魅惑の日本映画

日本がこれまでに生み出した数々の名作、傑作、(珍作?)の映画を紹介していきます。

おとうと★★★★

2008年04月12日 | Weblog
【概要】
幸田文の自伝的小説を映画化。作家の父と後妻というコンプレックスを抱える継母の間で愛情を与えられずに不良化していく弟(川口)と、そんな弟をかばい、愛情を注ぐ勝気な姉(岸)の美しくも哀しい姉弟愛を描く。
抜粋先不明

【感想】
女学生を演じる岸恵子にいささかの無理矢理さがあるものの、ダメな弟を必死になって守る健気な姉を好演していました。
冒頭、雨の中を傘も差さずに帰宅する弟・碧郎(川口浩)にげん(岸恵子)が傘を持って行く場面では兄弟の仲良さを描写し、帰宅してからは一転、陰影のある演出で継母(田中絹代)が些細なことでげんに小言を言うただならない関係では家族間の不安な空気を表現しています。
父(森雅之)は仕事ばかりに気をとられて家族のことはリウマチの妻と娘のげんにまかせっきりの様子。
愛情を注がれていないと感じる不幸な弟を気にかける妹と道を外しながらも姉のことを思う弟との関係は純粋に姉弟の絆の深さを感じました。

物語が進んでいくうちに「世間体を気にしているヒステリー気味の母」や「家庭のことは他人にまかせきりの父」というイメージは薄れていき、父親は子供を甘やかしながらも家族間のことは気にかけているちょっと頼りない存在へとシフト。
母親にいたっては継母で残酷な面を持っているのかと思いきや、実は家族のこと、弟のことを本当に愛している本当の母親よりも母親らしい存在になっていくのでした。
最後は普遍的な家族、それよりも愛情の深い家族へ昇華していくということなのかな?

弟が結核で死んだとわかると、げんは気絶して看護室へ運ばれますが、意識を取り戻すと直ぐに前掛けをして弟の眠っている病室へと急ぐ場面で「完」のマークが映し出されて物語りは終わります。この唐突にも思える終わりかたが実にいいです。「弟が死んだという時に眠ってなんかいられない。早く弟のところへいかなくては。」という姉のサバサバした性をがよく分かるラストでした。

市川監督は彩色に関して特殊な演出をこの映画で施しています。
カラーでありながら「黒い十人の女」の如く色を抑えた作品の世界観を象徴するかのような彩色設計。
この映画の予告編で、「革新的な彩色映画に成功しました。私達はそれを皆様に自身を以っておめにかけることが出来るのを大変喜ばしく思います。 永田雅一」というテロップが入ります。
過去に「地獄門」で初のカラー映画を公開した大映でも1960年当時もまだ総天然色映画というのは普及し始めたばかりのころだったのでしょうか、この予告編だけでは判断出来かねますが、この時期各映画会社がこぞって彩色映像の研究に勤しんでいたことは事実です。
微妙な違いですが東宝には東宝らしい色、大映には大映らしい色というのがあるんですね。

余談ですが、この映画に出てくる川べりは葛飾区の中川です。母が子供の頃葛飾区の中川周辺に住んでいて、この「おとうと」のロケが行われるというので大変話題になったそうです。原作では違う場所なのですが、そこは護岸工事をしていて使えなかったみたいです。

(蛇足)岸田今日子、美人じゃないんだけどその髪型、和装によって物凄い色っぽくなってます。 
江波杏子、今ではCMでコミカルなキャラをなさってますが、こんな美人な看護婦がいるなんて絶対おかしいです!


監督 市川崑
脚本 水木洋子
原作 幸田文    

げん 岸恵子
碧郎 川口浩
母  田中絹代
父  森雅之
院長 浜村純
田沼夫人 岸田今日子
看護婦 江波杏子

1960年度大映作品(カラー・シネスコ)

 4月5日より神保町シアターで木下惠介特集!



履歴です↓

衝動殺人 息子よ
満員電車
八甲田山

黒い十人の女
穴(大映)
血と砂
ハウス(HOUSE)
相棒(最終回SP『黙示禄』…番外編)

悪い奴ほどよく眠る
無法松の一生
蜘蛛巣城
江分利満氏の優雅な生活
大江山酒天童子
日本沈没

妖星ゴラス
斬る
待ち伏せ
殺人狂時代
太平洋奇跡の作戦キスカ
赤毛

戦国野郎

ブルークリスマス
大盗賊(東宝)
座頭市と用心棒
ガス人間第一号

電送人間
美女と液体人間
赤ひげ
世界大戦争
椿三十郎

用心棒
モスラ(1961年度版)
新幹線大爆破
隠し砦の三悪人
日本のいちばん長い日

☆はじめに☆


衝動殺人 息子よ★★★★★

2008年04月09日 | Weblog

【概要】
息子を殺された父親の悲しみと、同様の境遇の人々と共に、被害者遺族を保護する法律を作る運動を進める姿を描く。昭和五十三年『中央公論』三月号に掲載された佐藤秀郎の同名のノンフィクションを映画化。
goo映画より抜粋

【感想】
神保町シアターで鑑賞しました。なぜこんなマイナーな映画を見ようと思ったのかと言うと、家でこの映画の公開当時のパンフレットを発見したからです。両親が新婚時代に見たらしいんです。どうしても見たくなって調べたら、単品でDVD化されていないという事実が判明(追記:DVDBOXとして販売しているので決してリーズナブルではありません)、このシアターで見るしかないと思ったわけです。
劇場内の雰囲気もプラスされ、映画でこんなに泣いたのは初めてでした。冒頭、息子の田中健が刺され、父親の若山富三郎に「仇は討ってくれ。」とすがりつくシーンでもうすでに涙は出ていましたが、死にそうな息子の足をほほでさする母・高峰秀子の場面と、息子が産まれたての頃に可愛さのあまり母が赤ん坊の足をほほでさする場面が重なるシーンでもう涙腺は緩みっぱなしでした。
冒頭でこんなに泣いてしまっては、まともに鑑賞できないのではないのかと心配してしまうほどでした。

犯罪被害者補償制度の発端となった映画で、主人公川瀬周三も市瀬朝一さんという実在の人物。彼は昭和41年に通り魔によって息子を失っています。それから彼は身を粉にして全国を歩き回るわけですが、この被害者保障制度が立体化するのは三菱重工爆破事件という巨大な事件が起きてから。それまでは家族を殺された遺族は「泣き寝入り」するしかなかったそうです。
今ではそんなのあたりまえでしょ?と言う方も多いでしょうが、その当然は市瀬さん達のおかげなのです。
この映画を見て法を作るのがどれだけ難しいことか、一人の人間が当たり前のように筋を通すことがどれがけ難しいことか、また、被害者達が分かり合えるのがそう簡単ではないことがよく分かりました。

この映画、主演の若山富三郎と高峰秀子のほかに、田中健、藤田まこと、近藤正臣、加藤剛、吉永小百合、中村玉緒、尾藤イサオ、大竹しのぶなど大御所ばかりで監督の力の入れようが伝わってきます。吉永小百合はほとんどノーメイクっぽくて、幸薄げな未亡人にぴったりでした。中村玉緒はもう当時からオバハンのイメージに近づいてるんですね。大映時代とは大違いですが。

若山富三郎と高峰秀子の夫婦はまさにこの二人しか考えられないです。職人気質の父が犯罪者への憎しみの感情からやがて何か行動を起こそうと考えが変って行く過程は見事です。だんだん弱っていく夫を、妻がしっかりと支えるのも素敵です。夫が死んだ後に夫が成し遂げようとしたことを続ける決心をします。もうその場面で涙。
本当に最初から最後まで泣きっぱなしの131分でしたが、今の私達の現状を思い知らされる傑作でした。本当に、三十年前と今とでは寒気がするくらい変っていないんですね。

この作品は単品でDVD化されておらず(追記:DVDBOXとして販売)、VHSも市場に出回っていないので見る機会はあまり無いんですよね。残念なことに。
衛星放送や名画座で見る機会があれば絶対に見たほうがいいです。

監督 木下恵介
脚本 砂田量爾、木下恵介
原作 佐藤秀郎
音楽 木下忠司

川瀬周三 若山富三郎
川瀬雪枝 高峰秀子
川瀬武志 田中健
田切杏子 大竹しのぶ
松崎徹郎 近藤正臣
中沢   藤田まこと
中谷勝  加藤剛
柴田保子 吉永小百合
坂井三郎 尾藤イサオ
平山   田村高廣
北村洋子 中村玉緒

1979年度松竹作品(カラー・ワイド)


4月5日より神保町シアターで木下惠介特集!



履歴です↓

満員電車
八甲田山

黒い十人の女
穴(大映)
血と砂
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相棒(最終回SP『黙示禄』…番外編)

悪い奴ほどよく眠る
無法松の一生
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江分利満氏の優雅な生活
大江山酒天童子
日本沈没

妖星ゴラス
斬る
待ち伏せ
殺人狂時代
太平洋奇跡の作戦キスカ
赤毛

戦国野郎

ブルークリスマス
大盗賊(東宝)
座頭市と用心棒
ガス人間第一号

電送人間
美女と液体人間
赤ひげ
世界大戦争
椿三十郎

用心棒
モスラ(1961年度版)
新幹線大爆破
隠し砦の三悪人
日本のいちばん長い日

☆はじめに☆


満員電車★★★★

2008年04月04日 | Weblog
【概要】
ビール会社に就職した社会人1年目の青年・民雄は、父親の発病や自身の病気、失業など立て続けにトラブルに巻き込まれる。満員電車から一度降りてしまったら絶対に乗れないサラリーマン事情の風刺映画。
「DVD NAVIGATOR」データベースより抜粋改訂

【感想】
「穴」にしろ「黒い十人の女」にしろこの「満員電車」にしろ、まさに“早すぎた名作”なんですね。
話自体は一流大学を出て一流の会社に就いても結局はクビになり…というサラリーマンの悲劇をデフォルメして描いたものなのですが、演出が素晴らしい。細かいところにまで手が届く面白さで、これは現代で言うシュールという枠に入るのでしょうか。
母役の杉村春子がなにかにつけて微笑したり、「ホップ・ステップ・ジャンプ」が口癖の精神科医・川崎敬三はその言葉を発しながらジャンプしてバスに轢かれて死んじゃうし、挙句の果てには何事かと事故現場に駆け寄ろうとした主人公・川口浩は電柱にぶつかり一ヶ月気を失うなんてみんな正気でない人ばかりが登場します。

一番しっかりしていると(しすぎていると)思われた父・笠智衆が実は精神病院パラノイアなんですからね…(あれっ、違ったかな)

でもこんなのは序の口で、途中で結核で病院に運ばれてから音沙汰の無い同僚の船越英二こそが一番の異常者なのではないでしょうか。何なんだ、こいつは!!と言いたくなるくらい。凄いいい味を出しているんですが、う~ん、文字では表現できない。
家具も、雑誌も、調味料まで生活必需品は全てそろえてしっかり者。いたって普通の人間なんですが、やっぱり普通じゃない。
これはDVDで見てもらうしかないですな。

監督 市川崑
脚本 和田夏十、市川崑
音楽 宅孝二
特殊撮影 的場徹 (さてはビール工場だな?)      

茂呂井   川口浩
父(権六) 笠智衆
母(乙女) 杉村春子
和紙    川崎敬三
更利満   船越英二
総務部長  見明凡太郎
場場博士  伊東光一
大学総長  浜村純
若竹     入江洋佑
曾根武名夫 袋野元臣
歯医者   杉森麟

1957年度大映作品(モノクロ・スタンダード)

4月5日より神保町シアターで木下惠介特集!



履歴です↓

黒い十人の女
穴(大映)
血と砂
ハウス(HOUSE)
相棒(最終回SP『黙示禄』…番外編)

悪い奴ほどよく眠る
無法松の一生
蜘蛛巣城
江分利満氏の優雅な生活
大江山酒天童子
日本沈没

妖星ゴラス
斬る
待ち伏せ
殺人狂時代
太平洋奇跡の作戦キスカ
赤毛

戦国野郎

ブルークリスマス
大盗賊(東宝)
座頭市と用心棒
ガス人間第一号

電送人間
美女と液体人間
赤ひげ
世界大戦争
椿三十郎

用心棒
モスラ(1961年度版)
新幹線大爆破
隠し砦の三悪人
日本のいちばん長い日

☆はじめに☆

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黒い十人の女★★★★

2008年04月02日 | Weblog


誰にでも優しいってことは、誰にも優しくないってことよ


【概要】 
TVプロデューサーの風松吉は、9人もの愛人を持っていた。やがて彼は女たちに殺されると思い込んで、妻に相談する。そこで妻が立てた計画とは……。
(抜粋先不明)

【感想】
大女優夢の共演(競演)といった感じでしょうか。兎に角皆さん演技が上手い。全然知りませんが、まるで本物のテレビ局の世界のような雰囲気です。どの役者も台詞をスラスラッと流れるように発して、違和感が全く無いのに驚きました。
幽霊を登場させたり、ラスト岸恵子が運転する場面で、交通事故の車を一瞬だけ映したり、実験的な要素の見られる作品でした。
出演者が名前と共に映る冒頭のシーンは今見ても洗練されていてかっこいいです。
モノクロだからこそ味わえる陰影も素晴らしい。
物凄くどろどろとした話なのに、見ていてそんな感じがせず、どこかでクスッと笑ってしまう市川監督のセンスの良さが光ります。
主要人物についてそれぞれ感想を、

船越英二…盲獣などで変態役もやってこなす人ですが、今回は山本富士子という日本一の美女を妻にして、そのほか9人の女性と関係を持つどうしようもない軟弱な役を演じています。この、軟弱なという設定がいい。決して暴力的な、冷たい男でなくて、誰にでも優しく接する性格だからこそ、10人の女性から恨まれると言うのが面白いです。声を張らないひょうひょうとした演技が見事でした。

山本富士子…和服姿が本当に似合う、現代の女優には絶対いないふくよかな体系の方ですね。いや、決して彼女の悪口ではなく、それが彼女の魅力です。今の人は痩せすぎているんだと思います。そんなことはどうでもいいですが、裏と表を持つ妻役が凄くよく似合う。彼女も流麗に台詞を言うので、思わず聞き惚れてしまいます。「~ざんしょ。」という語尾が好きです。

岸恵子…山本富士子が日本古来(?)の美しさを持つのに対して、彼女は現代的な美とでもいうんでしょうか。後年「レモンのような女」というドラマで現代人の象徴とでもいうべき役をやっていましたね。きりっとした目が女性の怖さを表しているようです。船越英二を部屋に閉じ込めて二人で語り合うシーンでは思わず寒気がしました。

岸田今日子…この頃からなんだか異様な雰囲気を出していたんですね。特別重要な役ではないんですが、存在感が上記二人と同じくらいにありました。さすが岸田家。

宮城まり子…幽霊という特異な役。彼女は東映動画の「白蛇伝」で森繁久彌と声の共演をしたこと以外知らないのですが、今回は幽霊で、しかもコミカルでしたね。

中村玉緒…ああ、こういう役もやるのね。という感じです。数々の女優が黒い役をこなしているのがこの映画の魅力。

これから大映作品をどんどん見ていこうと思います。市川崑の作品は脚本が良く出来ていると思います。

監督 市川崑
脚本 和田夏十
音楽 芥川也寸志
特技撮影 築地米三郎 (どこで?)    

風松吉 船越英二
石ノ下市子 岸恵子
風双葉 山本富士子
三輪子 宮城まり子
四村塩 中村玉緒
後藤五夜子 岸田今日子
虫子 宇野良子
七重 村井千恵子
八代 有明マスミ
櫛子 紺野ユカ
十糸子 倉田マユミ
警官役 浜村純
特別出演 ハナ肇とクレージー・キャッツ

1961年度大映作品(モノクロ・シネスコ)




履歴です↓

穴(大映)
血と砂
ハウス(HOUSE)
相棒(最終回SP『黙示禄』…番外編)

悪い奴ほどよく眠る
無法松の一生
蜘蛛巣城
江分利満氏の優雅な生活
大江山酒天童子
日本沈没

妖星ゴラス
斬る
待ち伏せ
殺人狂時代
太平洋奇跡の作戦キスカ
赤毛

戦国野郎

ブルークリスマス
大盗賊(東宝)
座頭市と用心棒
ガス人間第一号

電送人間
美女と液体人間
赤ひげ
世界大戦争
椿三十郎

用心棒
モスラ(1961年度版)
新幹線大爆破
隠し砦の三悪人
日本のいちばん長い日

☆はじめに☆

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