魅惑の日本映画

日本がこれまでに生み出した数々の名作、傑作、(珍作?)の映画を紹介していきます。

赤ひげ★★★★★

2008年01月31日 | Weblog
【概要】
江戸時代末期、エリート青年医師・保本登(加山雄三)は心ならずも貧民たちの施設・小石川療養所に配属される。しかし、そこで出会った「赤ひげ」の異名をとるベテラン医師・新出去定(三船敏郎)に感化され、真の人間愛にめざめていく。
Amazonより抜粋

【感想】
黒澤明の映画で、最高傑作はどれだと聞かれたら、「七人の侍」や「生きる」が多数だそうです。まあ、それは納得できますが、「用心棒」「椿三十郎」といった娯楽色をさらに強めた作品もやはり彼の代表作にあげられるでしょう。

私がもしもこんなことを聞かれたら(まずそんなことはないと思のですが)間違いなくこの「赤ひげ」を選びます。
当然、他の黒澤作品がつまらないと言っている訳ではなく、どれも同じようにして面白い。また、どの作品が好きかと問われて返答に困るのは、黒澤明は様々なジャンルに挑み、作品を作るごとに新たな手法を加えて、作品ごとに違った魅力があるからです。(でも徹底した正攻法で、安定感がある。)

だた、この「赤ひげ」は黒澤明の良さが全部集約されている、いわば集大成的な映画(監督談)なんですよね。

椿三十郎などでみられたユーモアもあり、刀を使わないものの、三船敏郎(赤ひげ)のアクションシーンもあり、そしてなにより、「七人の侍」「生きる」などで見せた黒澤明のヒューマニズム溢れる叙情的な演出も炸裂しています。
職人の佐八(山崎努)と、おなかの決して成就することのない悲恋の話は、現代とは違う江戸時代ならではの奥床しさを感じます。
おとよ(二木てるみ)の話は、原作の「赤ひげ診療譚」のエピソードを変えて組み立てなおしたオリジナルですが、この話の核となって後半を盛り上げます。二木てるみの名演に注目!Wikipediaで調べたところ、彼女は当時16歳で、史上最年少のブルーリボン章を受賞したそうです。(やっぱりなあ)
また、おとよを通して保本登(加山雄三)が更に成長していく過程も素晴らしいです。
貧乏で仕方なく泥棒を働き、結果として一家心中(未遂)してしまう長坊(頭師佳孝)を助けようと、養生所のおばさんとおとよが井戸に向かって長坊の名前を叫ぶ場面は、原作には一応書かれているものの、割と簡素でしたが、映画ではドラマチックに仕上がっています。
原作は、江戸の情緒あふれる庶民の行き様を短編形式で描く形で登場人物達のやりとりも面白かったです。映画もその形式で物語りは進みますが、原作よりも感動的でした。

最後、保本が決心して養生所に残ることを決めるも、新出(赤ひげ)は快く承認しない場面(赤ひげの困った表情、保本の明るい表情)で物語りは終わります。その二人の演技も爽快でよかった。見終わった後に、清々しい気分になる、久々にいい映画を観たと思いました。


これで1948年以来の三船敏郎、黒澤明のコンビに終止符がうたれ、黒澤明は東宝との契約を切り、三船敏郎も三船プロとして本格的に動き出すわけですが、そう考えると、少しもったいなく、あと何本かは三船黒澤コンビの映画を見てみたいと思うのは私だけではないはずです。
三船敏郎は原作の赤ひげそのままといった感じで、彼しかいないなと思いました。

それから、佐藤勝の音楽は数ある黒澤映画の中で最高の出来栄えです。


監督 黒澤明
脚本 井手雅人
小国英雄
菊島隆三
黒澤明
音楽 佐藤勝
原作 山本周五郎『赤ひげ診療譚』
1958年連載

新出去定 三船敏郎
保本登 加山雄三
おとよ 二木てるみ
佐八 山崎努
お杉 団令子
おなか 桑野みゆき
おくに 根岸明美
狂女 香川京子
森半太夫 土屋嘉男
津川玄三 江原達怡
五平次 東野英治郎
長次 頭師佳孝
娼家の女主人 杉村春子


1965年度東宝作品(モノクロ・シネスコ)

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