアターは1ヶ月ごとに女優、俳優、監督、原作、配給会社など様々なジャンル毎に特集を組んで上映しています。
で、今月は山田五十鈴の特集月間。
毎回チェックして、ソフト化されていない気になる映画を観ています。

山田五十鈴特集は1月9日までやっています。
この「下町(ダウンタウン)」も9日が最終日です。
お暇な方は是非是非ご覧ください!!
(なんか、神保町シアターの回し者みたいですけど、ほんと見て損はありませんから。)

神保町シアターホームページ


監督 千葉泰樹
脚本 笠原良三 吉田精弥
原作 林芙美子
音楽 伊福部昭

出演
山田五十鈴
三船敏郎
田中春男
多々良純
淡路恵子
村田知英子 

1957年度東宝作品(モノクロ・スタンダード)

履歴↓

婚期

下町(ダウンタウン)
相棒Season7「ノアの方舟」
静かなる決闘
しとやかな獣
女の中にいる他人

相棒Season7「レベル4」

大魔神

大魔神怒る

大魔神逆襲

相棒Season7 「還流~密室の昏迷・悪意の不在~」

その夜は忘れない
ど根性物語 銭の踊り
億万長者
憲兵と幽霊
怪猫亡霊屋敷

日本列島
激動の昭和史 軍閥

相棒(劇場版)
おとうと
衝動殺人 息子よ
満員電車
八甲田山

黒い十人の女
穴(大映)
血と砂
ハウス(HOUSE)
相棒Season6「黙示禄」

悪い奴ほどよく眠る
無法松の一生
蜘蛛巣城
江分利満氏の優雅な生活
大江山酒天童子
日本沈没

妖星ゴラス
斬る
待ち伏せ
殺人狂時代
太平洋奇跡の作戦キスカ
赤毛

戦国野郎

ブルークリスマス
大盗賊(東宝)
座頭市と用心棒
ガス人間第一号

電送人間
美女と液体人間
赤ひげ
世界大戦争
椿三十郎

用心棒
モスラ(1961年度版)
新幹線大爆破
隠し砦の三悪人
日本のいちばん長い日

☆はじめに☆


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