コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

タクシー運転手の外交

2009-04-22 | Weblog
横浜には、「熱帯木材機関(ITTO)」という国際機関の本部がある。わが国が本部を誘致している、数少ない国際機関の一つである。熱帯木材への需要の高まりとともに、十分な森林資源の管理をしていかないと、乱伐によって甚だしい自然破壊や環境悪化をもたらしうる。そういう観点から、木材生産国と木材消費国との間で、協力関係を築いて、熱帯林の持続的な開発を実現しようという目的で、1986年に設立された。

日本は、世界有数の熱帯木材輸入国である。そういう背景もあって、日本がITTOの本部を誘致した。横浜は本部招致に手をあげて熱心に動き、誘致後もこの国際機関の活動を、積極的に支援してきている。これまでITTOは、造林や森林経営についての人材育成など、林業の持続的な発展を目指す活動をしてきた。また森林認証を行ったり、違法伐採を防ぐための法的・行政的な枠組みについての技術支援などを行ってきた。

このように産業としての林業育成の観点から活動してきたITTOが、環境保護の観点から原生林の保全にも乗り出しつつある。昨年11月には、熱帯林の保護のため植林のセミナーが横浜で開かれた。コートジボワールから、カヒバ国立公園局長も出席した。カヒバ局長は、中田宏横浜市長とも会うことができて、コートジボワールという国について知ってもらうことができた、と大変喜んでいる。

「横浜は、都市と水の共存する空間を創り上げていて、すばらしいと思います。ホテルを出て街を歩くと、水辺と高層ビルや巨大な橋が美しく調和する風景に、とてもわくわくします。それから、ゴミが一切ない。あれだけ人々が往来しているのに、ゴミが全く見当たらない。これは驚くべきです。」
先だって、メレッグ都市衛生相も同じようなことを言っていた。ゴミがないというのは、日本では横浜だけの話ではないだろうが、コートジボワールの人々には余程驚きなのだろう。

「しかし、横浜で何より強烈な印象だったのは、タクシーの運転手です。」
カヒバ局長は、奇妙なことを言い出す。
「タクシーは、まるで王様の車のようでした。清潔で、座席に真っ白なカバーがかけてあって、私は車に乗るのに靴を脱ぎそうになりました。そして、ドアーが自動で開いて、自動で閉まるのです。客はただ乗り込むだけ。」

なんだ、そのことか。日本に来た外国人は、皆そろって、タクシーが自動ドアなのを面白がる。
「運転手はネクタイと背広を着て、きわめて礼儀正しいのです。私たちアフリカ人にも、とても丁寧に接してくれます。こんなことは、ヨーロッパではありません。」
まあ、それもそうなのかな、と思う。日本人には、黒人蔑視は比較的少ない。

「そして、ある日皆で連れ立って、ホテルからタクシーで出かけました。ずいぶん走って目的地について、降りたところで、同僚の一人がデジタルカメラを車内に忘れたことに気がついた。時すでに遅く、タクシーは走り去っていました。まあ、うっかりすることもあるさ。がっかりする同僚をなぐさめつつ、用事を済ませてホテルに戻りました。何と驚くなかれ、デジタルカメラがホテルに届いていました。タクシーの運転手が、わざわざホテルまで戻って、届けてくれていたのです。」
カヒバ局長は、ちょっとため息をつく。
「こういう国の人々と、ほんとうに仕事をしたいです。」

日本の話が出るたびに、カヒバ局長はこの話を皆にしている、という。横浜のタクシーの運転手は、外交官がどれだけ頑張っても、なかなか成就できないような日本への信頼を、コートジボワールの人に植えつけた。私は、日本国民としてちょっと得意な気持ちになった。

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