コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

大統領の宣誓式(2)

2010-05-08 | Weblog

「大統領に、憲法典に対する宣誓を求めます。」
憲法院長が、ニヤシンベ大統領に促した。宣誓台に置かれた分厚い憲法の本に、ニヤシンベ大統領が手を置き、宣誓を行う。祝福の礼砲が何度も放たれて、地響きを立てる。引き続き、軍の衛兵が、トーゴの国旗を掲げて大統領のもとにやってきた。大統領は国旗に最敬礼し、手に受け取った。そして国歌が吹奏される。私たちも全員起立である。この国旗を受け取る儀式は、大統領が国事の責任を引き受けるということを象徴しているのだろう。

次いで、ニヤシンベ大統領は、来賓の国家元首から、祝福を受ける。最も古くから大統領職にあるコンパオレ大統領から順番に、ニヤシンベ大統領のもとに赴いて、肩を抱き合って祝福を行っている。後ろに控えた合唱団が、コンパオレ、コンパオレと歌っている。そして写真撮影。一人の代表の祝福が終わるまでまって、次の代表が呼ばれる。合唱団が、その代表の歌を歌う。これが、4人の国家元首と、各国から派遣された特使たちについて続けられる。冗長に思えるけれども、これこそが儀式なのである。私は眠さをこらえている。アフリカで大使を務めるというのは、体力が要るのだ。

ようやく来賓の国家元首たちの祝福が終わったと思ったら、新大統領に対する勲章授与だ、という。長老の賞勲局長が両脇を支えられるようにして現れ、さらにのんびりした儀式が続く。そして、「軍隊の掌握(prise d’armes)」という行事に移る。これにより、新大統領は、軍の総司令官から指揮権を授与される。ニヤシンベ大統領は、閲兵用の車両に乗り、整列した軍隊を閲兵して回る。この様子は観覧席からは見えない。閲兵を終えて戻って来る大統領を、私たちはただ待っている。

戻ってきた大統領を前に、その軍隊たちの行進がはじまった。軍楽隊の勇壮な演奏に歩調を合わせて、陸海空の各軍隊、憲兵隊、警察、消防隊などの組織が、順番に行進していく。色とりどりの制服で、一人一人が銃や砲を携帯している。各部隊は、儀式用の威厳たっぷりの歩き方で行進し、ニヤシンベ大統領の前に来ると、最敬礼や捧げ砲を行う。これがまた、延々と続く。

すべてが滞りなく終わり、先ほどのベンツのオープンカーが、来賓の国家元首たちの車列とともにやってきた。ニヤシンベ大統領は、各国大統領や代表とともに、車列に乗り込んで、満場の拍手の中で退場した。これでようやく式典が終わった。時計はすでに、午後3時を回っている。朝9時から入場していた閣僚たち、大使連中、その他の来賓たちは私も含め、ほぼ6時間の間、食事はおろかトイレにも立たず、じっと座っていた。感心なものだ。

私は、車でホテルにとって返した。朝から何も飲まず食わずで、式典に拘束されていたのだ。お腹もすいている。眠いのはやまやまながら、この後夜8時から開かれる祝賀晩餐会に出なければならないから、とりあえず元気を維持するために何か食べなければ。まず簡単な食事を済ませた。そして急いで、2時間ほど許された睡眠をとった。

その祝賀晩餐会は、歌と踊りなどを交えて、夜11時まで続いた。私は眠さを堪えながら、それでもワインなどを傾けながら、隣の人とも談笑しなければならない。私は、睡眠不足で疲労困憊。ようやく深夜になって、ホテルに帰って寝床に倒れ込んだ。このように、アフリカで大使を務めるというのは、つくづく体力が要るものである。ともかく、私はなんとか日本の代表としての役目を果たせ、安堵した。

それにしても、予定時間に鷹揚なトーゴの運営ぶりは恨めしい。式典が予定通り13時に終わってくれていれば、午後に睡眠をとって回復できていたのだが、それも出来ずにたいへん辛かった。予定を全く守らず、平気で人々を待たせるというようなことは、コートジボワールではよくあるし、ベナンでも経験したけれども、トーゴもやはり同じだったか、と少なからず落胆。

ところが、トーゴにとって、これは逆恨みだったことが、翌日判明した。この一連の行事を企画運営した責任者の一人から、次のように言われたのだ。
「大使、昨日は行事が2時間も遅れて、大変申し訳なかった。」
そうですね、閣僚の皆さんも含め、皆我慢強く待ったことですよ。

「予定通り10時には、式典を始める全ての手筈が整っていたのです。最後にロメに到着する国家元首のコンパオレ大統領も、問題なく9時には特別機で到着して、待機していました。ところが・・・」
ところが、何かあったのですか。
「前日からロメ入りしていたバグボ大統領が、まだ宿舎から出発できないと。11時になって督促しても、まだ朝食中だから駄目だという連絡でした。」

何と、トーゴの采配の問題ではなかった。コートジボワールのバグボ大統領のおかげで、満場の人々は2時間待たされていたのである。私は、コートジボワールの大使として、何だかトーゴにたいへん申し訳なく思った。

 憲法典が宣誓台に置かれる。座っているのがニヤシンベ大統領。

 ニヤシンベ大統領の宣誓(*)

 引き続き、国旗の引き渡し(*)

 バグボ大統領の祝福(*)

 軍隊を掌握する。(*)

 軍隊の行進が始まる。(*)

 貴賓席で軍隊の行進を観閲する。

 起立して閲兵するニヤシンベ大統領

 第二期目に就任したニヤシンベ大統領(*)

(*):写真提供は現地報道記者


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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2010-05-08 16:28:39
まさに踏んだり蹴ったりとはこのことですね。万一に備えて一日早い便を選んでいらっしゃったのに、ここまで踏んだり蹴ったりな結果になってしまうとは、アフリカでの大使任務がどれだけ大変なものなのか伺い知れました。万全を期しても期しても、予想以上の事態がこれだけ積み重なるのが常とは、本当に忍耐のいる環境なのだと感じさせられました。
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Unknown (しょうこ)
2010-05-08 23:58:01
NYでのGilbert Hを知っている私としては、彼が一体どうやってトーゴの政治の世界でやっていっているのか不思議です。そして体力勝負の件、よく分かります。途上国では健康と気力が何よりです。どうぞお体にお気をつけてますますのご活躍をお祈りしております。
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