魅惑の日本映画

日本がこれまでに生み出した数々の名作、傑作、(珍作?)の映画を紹介していきます。

ガス人間第一号★★★★

2008年02月02日 | Weblog
【概要】
銀行を襲撃し現金を強奪する犯人を追う刑事(三橋達也)が遭遇した、美しき舞踏の師匠・春日藤千代(八千草薫)。彼女と銀行襲撃の犯人・水野(土屋嘉男)は愛し合っており、水野は化学者の手で身体の組織構造を自由に変化出来るガス人間 となっていた。

【感想】
名前がねえ…センス無さすぎだと思うんですが。(でもセンスのない題名も魅力だったりする)
せめて藤千代の舞台の題名とかけて映画のタイトルも「情鬼」にすれば、ガスって、蒸気っぽいでしょ?それに水野の執念を情念の鬼とみたてれば、いいと思うんですけどね。とはいえこれは紛れも無い変身人間シリーズの最高傑作です。
宇宙開発の犠牲になってしまった哀れな水野は愛する藤千代の為に持ち前の体質を生かしてガス状態になり、銀行を襲い大金を藤千代に注ぎ込む。藤千代の心情は、この映画でははっきりと描かれていないものの、暗示となり、(ああ、多分藤千代は別に水野のことを愛してはいないんだな。ただ、自分の為にこれだけ尽くす男に対して、冷たい態度はとれない。)観客に想像させるだけ。それがかえって物語りに深みを出しています。

ガス人間こと水野を演じた土屋嘉男は、黒澤明監督の映画に何本も出演するベテラン名脇役。なのに特撮に異常なまでに関心を示しており、「地球防衛軍」の宇宙人役は有名ですね。子供の頃見た映画で「怪獣大戦争」がありますが、その宇宙人も彼だったんですね…
八千草薫は、この時が一番綺麗。三船敏郎の「宮本武蔵」とか、白蛇伝の「白夫人の妖恋」の頃の彼女は可愛かったけれど、年代を経るうちにより一層美しくなって、それがまた作品の悲劇を強調しているよう。

三橋達也は、黒澤明の「悪い奴ほどよく眠る」と「天国と地獄」にも出演し、いずれも印象的でしたが、今回は狂言回し的な存在で登場してます。
佐多契子はこの他に「妖星ゴラス」以外で見たことが無いのですが、どうしたのでしょうか。プロフィール写真を見ると、結構美人なんですが、この映画では何だかおばさんっぽいしゃべり方。
彼女はガス人間でデビューしたそうですが、その時、新車の宣伝のポスターが、「61年の新車セドリック、61年の新人佐多契子」車と一緒にされるなんて、何とも可愛そうです。
彼女のその後のいきさつを知っている方、是非教えてください。

上記で挙げた二組のカップルを暗に対比しているのも見事です。
左卜全の哀愁漂う、何て言ってるか若干聞き取れないよれよれの声にも感動します。

ガス人間が銀行強盗を犯さなくても、彼の存在があるだけで、社会は混乱してしまう。そして、決して成就しない落ちぶれた藤千代との恋。
それに加えて本作には、科学に犠牲者が出てもいいのか?と言う問題もさり気なく訴えかけています。
能の世界を舞台にしていることで、東宝特撮では珍しい和のテイスト溢れる話になっているのにも注目。

「美女と液体人間」「電送人間」「ガス人間第一号」がいずれもツタヤに置いていると言うのがビックリですね。そして不思議なのがSFの欄に「日本誕生」「ガス人間第一号」があって、ホラーの欄に「美女」と「電送」があること。
一体どんな基準なんだ!?

三作続けて東宝の特撮映画を描いたんで、次は時代劇のレビューでも書こうかな。



監督 本多猪四郎
脚本 木村武
音楽 宮内国郎

岡本賢治警部補 三橋達也
藤千代 八千草薫
ガス人間水野 土屋嘉男
甲野京子婦人記者 佐多契子
田宮博士 伊藤久哉
田端警部 田島義文
稲尾刑事 小杉義男
佐野博士 村上冬樹
老鼓師 左卜全

1961年度東宝作品(カラー・シネスコ)

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