魅惑の日本映画

日本がこれまでに生み出した数々の名作、傑作、(珍作?)の映画を紹介していきます。

日本のいちばん長い日(改訂版)★★★★★

2009年01月07日 | Weblog
もうすぐ一周年記念!
てことでもう一回原点に帰るという意味で、
この映画のレビューを書き直しました。

いや、ただ単に書き直したかっただけなんですけど・・・

★あらすじ★
大宅壮一の原作を元に、昭和20年8月14日から15日にかけての太平洋戦争終結(ポツダム宣言の受託如何)をめぐって緊迫したドラマを展開する軍・政府部内の様々な人間像をドキュメンタリータッチで描き出し、歴史の大きな転換期を24時間という限定した時間の中に凝縮して浮き彫りにした作品。
(東宝特撮映画全史より一部改定して抜粋)


★感想★

東宝創立35周年記念映画。
岡本喜八、いや、日本映画界における代表作。

そもそも私は戦争映画が嫌いで、その理由は予告編にあるのですが、昔の大抵の戦争映画は、明るい音楽で、「興奮!迫力!」などを歌い文句にして、戦争高揚映画のようにとらえてしまいがちだったからです。
(実際に中身を見てみれば、そのほとんどが、戦争の悲惨さ、虚しさを訴えているものなんですがね。)

戦争映画を見るきっかけになったのは「キスカ」という戦争映画にしては珍しい全員玉砕を避けられるというパッピーエンドで終わる作品で、そんな映画ですらも、反戦のメッセージが込められている事。これが私が戦争映画を見られるようになったきっかけです。(このブログでも紹介しています。)


そして「日本のいちばん長い日」は私にとって戦争映画の概念をさらに覆す、ああ、こういう視点で描く戦争映画もあるんだあ。と思わせる作品でした。


だって戦争で日本人が死ぬ場面が無いんですから。
それを抜いて、戦争の悲劇を克明にするというのは凄い。
逆に、そういう場面を排除したことが成功につながったのかもしれませんね。

映画というメディアの性質上、小説などの原作では描けない視聴に訴えかけるインパクトが大切なのですが、この映画は以外に淡々と進んで行くんです。

でも、全編に渡って緊張感があふれている。


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この映画はは、歴史上公式な終戦の日を描いているため、戦闘機が飛び交ったり、爆撃されたりというシーンは前半のこれまで日本が歩んできた惨たらしい歴史を紹介するシーンのみで、後は政府と軍、宮内省の攻防を描いています。
(日本の降伏時期をおくらせようと企図した陸軍将校達が近衛第一師団長森赳中将を殺害、師団長命令を偽造し宮城を占拠したクーデター事件)

前半は、仲代達也の淡々としたナレーションで、ごく簡単に、ごく分かりやすく太平洋戦争から広島、長崎の原爆投下、そしてアメリカ、中国、イギリスが日本に無条件降伏を要求するまでを説明します。
その間、映画のタイトルがいっこうに現れず、20分くらいでようやく登場するんですが、それまでの説明が、決して飽きることなく簡潔にまとめられているので見入ってしまいます。

その後も、このぬきさしならない状況の中で話はどんどん進んでいき、無駄な場面が一切ない。(変なロマンスも皆無!この映画は余計な場面を一切排除し、それが現実味をだし、長尺を忘れ去れます。)

唯一登場する女性は(特攻隊の場面で見送るお母さんは抜きますよ)新珠三千代のみ。それも台詞極少。
それでもあっけらかんとした態度を保つ女中(内心は怖くてたまらない)は強烈な印象を残してくれました。


陸軍将校達の暴走、暴動は、それが信念として自分達の中で立派に成立しちゃってるのが怖い。
(実際に戦地に立ったり、爆撃を受けたりした庶民のことを真に考えていないんですよね。「今ここでポツダム宣言を受諾したら、戦死して逝った人たちに申し訳がない」なんていうのは勝手な理屈です。)


三船敏郎はじめ、出演者それぞれも迫真の演技で、158分は瞬く間に過ぎていきます。このとき三船敏郎は47歳だったっていうんだから驚き。
貫禄ありすぎです




岡本喜八監督作品ですが、極めて重厚な作り。
明治時代に突入する時期を描いた「赤毛」の後に見たものですから、よけい感慨深かったです。
「赤毛」と「日本のいちばん長い日」を関連付けて見るのも面白いと思います。 

一種の記録映画のようでもあり、かつ映画の面白さもとことんまで詰めた60年代日本映画の傑作です。

物語のラスト、太平洋戦争の日本人の犠牲者の数が数字で表示されます。
(佐藤勝の音楽と明朝体の説明文は日本沈没を予期させます。)

仲代達也のナレーションもぐっと来ます。
「ただ祈るだけ」
そう、私たちに出来るのはそんなことくらいかもしれない。
しかし、そんなことすら出来なくなれば、もう私たちの未来は無いでしょう。

エンドロール(正式にはエンディングクレジット・スタッフとキャストの名前を映画の最後に流すあれ。私はあれを見終わらないと映画館の席が立てません。)を用いるのもこのころの邦画にしてはめずらしいですよね?
この時の音楽が、今まで劇中で使用されたことの無い、軍歌のような、節のきいた曲が流れるんですが、軍人のテーマというよりはむしろ、平和を、そして日本の未来を願う人達のテーマ曲に思いました。

最後の鐘の音。
佐藤勝氏は失敗だったと言ったそうですが、岡本喜八監督はあれで正解だったと言ったそうです。
で、私もいい効果音だと思います。
 

どんな戦争映画よりも説得力のある日本映画の底力を見せ付けられた映画でした。
戦争映画としても傑作の出来栄えだし、もう、そんなジャンルを遥かに超えた存在ですね。


監督 岡本喜八
脚本 橋本忍
音楽 佐藤勝

東郷外相     宮口精二
松本外務次官  戸浦六宏
鈴木総理    笠智衆
米内海相    山村聡
阿南陸相     三船敏郎
岡田厚相    小杉義男
下村情報局総裁 志村喬
井田中佐     高橋悦史
竹下中佐    井上孝雄
椎崎中佐    中丸忠雄
畑中少佐     黒沢年男
NHKナレーター 加山雄三

ナレーション   仲代達也

その他オールスター

1967年度東宝作品(モノクロ・シネスコ)158分


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