コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

投票日が見えてきた

2010-09-06 | Weblog

投票箱の供与式を行った翌日の新聞は、各紙とも大きく取り上げた。政府系主要紙の「友愛朝報」が、私とバカヨコ委員長が投票箱を抱えている写真とともに、表紙(1面)に掲載したのをはじめ、何紙もが一面トップで掲載した。

ちょうど式典と同じ日に、政府予算を統括する財務省が、選挙予算として160億フランを支出すると発表した。また、サバネ広報相が報道関係者を集めて、選挙報道の要領書を配った。投票日を2ヶ月後に控えて、いよいよ実務的な作業が始まったのだな、という雰囲気である。「友愛朝報」は、この二つの出来事と、投票日の供与式を合わせて、一面の見出しを、
「10月31日が見えてきた」
と打った。私は、同じ日に政府予算の発表があるとか、選挙報道の要領書の配布があるとか、そういう話を何も知らなかったのであるが、バカヨコ選挙管理委員長は知っていたはずだ。バカヨコ委員長として、9月に入ったその日、あとちょうど2ヶ月を残すだけのその日に、いよいよ物事が選挙に向けて動き出すということを、投票箱の供与式典を行って、示そうと意図したに違いない。その狙いは、見事に当たったといえる。

私は、バカヨコ委員長に協力でき、あたかも日本が選挙実現の推進役のように盛りたてられたことには、満足であった。一方で、各紙の記事を読んで、うーん必ずしも私の演説の意図が、正しくは伝わっていない。つまりコートジボワール国民の一人一人に、選挙への積極的な関与を求める気持ちを受け止めた記事は、ほとんど無い。

野党系の新聞は、私が「選挙を期待していたのに、何度も延期されたので、がっかりしてきた」と述べたところを、見出しにして取り上げていた。野党系の新聞にとっては、日本大使が現状に批判的である、ということを書きたいという気持ちがある。外国の大使が、当国の政府に批判的であるというのは、何であれ物議を醸しかねないから、もちろん演説文では私も注意した。しかし、演説があまりに無毒無害では、また報道の注意を惹かない。私は、3月に一度派手に新聞に出た「失望大使」であるから、「失望した」と述べればまた取り上げてもらえると分かっていたので、ちょっと演説に胡椒をきかせたのである。野党系新聞を弁護すれば、「(失望はしたけれど)それぞれの延期には、ちゃんと理由があった」と述べたところまで含めて、バランスよく報道してくれていた。

別の新聞には、風刺漫画まで出た。日本が投票箱その他の膨大な量の資材を提供した、とニュースで聞いたバグボ大統領が、「こんなに呉れて、日本の皆さんは、自分たちの選挙のときにはどうするつもりなんだろう」と驚いている、という漫画である。私は自分の演説の趣旨が必ずしも伝わっていないことにはがっかりしたが、ともかくも日本の投票箱の供与が、このように選挙宣伝に効果的に使われ、そして日本の存在が大きく目立ったことを、心から喜んだ。

記事の一つが、「中国も続いて、選挙協力資材の供与式典を行う予定」と書いている。私は、中国も選挙協力をするのか、と意外に思って問い合わせてみた。そしたら、日本に続いて中国の式典もあるという。なるほど、バカヨコ委員長は、立て続けに式典を打って、選挙の現実性を演出して見せる作戦なのだ。私はさっそく中国大使に電話した。中国大使も、急にバカヨコ委員長が「供与式典をやりたい」と言いだしたので、急遽行うことにしたのだと言う。私の時と同じだ。バカヨコ委員長は戦っているのだ。

それで、中国の式典に、私も応援で出ることになった。私は2日前と全く同じ設えの式典会場に、今度は数多くの聴衆の一人として、拍手を送る側に座って参加した。控室では中国大使と一緒に、バカヨコ委員長に挨拶。私から、日本も中国も、選挙の実施を応援しているのだ、これは東アジアの連帯である、と述べる。供与式では、2日前に私が座って演説をしたのと全く同じに、中国大使が演説をした。中国の供与は、バイク150台とオート三輪(荷台付バイク)200台、それから太陽電池充電式の携帯灯、携帯電話100台、合計して1億7500フランの協力である。

選挙管理委員会本部の芝生の庭に並べられた、これらの資機材を前に、引き渡しが行われた。オート三輪など、カカオやバナナなどの収穫に、とても実用的で使いやすそうだ。皆、農園で欲しがるんじゃないですか。
「選挙が終わったら、各地の農業組合などに贈与されます。」
と中国大使。つまり、選挙への協力だけでなく、選挙後は農村への協力にもなるのだという。
「選挙が終わらないとバイクが貰えないということで、皆、選挙の実現に熱心になるかなあ。」
と、バカヨコ委員長は傍らで言っている。選挙後に、農民にオート三輪や、太陽電池式のランプなどが届いて、これは使い勝手がいいということになれば、今度は中国の企業に、国内各地から注文が来ることになる。この供与は、中国製品の全国向け広告宣伝にもなっている。

さて、矢継ぎ早に、選挙の現実性を感じさせる行事が行われた。そうした雰囲気を背景に、バグボ大統領は9月2日、地方遊説の先で、大勢の人々を前に次のように演説した。
「2010年10月31日にコートジボワールで大統領選挙が実施されるよう、すべての措置が講じられる。トンネルの先に、出口が見えてきているということを、お伝えしたい。」
バグボ大統領は、これまでの演説で、「10月31日」とはっきり述べたことはなかった。独立50周年記念式典でも、「今年の年末までに」と言うに留まった。今回のバグボ発言は、「10月31日」の大統領選挙の実施を自ら訴えた、初めてのものとなった。これは記事が書くように、ほんとうに「投票日(10月31日)が見えてきた」のかもしれない。

そして、続けた。
「だから、10月31日に選挙が行えるように、選挙がいざこざなく行えるように、あなたがた自身が腰を上げなさい(Mobilisez-vous)。」
何だ、私が前の日に言ったことと、同じ趣旨を、バグボ大統領が訴えている。

バグボ大統領は、前日の私の演説を読んだわけではないだろう。しかし、私は何だかお株を取られたような気分だ。でもよかろう。バグボ大統領も、私と同じことを考えている。暴力沙汰のない選挙を実現すること。これには国民全体の一致団結がないといけない。私では声が小さいけれど、バグボ大統領が訴えれば、国民はそれを聞き取るだろう。

<新聞記事>


9月2日付「友愛朝報」
「10月31日が見えてきた」


9月2日付「南北日報」
「2万5千個の投票箱が届いた」


9月2日付「新生新聞」
「日本が37億フランを供与、
選挙の条件は満たされた。」


9月2日付「新生新聞」
「10月31日選挙の条件は整った。」
日本大使「延期があるたびに、私は失望してきた。」


9月2日付「われらが道」紙
「日本が投票箱と仕切台を供与」


9月3日付「愛国新聞」
ニュース:日本は、投票箱2万5千個、仕切台6万個、選挙キット5万個・・・を選挙管理員会に供与しました。
バグボ大統領:そんなに呉れちゃって、日本の皆さんは、どうやって自分たちの選挙をやるつもりなんだろう。

 演説の後握手する、バカヨコ委員長と魏文華・中国大使

 資機材の引き渡し

 勢揃いのバイクとオート三輪

 これがバイク、全部で150台が供与される。

 これがオート三輪、全部で200台が供与される。

 選挙事務用のランプも、1000個が配られる。

 太陽電池で昼間に充電するので、電源が要らない。

 光が足りなければ、後ろのハンドルを回して発電する。

 携帯電話も、100個を提供。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿