コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

ロベールとキャタピラー(4)

2008-09-30 | Weblog
代議士がやってきて、ロベールに対して言った。君の戦いは正しい。よそ者に取られた父祖の地を取り返そうというのだから。地域の若者を集めて、運動に纏めてくれれば、資金を提供しよう。ロベールには簡単な仕事であった。若者に酒をごちそうすればいいのだから。資金は定期的に懐に入った。ロベールは、自分が重要人物になりつつあると感じた。女友達には、俺は政治をやっているんだ、と語った。

ある日、自分の若者の一人が、キャタピラー一族の一人と喧嘩をして、瀕死の重傷を負った。今度こそ、キャタピラーは越えてはならない一線を越えたのだ。ロベールは立場上、若者を率いて、キャタピラーに戦争を仕掛けなければならなくなった。キャタピラーの全員相手だと、こちらの人数のほうが少ないだろうから、夜に不意を襲う作戦で行くことにした。鉈で武装して、呪術師に不死身になる呪文を唱えてもらったうえで、夜半に森を横断した。ところがあまりに暗くて、これでは同士討ちになる。空が白むまで待って、明け方とともに一気に家々に襲いかかった。

何と、家々のどこにも、人っ子一人いなかった。家畜さえいなかった。キャタピラーは喧嘩の事件以来、襲われることを予測して、全員で遠くに逃げていた。予測も何も、ロベールたちは、村の飲み屋で議論しながら作戦を立てていたから、筒抜けだったのだ。いずれにしても、キャタピラー一族を森から追い出した。主権は回復した。

しばらくはこれで良かった。そのうち、だんだん変になってきた。まず、町への交通手段はキャタピラーの所有になっていたから、交通が途絶えて町に出るのが困難になった。村に商品が来なくなったし、村の産物を売りに出すことが出来なくなった。石油の供給が無くなり、夜は暗黒になった。ワインもビールも無くなった。放棄された農園は、あとに働く人もおらず、バナナが腐り放題となった。代議士がやって来て、キャタピラーとの和解を勧めた。町でも、商品が不足して困るようになっているという。結局、我々は皆、キャタピラー無しでは生きていけなくなっていたのだ。

ちょっと我々はやりすぎたかもしれないし、間違いを訂正しても、それほどの不都合はなかろう。交渉がはじまった。ロベールは、「村を尊重すること」を求めた。キャタピラーは、これまで村の慣習を拒絶し、村の生活に参加してこなかった。それがいけない。我々の側は、よそ者であっても受け入れに寛容なのだ。もしキャタピラーがきちんと補償をするというなら、タオルを投げてやってもいい。村に百万フラン、トラック1台、牛10頭、ウィスキー2箱、ワイン20箱を渡すことで手が打たれた。また、森を譲渡した人に、年一回借料を払うこととなった。

キャタピラーは村に戻ってきた。これからは村の活動に参加すると約束したが、今のところ成果は、キャタピラーの若者が、村の娘を一人ほど孕ませたことだけである。ロベールは、早くも素寒貧になって、キャタピラーから5年分の借料を前払いしてもらっている。平和は戻ったが、もう以前のようには、キャタピラーとの間で人々の交流は出来なくなった。それでも、ロベールが言ったように、キャタピラーの人々が「村を尊重」しなくなることだけは、あってはならないのである。

(終わり)

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