魅惑の日本映画

日本がこれまでに生み出した数々の名作、傑作、(珍作?)の映画を紹介していきます。

ジャコ萬と鉄(東宝)★★★★

2009年02月12日 | Weblog

★あらすじ★
あらすじは、これでも読んで下さい。

★感想★

1949年と言えば、私の母が生まれた年です。
もうそのころに三船敏郎がこんなに大人になっているんだから、時代というものを感じさせますね。
同じ年に三船敏郎は「静かなる決闘」にも出演していますが、顔のつくりが他の俳優と違いすぎ。撮影部志望から俳優にさせられちゃっただけありますね。

劇場に入って「この映画のフィルムの保存状態が悪く、所々欠落箇所があり、本来の上映時間より8分短くなっている」という旨のアナウンスがありました。確かにフィルムが途中でブッツリ切れて分からない部分もあるんですが、鑑賞する上で何の問題もありませんでした。
完全版フィルムがあるなら別ですが、将来DVD化される際も安心できますね。

話の内容はニシンの漁の季節に、北海道で九兵衛に雇われた漁師達がニシン漁に奮闘するという流れなのですが、その中で、海で死んだと思われた九兵衛の息子・鉄が帰ってきたり、九兵衛が樺太から引き上げる際に死んだと噂された鉄が現れたりと、まあ俗な言い方をすれば様々な人間模様がくり広げられるわけです。

脇役陣では清川虹子と藤原釜足を書かないといけませんね。
清川虹子はもっと後年あるいは亡くなる以前の姿しか見たことないので、こんなに若い(そうは言ってももう相当な年でしょうが)姿を見れたのでちょっとうれしかったです(何が?)
藤原釜足は妻の尻に敷かれ気味な役が本当に板についていて笑わせられます。こんな前の作品でも後年と老けが変らないのが不思議でした。

この映画の見所はジャコ萬(月形)と鉄(三船)の男の対決!なんでしょうが、見る限りその印象はそれと言ってなかったです。取っ組み合いの喧嘩はありましたけど。
ただ、月形龍之介と三船敏郎が同じ画面に並んでるってそうないですからね、貴重です。それだけでも見る価値はあるかもしれません。

面白かったのは三船敏郎の南方で覚えた珍妙な踊り。
「ウラウラウララ」(だっけ?)と声張り上げて歌い、変な踊りをする三船敏郎はもの凄く生き生きしていて、そう、こういうひょうきんな役も意外としっくりくるんだなと感心させられました。

鉄(三船)は毎週土曜になると、ソリで都会まで向かい、教会へ行きます。
その理由は教会でオルガンを弾く少女(久我美子)を見る為です。
男らしい鉄がなにも言えないでただデレっと見つめるだけというギャップがなんとも微笑ましいですね。
この時の久我美子はまだ少しふっくらとしていてあどけなさが残っています。

荒々しい漁師の世界⇔荘厳な教会(の賛美歌)という組み合わせも何と無く黒澤明らしい。

後味の良さは、黒澤脚本&谷口監督、そして三船敏郎の底抜けの明るさでしょうか。東宝らしい「ジャコ萬と鉄」でした。


さて、次回は怪作「ああ爆弾」です。


監督 谷口千吉
脚本 黒澤明、谷口千吉
原作 梶野悳三『鰊漁場』
音楽 伊福部明

出演…
三船敏郎
月形龍之介
進藤英太郎
原泉子  
藤原釜足
清川虹子
浜田百合子
松本光男
久我美子 

1949年度製作
東宝、49年プロ(モノクロ・スタンダード)

前回の映画→カモとねぎ

過去の映画のレビューはこちらへ。


カモとねぎ★★★★★

2009年02月06日 | Weblog

★あらすじ★
その端正な風貌から“貴族詐欺師”と呼ばれる石黒信吉(森雅之)とキザなチンピラ丸木久平(高島忠夫)、森洋介(砂塚秀夫)の3人の詐欺師は、競艇で八百長を仕組み、まんまと300万円を手にしたが、丸木と森の不注意からその金を謎の女(緑魔子)に持ち逃げされてしまった。女の残したマッチを手掛りに、3人はようやくのことで暴力バーのホステスである女、麻美を見つけたのだが彼女は情夫の保釈金にその300万を使っていた…。
(goo映画より抜粋・一部改訂)


★感想★

(注)上のあらすじですが、文章に書いてあるのは映画の序の部分です。
これもまた神保町シアターで見てきました。
森雅之って、あんまり私見てなかったんですが、本作で彼の魅力をしっかりと認識できました。
森雅之の七変化。それがこの映画の見所のひとつですが、その変装ぶりが全て板についていて笑わせるし感心させられます。


まずは冒頭の競艇で船に乗って釣りをするよれよれの森雅之に思わず吹きました。
タイトルクレジットのお洒落さとスキャット、そしてこの冒頭は相当ボルテージ高いです。
丸木(高島)と森(砂塚)が乗る車は按摩(マッサージとは言わない)機能つきなんですが、これ完全に小ネタの域にはいってます。

結局、麻美は300万円を返すまで詐欺師達のグループの一員になります。
ここからこの映画のストーリーは進行していくわけです。まず手始めに麻美の働く違法暴力バーに森雅之が弱弱しい税務署の係長に扮し、客として潜入します。そこで注文するのはなんとソーダ水
他のホステス達にも3つソーダ水を注文します。
税務署の係長だと知った店員は慌てて森雅之に口止め料を払うのでした。


それから青少年を性の不道徳から守る会(うろ覚えなので適当)の山岡久乃に教育映画と偽りアダルトビデオを見せちゃいます。
(あげくその会の援助金をパクるという…)
ビデオをを見た山岡久乃がまんざらでもないといった印象を受けたのがおかしかったです。
この時の森雅之は教育委員会委員長。その助手が砂塚秀夫で、かれは以前顔を見られているので、銀歯の入れ歯(しかも出っ歯)をして現れます。古典的な笑いなんですけど、劇場内は爆笑でした。


さて、散々笑わせたところで、今度の舞台は毒物を垂れ流す工場です。
そこに不発弾が埋まっている噂を聞いた森雅之詐欺団は自衛隊(!)に扮して工場内の職員を全て立ち退かせ、金庫を破ります。
金庫の中に簡単な金庫と会社が隠していた海水の毒物調査の資料を発見します。
そして見つけ出すつもりはなかった不発弾を見つけてしまい、そのまま慌てて逃げ帰るという…
逃げる際に工場の人に
「不発弾がありました、自衛隊を呼んで下さい。」
って、本当におかしい

森雅之は被害者の娘(桜井浩子です)にその毒物の科学調査の資料を渡します。やさしいですなあ。
その工場の会社はベトナム特需で悪徳をはたらく会社で、森雅之たちはその極秘資料で会社を脅しにかかります。

社長が東野英治郎というのもうけますね。悪いエロ爺ってかんじがして。
緑魔子の簡単な色じかけにころっと引っかかってしまいますし。

**********************

なんだか小ネタ満載の映画なんで、ストーリーを追っているだけになってしまったので、ここらへんで感想でも書くとしましょう。

この映画の良さは、ただ単に詐欺師のコメディだけにとどまらず、当時の社会の悪も登場させている点です。それは決して社会派、社会批判ではなく、マグカフィン(どうでもいいこと)に留めているところが物語りに奥行きを持たせ、でも重くない爆笑篇として成立しているのがいいですね。

とかなんとか言っても深いこと考えないで楽しんで見るのが一番なんですが。

この映画ではどんな巨悪も、逆にどんな道徳的なことも鼻先で笑っている気がします。
悪徳会社も青少年を守る会も関係ない、俺達は俺達の仕事をやるまでだ、とでも言いたげな。

またこの映画の更に良いところは、この詐欺師たちにきっちりオチを用意している所。
社長から巻き上げた金を持ち逃げした丸木と森の乗った飛行機は墜落し、丸木と森は海の真ん中に残されてしまうし、森雅之も山岡久乃の執念で逮捕されてしまいます。
(結局、緑魔子が保釈金を払って釈放されます。でもこの保釈金、競艇で森雅之たちが詐欺をはたらいて得た金をパクったやつですからね。まさに森雅之曰く「ありがとう、と言っていいのか。」)

ここがポイント。
どんなに軽妙で面白くても、彼らは所詮詐欺師なのです。
彼らが成功したままで終わると、まあそれでも構わないんですが、無一文になるというオチを用意してくれたほうが更に親切です。

さて、本作を見て気づいたのは森雅之の魅力と、緑魔子の可愛さと、砂塚秀夫の演技力です。

緑魔子はいつでも元気いっぱいで気持ちいいくらいに金庫破りを演じています。彼女の見せない色気も最高にいいです。

砂塚秀夫は本当に素晴らしい役者で、岡本喜八監督の常連ですが、にっかつ、任侠、ゴジラ、時代劇と幅広く出演しています。彼の魅力は何と言っても独特の台詞回しですね。いつも一筋縄ではいかない、と言うか一言では形容しがたい不思議な良さがありますね。
わけも無くオカマ言葉なのがうけます

それから、谷口千吉監督が毒のある(と言っても大したことないですが)コメディを撮っていたことに驚きです。


なんだか長々と意味のない感想をつらつらと書いてしまいましたが、まあ要するに、また言いますがこの映画は深いこと考えないで見るのが一番なんですね。


ああ、いつかDVD化されるといいなあ。
これVHSにもなってないんですが(私の知っている限り)、何故でしょうか?別に内容は何の問題もないし、A級クラスの俳優陣を起用してるし、何より面白いのに…

最近、昔の邦画のリリースをしていない東宝さんですが、いつかソフト化されていない数々の名画をリリースしてくれる日を待ち望んでいます。


監督 谷口千吉
脚本 松木ひろし、田波靖男
音楽 真鍋理一郎


森雅之
緑魔子
砂塚秀夫
高島忠夫

山岡久乃

小沢昭一
東野英治郎 

1968年度東宝作品(カラー・スコープ)


●リバイバル情報●

神保町シアターでは次回「東宝文芸映画の世界」を特集します。
私がチェックしているのは元祖「ジャコ萬と鉄」と「あすなろ物語」。
特に「ジャコ萬と鉄」はなかなか見られない三船&月形、そして黒澤明脚本なので必見です。監督は谷口千吉です。

「カモとねぎ」は2/18~2/24まで浅草新劇場で公開します。


★過去のレビューはこちらをご覧下さい。★


過去のレビュー

2009年02月06日 | Weblog
まだまとまってませんが、これから50音順とか、ジャン別とか分ける予定です。

暗黒街の対決

ああ爆弾
カモとねぎ

ジャコ萬と鉄

婚期

下町(ダウンタウン)
相棒Season7「ノアの方舟」
静かなる決闘
しとやかな獣
女の中にいる他人

相棒Season7「レベル4」

大魔神

大魔神怒る

大魔神逆襲

相棒Season7 「還流~密室の昏迷・悪意の不在~」

その夜は忘れない
ど根性物語 銭の踊り
億万長者
憲兵と幽霊
怪猫亡霊屋敷

日本列島
激動の昭和史 軍閥

相棒(劇場版)
おとうと
衝動殺人 息子よ
満員電車
八甲田山

黒い十人の女
穴(大映)
血と砂
ハウス(HOUSE)
相棒Season6「黙示禄」

悪い奴ほどよく眠る
無法松の一生
蜘蛛巣城
江分利満氏の優雅な生活
大江山酒天童子
日本沈没

妖星ゴラス
斬る
待ち伏せ
殺人狂時代
太平洋奇跡の作戦キスカ
赤毛

戦国野郎

ブルークリスマス
大盗賊(東宝)
座頭市と用心棒
ガス人間第一号

電送人間
美女と液体人間
赤ひげ
世界大戦争
椿三十郎

用心棒
モスラ(1961年度版)
新幹線大爆破
隠し砦の三悪人
日本のいちばん長い日

☆はじめに☆