come up with ~
How did you come up with such a unique idea?
どうやってそんなユニークな考えを思いついたのですか。
最近、大学入試で出題頻度の高いイディオムである。「思いつく」が定訳とされているが、これにはちょっと問題がある。私は、この定訳の、単に個人の頭の中の出来事だけのような一義的な訳に大いに不満がある。不満と言うのは、不足だということである。文脈によっては単に「思いつく」では不十分な場合、またまったくの誤りとなる場合があると言いたいのだ。以下の例をみてほしい。
Einstein came up with the theory of relativity in 1905.
A) アインシュタインは1905年に相対性理論をひっ提げて登場した。
B) アインシュタインは1905年に相対性理論を思いついた。
”come up with = 思いつく” という公式だけの頭のひとには、A)の訳は驚きかもしれない。しかし、「1905年に」という歴史的文脈からすると、むしろ B)の訳は舌足らずの印象を否めない。
さて、そもそも "come up" は、本来「こちらにやってくる」という意味である。 そして、"with ~ " はもちろん「~を伴って」 という意味である。
そうであるならば、以下の文はどうだろう。
He came up with his wife at the party.
A) 彼はそのパーティーに妻を伴って現れた。
B) 彼はそのパーティーで妻を思いついた。
はたして、B) の「妻を思いついた」 の訳は成立するだろうか。
ちなみに、 "come up" は "happen" 「(出来事などが)起こる」の意味にも使われる。以下の例を参照されたい。
Call me on my cell phone if anything comes up.
何かあったら、僕のケータイに電話してくれ。
さて、come up with に戻る。アメリカ英語の権威的辞書である メリアム・ウェブスター英語辞書(Merriam Webster) での定義は以下のとおりであるが、やや抽象的なきらいがある。
come up with : to produce especially in dealing with a problem or challenge <came up with a solution>
コリンズ類語辞書(Collins Thesaurus)によれば、以下のとおりである。
come up with : verb
produce, advance, create, discover, furnish, offer, present, propose, provide, submit, suggest
こちらのほうがウェブスターより、具体的な類語を偏りなく列挙している点でわかりやすいと言えるだろう。類語として挙げている11の動詞のうち、過半数である7つは「提案する、提示する、提起する、提供する、提出する、といった、相手・受け手を前提とした表現であって、単なる「思いつく」の訳では収まりきらないものである。
ここで、以下の用例を見てほしい。
She came up with a very convincing explanation for the queer phenomenon at the conference.
A) 彼女はその学会で、その奇妙な現象について説得力ある説明を提示した。
B) 彼女はその学会で、その奇妙な現象について説得力ある説明を思いついた。
どちらの訳が適切かは、言うまでもないだろう。B)は適切でないどころか、明らかな誤りとも言える。なぜならば、B)の訳では、彼女はその学会の席で初めてその説明を思いついたことになってしまうが、常識的に考えて、思いついたのは学会で提示・発表する以前であるはずだからである。
しかし、もし元の英文中の"at the conference" が "in her bed" だったらどうだろう。その場合、彼女は自分の家のベッドの上で今、目が覚めたばかりで、夢の中で何かヒントを得たところという状況かもしれない。それであれば、「思いついた」の訳こそ適切であろう。逆に「提示した、提案した、提起した・・・」の訳は不適切と言える。
She came up with a very convincing explanation for the queer phenomenon in her bed.
以下の用例は、つい最近のイギリスのヤフーニュースでの用例である。ジャーナリズムの分野でもよく目につくようになった。
Many towns cannot come up with subsidy payments.
A) 多くの町は補助金を出すことができない。
B) 多くの町は補助金を思いつくことができない。
言うまでもなく、B)の訳は誤りである。たしかに訳は A) のようになるのだが、それにしてもここでは "come up with" は、ほとんど上記のコリンズ類語辞書の挙げている "offer"、"furnish"の意味で使われている。<読者の指摘に感謝したい>
私が、たまたま先日読んでいたミステリー小説(2009年出版)にも、この come up with が5回ほど出てきた。以下はそのうちの2例である。
It was like running late to catch a plane---the stressful part was racing, hoping you might still make it. Once you knew the plane was gone, you could relax, accept it, come up with an alternative. (39.1 FAULT LINE by Barry Eisler)
「それは飛行機に間に合うように、しかしもう遅刻して走っている時に似ている。きつい部分は、ひょっとしたらまだ間に合うかもしれないという一縷の望みをかけてがむしゃらに急いでいるときだ。飛行機がもう飛び発ってしまったとわかってしまえば、リラックスできて、それを受け容れ、別の方法を考えつくこともできよう。」
こちらは「思いつく」という訳で十分な例だろう。
Alex got to the office at six o'clock the next morning. He hadn't slept well, but at least he'd come up with a course of action. (62.1 FAULT LINE by Barry Eisler)
「翌朝アレックスは6時に職場に着いた。よく眠れなかったが、少なくともその日の行動予定は立てることができた。」
こちらは、「思いつく」ではなく、「作り上げる」という意味にとるべきだろう。
追記: 以下は、Frederick Forsyth の AVENGER で拾った用例である。
What he came up with was a process now known as "pressure acid leaching."(31.13 AVENGER by Frederick Forsyth )
「彼が考案したのは、今日(こんにち)”加圧酸化浸出”として知られている技術工程だった。」
But Washington did identify the girl. They came up with a firm ID based on the prints. (144.13 AVENGER by Frederick Forsyth )
「しかし、ワシントンはその少女の身元を割り出した。指紋に基づいた確かな身元を割り出してみせたのだ。」
は、最近流行している言い回しなので、いろいろな意味に濫用されているきらいがある。日本の入試英語問題の作成者は、そのうちの「思いつく」だけの定訳しか”思いつかない”で、一つ覚えのように出題している。しかし、現実世界の英語では、この表現はもっと流動的に動いていて、その意味も多岐に亘っている。そろそろ入試でも”思いつく”以外で出題されてくるだろう。
リーダーズ英和辞典でcome up withを引くと次の訳が出ます。(一部略
<びっくりするようなことを>いう、しゃべる;提案[提供]する、<解答など>を見つけ出す;考え出す、創り出す
このような和訳の話であれば英英よりも英和が手っ取り早いかと思います。記事本文で提示された例文もこれらの訳が当てはまるものもあるかと思います。
英和辞典といえど製作者が膨大な英文から用例を探してしっかり定義しているので、一度使ってみてはどうでしょうか
受験英語において定訳として1つしかないことには同感です。
小学校から大学まで、さらに、英語だけでなく全教科で日本の教育に問題があると考えます。
<びっくりするようなことを>いう、しゃべる
失礼しました。
括弧をつけたため、消えてしまったようです。
アインシュタインの文に関係するのでもう一度書きます。
びっくりするようなことを いう、しゃべる
失礼しました。
貴方が文中に引いた、
Many towns cannot come up with subsidy payments.
「多くの町は補助金を獲得することができない。」は逆の訳になっていますね。
この文は、町=行政機関ですから「補助金の支出ができなくなっている」という意味です。(この文脈では、supplyと同義と考えた方がわかりやすいでしょう。)
American Heritage Dictionary of Idioms:
Produce, supply; also, discover. For example, Henry always comes up with the wrong answer, or We're hoping they come up with a cure in time to help Aunt Alice.
また、
Collins COBUILD Phrasal Verbs Dictionaryによれば、以下のとおり:
come up with
If you come up with a plan, idea, or solution, you think of it and suggest it.
I hope to come up with some of the answers.
It didn’t take her long to come up with a very convincing example.
The commission came up with a compromise.
If you come up with a sum of money, you provide it when it is needed.
You have no choice but to come up with the $120,000.
Revlon came up with $750,000 to fund a research program.
つまり、このイディオムは内心だけではなく、外に出す(suggest、provide)ことも概念として内包しているのです。
日本語の辞書の「思いつく」で覚えてしまっては誤解してしまう典型事例です。
貴方が文中で引用された、他の文例ももう一度吟味されるとはっきりしてくるでしょう。
(受験生の方も見ているようなので、おせっかいながら)