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ギョベクリ・テペという古代文明

2013-11-17 14:01:23 | 歴史・考古学

“ギョベクリ ・ テペ” を知っていますか?

 Göbekli Tepe

今から20年ほど前の1994年に、トルコの一農夫が偶然掘り当ててしまった古代遺跡、ギョベクリ・テペ。

現在も発掘が続いており、全体の5%ほどが明るみに出てきていますが、発掘完了にはまだあと50年以上かかる見込みです。

 

人類史の書き換えを迫るような、とんでもない発見ですが、なぜかあまり知られていません。おそらくあまりにも今までの定説に反する事実が出てきてしまったために、説明がつかないためでしょう。

 ご注意ください。これは、いわゆる“トンデモもの”ではありません。れっきとした研究者、研究団体によって承認されている議論の余地のない考古学的大発見です。ナショナル・ジオグラフィック・ソサエティー、BBC放送、ヒストリー・チャンネル、ディスカバリー・チャンネル、スミソニアン博物館などが取りあげて、ビデオなどを制作して公開しています。日本ではすでに数年前にNHKがテレビ放送をしていますし、TBSの「世界ふしぎ発見」でも取り上げられていますので、知っている人は知っています。

 

にもかかわらず、一般にはほとんど知られていません。テレビで見たひとも忘れてしまっています。なぜでしょうか。おそらく考古学、人類学、歴史学、先史学などの学界ではまだこの “ギョベクリ・テペ” のきちんとした位置づけができずにいるからです。さらに言えば、これを受け容れるということは、今までの文明史の定説をすべてひっくり返すことになるからです。アカデミズムの世界は腰が重いのです。自分たちが営々として築き上げてきた権威ある理論、説明原理を否定する事実に正面から向き合うことにはなかなか乗り気になれないのです。おそらくあと20年、30年経っても学校の歴史の教科書に出てくることはないでしょう。事実が“公認”されるのにはとてつもない時間がかかるものです。そこにはたいへんな“見えざる抵抗”があるのです。学界の権威者にとってはたしかに不都合な真実でしょう。あなたが今初めて知ったということも、この事実が今リアルタイムで実にゆっくりでしか広まっていないことを物語っています。ウィキペディアでの記述も実に貧弱なものです。

 

現地での発掘も慎重で綿密な作業のために現在 5%しか済んでいません。あとの 95% を済ますのにまだまだ50年以上かかります。 

同じ事実を今受け容れることと、50年後に受け容れることの差はどこにあるのでしょうか。自分の頭で考えるひとは、知った時点でその情報に信頼性があるかどうか判断したうえで、定説があるか無いかに関係なくその事実を受け容れるかどうかすることでしょう。自分の頭で考えないひとは同じ事実が数十年後に定説とともに教科書に載るようになってやっと受け容れる、というよりは従うことになるでしょう。“50年待ちピープル”はつねに世の中の絶対的多数派です。

現在率先して発掘作業に当たっているドイツの考古学研究チームはすでに20年近く現地で発掘作業を続けています。リーダーのクラウス・シュミット博士は現地のトルコ女性と結婚して定住し、この発掘に生涯をかけています。しかし、彼の生きている間に発掘作業が完了することはないでしょう。

 クラウス・シュミット博士

 

ギョベクリ・テペ: この古代遺跡の特徴

●異常に古い: 

放射性炭素年代測定法によって1万1千年から一万2千年の間のものであることが証明されている。古代エジプトの大ピラミッドよりもさらに7000年古いことになる。これは客観的・科学的・物理的事実であって、説明や解釈ではないので、反論や突っ込みはまったくない。これだけでも大変なことである。

 

●神殿である: 

居住空間、つまり村や都市ではなく、神殿、つまり “宗教的、呪術的意味をもつ施設” と推定される。儀式、祭礼のための施設であった可能性がある。居住生活の痕跡がほとんどない。

 

●素朴であるが、高度な技術: 

ストーンヘンジよりも5000年以上さかのぼるにもかかわらず、ストーンヘンジよりも複雑で、より洗練されたスタイルを持っている。

 

●金属器以前の新石器時代に属する: 

金属器を持たない狩猟採集民による建造物である。石の切り出し、石の彫刻には金属の道具ではなく、石器が使われたと考えられる。ちなみに土器も見つかっていない。

 

●農耕、牧畜以前である: 

穀物栽培、家畜の飼育の痕跡が出てこない。人類史において、農耕が始まる5000年以上も前の建造物である。付近で発掘されるまとまった動物の骨はすべて野生動物のものである。

 

●文字がない:

動物の絵や抽象的な図形、シンボルは彫られているが、文字らしきものは見つかっていない。当然話し言葉はあったであろうが、それをとどめる術(すべ)としての文字をまだ持っていなかった狩猟・採集民による建造物である。

 

●人類史の定説を覆す:

“農耕 → 食糧・富の蓄積 → 階級の発生 → 都市の発生 → 宗教施設の建造“ という従来の文明史、考古学の常識を覆す “オーパーツ” である。

 

 ●保存状態がよい:

1万年以上昔の遺跡にしては例外的に保存状態が良い。意図的に埋められていたために未曾有といえるほど損壊を免れている。考古学者にとって夢のような遺跡である。

 

 ●名前の由来: 

“ギョベクリ・テペ” という名前は、この遺跡が発見された、下の写真に見える丘の名前である。現地語で“太鼓腹の丘”という意味である。実はこの丘の隆起は自然のものではなく、人工的なものであった。

 

1994年に、この古代遺跡を偶然掘り当てたトルコの農夫

 

  

ここにそびえる巨石群は、金属器も土器もまだ知らなかった人々によって、約 1万1千年前に石器によって切りだされ、刻まれたものです。

 

 

ギョベクリ・テペの発掘現場の航空写真

 

 

 

ギョベクリ・テペの位置: トルコのシリア国境の近く

 

 

 

ギョベクリ・テペの建設想像図

 

 シュミット教授の説によると、ギョベクリ・テペは石器時代の神殿であり、この説は考古学、歴史学、先史学の専門家にも支持されています。放射性炭素年代測定法によってばかりでなく、比較文化的、様式的分析によっても、ギョベクリ・テペは歴史上最古の宗教的施設であるとされています。クラウス・シュミット教授によれば、この “丘の上の大聖堂” は周囲100マイル(160km)に住んでいた人々の巡礼地として信仰されていたものです。

  

 

 ライオンとイノシシのレリーフ

 

 

この神殿の周辺で当時の現地の動物種、たとえば鹿、ガゼル、ブタ、ガチョウの骨が大量に発掘されていますが、いずれも野生種で、食用に狩猟されたものです。

  

 

ギョベクリ・テペは最大級の考古学的発見であり、人類史における重要な転機の理解に根底からの変更をせまるものであるとして、スタンフォード大学のイアン・ホッダー教授は、ギョベクリ・テペは人類史のすべてを変えてしまうと言っています。「ギョベクリ・テペはリンゴを荷車ごとひっくり返してしまう。我々の理論はすべて間違っていたのだ。」

 "…It overturns the whole apple cart. All our theories were wrong."

 

 

ヨハネスブルグ、ウィットウォータースランド大学考古学部のデビッド・ウィリアムズールイス教授は、「ギョベクリ・テペは世界で最も重要な考古学的遺跡である」 と言います。

 

 

記念碑的な巨石群の建造という大事業が、今まで想定されていたような定住型農業社会だけでなく、狩猟採集民の能力内にあったことを示しています。発掘者クラウス・シュミットはそれを、「まず神殿ができ、それから都市ができる」 と言います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神殿の規模の大きさだけでなく、林立する個々の多数の巨石の存在によってギョベクリ・テペの遺跡はユニークなものとなります。

  

 

 

 
ニューズウィーク誌はこう評しています。

「シュミット氏の説は単純かつ大胆である。信仰の欲求、それこそが人類を協力させ、歴史上最初の都市型生活へと導いたのであった。この神殿を建設し、管理する必要性こそが彼らに安定した食糧源の確保、つまり穀物栽培や家畜の飼育に駆り立てたのである。そして、自分たちの新しい生活様式を堅持するために定住生活へと移行したのである。つまり、神殿が都市を生んだのである。

 Schmidt's thesis is simple and bold: it was the urge to worship that brought mankind together in the very first urban conglomerations. The need to build and maintain this temple, he says, drove the builders to seek stable food sources, like grains and animals that could be domesticated, and then to settle down to guard their new way of life. The temple begot the city.

 


この新説は人間起源の通説の年表を逆転させる。通説では、原始人は1万年から1万2千年前の新石器革命を経たとされる。こうした旧来の説明モデルでは、羊飼いや農民が最初に出現し、それから陶工や村落民、都市、専業労働、王、文字、技芸、そしてついには飛行機の出現に至る過程の、その途中のどこかで組織化した宗教が発生することになっている。ジャンジャック・ルソーの時代から、思想家たちは社会的集約都市が最初に形成されて、その後、大寺院を擁する“高度な”宗教ができるとしてきた。こうした人類史のパラダイムは米国の高校などでもいまだに教えられている。

 This theory reverses a standard chronology of human origins, in which primitive man went through a "Neolithic revolution" 10,000 to 12,000 years ago. In the old model, shepherds and farmers appeared first, and then created pottery, villages, cities, specialized labor, kings, writing, art, and --- somewhere on the way to the airplane --- organized religion. As far back as Jean-Jacques Rousseau, thinkers have argued that the social compact of cities came first, and only then the "high" religions with their great temples, a paradigm still taught in American high schools.

 


考古学者のシュミット氏が正しければ、宗教というものは都市生活が始まるよりもずっと以前の段階で出現しているように思える。だからこそ、宗教というのは文化の産物や神の啓示によるというよりもむしろ人間の遺伝的形質によるものだと考える人もいる。かつて考古学者ジャック・コーヴァンは「神々の始まりが農耕の始まりである」と喝破したが、ギョベクリ・テぺの遺跡はその実例となるかもしれない。」

 Religion now appears so early in civilized life --- earlier than civilized life, if Schmidt is correct --- that some think it may be less a product of culture than a cause of it, less a revelation than a genetic inheritance. The archeologist Jacques Cauvin once posited that "the beginning of the gods was the beginning of agriculture," and Göbekli may prove his case.

  

ギョベクリ・テペのトーテム

http://twitter.com/GobekliTepe http://GobekliTepe.info.tr/

 

現時点では、ギョベクリ・テペは考古学や先史学に対して与える回答よりももっと多くの問いを投げかけます。定住生活以前の社会という条件下にあって、どのようにしてこれだけ複雑な構築物を築いて管理するほどの動員力を持ち得たのかまだ解明されていません。

  

研究者たちはギョベクリ・テペの巨石群のレリーフの絵柄を“解読”できていません。それらの動物のレリーフが何のために彫られたのか確かなことはわかりません。ライオン、イノシシ、鳥、昆虫といった多種多様な動物種がいったい何のために描かれたのかについて、決定的な説明があるわけではありません。

遺跡には居住生活の痕跡がほとんどありませんし、描かれている動物は主に捕食動物であることから、これらの巨石群は何らかの魔除けの意味があったのかもしれません。また、これらはトーテムとして機能していた可能性もあります。

これらの巨石群に囲まれた大きな円形もしくは楕円形の部屋はどれも直径30メートル弱のものです。

  

これらの円形の“部屋”は数十年ごとに埋められて、その上にひと回り小さな新しい“部屋”が同心円的に造られていますが、わざわざ埋めた意味も解明されていません。それらの“部屋”の中心にT字型の巨石が建てられています。そして、それぞれの巨石には動物や抽象的なシンボルが彫り込まれており、今から一万2千年前の人間社会の文化的記憶と象徴的世界を表しています。

  

 

この神殿に人間の埋葬があったかどうかは不明です。この遺跡群が周到に埋め戻されていることの理由も不明です。しかし、意図的に埋め戻されていたために、ギョベクリ・テペの遺跡群は保存状態が非常に良好です。地表に露出したままだったら、一万年ももたなかったかもしれません。この遺跡の背景となる文化、そしてこの遺跡じたいの意味について何らか確実なことを結論付けるためには、まだまだ証拠を積み上げる必要があると言えるでしょう。

 

 巨石に施された彫刻はどれも一万二千年前の私たちの祖先の石材加工における素晴らしさ、その卓越した技術を証明するものです。

 

 

 

T 字形の石柱は腕を広げた人間の姿を様式化したものと考えられています。

 

 

 

石柱の多くは写実的なスタイルの立体的レリーフとして刻まれています。

 

  


 

 

 

 

 

 

 

 

 

将来的な計画として、博物館の建設、遺跡周辺の考古学的公園化が考えられていますが、いずれもギョベクリ・テペ古代遺跡が発見されたときの状態をできるだけそのまま保存する目的に沿ったものです。

 

 2010 年、世界遺産基金 (GHF) はギョベクリ・テペ遺跡を保存するための長期的保全プログラムに着手することを発表しました。後援者には、クラウス ・ シュミット教授とドイツ考古学研究所、ドイツ研究振興財団、Şanlıurfa 自治体、トルコ観光文化省大臣が含まれます。

 

 

  

歴史上知られているうちでの最古の等身大の人間像

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギョベクリ ・ テペについての一つの説は、こうした立像を設置して、そばの小さな穴々に火を灯したのではないかというものです。

 

 

Sources:
https://docs.google.com/file/d/0B8yAiUCdzj53U2w5aEJaZXVFcVU/edit
https://www.facebook.com/gobeklitepe

 


“ギョベクリ・テペ” 建設想像図

2013-11-15 23:45:45 | 歴史・考古学

ギョベクリ・テペ 建設想像図  /  Building Göbekli Tepe

出典:http://science.nationalgeographic.com/science/archaeology/photos/gobekli-tepe/

 1万2千年前の新石器時代の終わりに、まだ農耕を知らずに狩猟採集生活をしていた人類が驚くべき巨石神殿を建設していた。

古代エジプトのピラミッドよりも7千年前の時代であった。イギリスのストーンヘンジよりも5千年以上前のことである。

1994年にトルコでたまたま発見された、現代における最大級の考古学的発見である。

この発見は現在、考古学、先史学、歴史学、人類学のアカデミズムの世界に激震を与えている。

今までの人類史のパラダイム、文明発生の理論を根底から突き崩す起爆力を秘めた発見である。

 

 

 

 


“ギョベクリ・テペ” ギャラリー (1)

2013-11-14 23:49:36 | 歴史・考古学

ギョベクリ・テペ ギャラリー 1

すでに20年近く発掘されているが、全体のまだ5%ほどが出てきたに過ぎない。

残りの95%を発掘するのにあと50年以上かかると見込まれている。

ドイツとトルコの共同発掘プロジェクトによって、薄皮をはがすような地道な発掘作業が続けられている。

今までまったく知られていなかった巨石文明の遺跡である。考古学者にとっては夢のような場所である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


“ギョベクリ・テペ” ギャラリー (2) 夜景

2013-11-13 01:58:50 | 歴史・考古学

ギョベクリ・テペの夜景

巨石文明の遺跡の美しさは夜景において特に印象的である。静かに味わっていただきたい。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨石文明と天文学とは切っても切れない縁がありそうである。すでに関連付けの試みが始まっている。

 

 

 

 


なぜ英語ができないのか ― 英語以前の問題

2013-11-10 12:17:29 | 英語の読み方

同僚の先生たちに訊かれた。

「先生、どうしてうちの生徒は英語ができないんでしょうかね」

以下はわたしの答えである。

「たしかに英語ができない生徒が多いですが、英語以前にそもそも日本語がダメですよね。まともな日本語を組み立てることができない生徒が多いんじゃないでしょうか。

普通の会話でもメールでも、短い文で互いにわかりあってしまう。ちょっと複雑なことを言葉できちんと言い表すということができないですね。日本語でできないことが英語でできるわけがないです。」

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高校生に和訳を言わせると、「・・・みたいな感じじゃないっすか。」とか「・・・というか、その、あれですよ、ほら。」といった調子で、言いたいことが相手に伝わらないことに苛立ちを覚えていることがよくある。そこで、「その、アレですよ、ほら。」というふうに認知症の老人のような話しぶりになってくる。17歳、18歳の高校生が、70歳、80歳の老人と同じような認知症的症状を呈してくるのである。

英文和訳をさせると、日本語の実力が本当によくわかる。漢検などよりもずっとよくわかる。漢検はしょせん漢字の知識だけであって、ほとんど暗記でクリアできるものであるが、英文和訳は日本語の運用能力、論理的思考、一般常識が要求される。国語の先生には申し訳ないが、現代国語のテストよりも英文和訳のテストのほうがその生徒の日本語の実力、いや、一般的な言語運用能力がわかるのだ。一部の国語の先生は、このことが分かっている。そういう国語の先生は例外なくある程度英語ができる先生である。英語が苦手で国語の教師になったようなタイプの先生は、はっきり言ってそもそも言葉のセンスがない。考えても見たまえ。外国語に興味を持たない人間に言葉のセンスを期待するほうが間違っている。

さて、以下の文を中学生、高校生、いや普通の日本人に訳させるとどうなるか。

She is studying in her room now.

「彼女は彼女の部屋で今勉強しています」   10人中9人以上がこう訳す。

「彼女は今自分の部屋で勉強しています」 と訳す生徒が1クラスに1人いれば上等である。

 

My father is a teacher. How about yours?

「わたしの父は教師です。あなたの父はどうですか?」 

こう訳して平然としている生徒がほとんどである。たいていの教師もそれを直さないどころか、当人もそう訳して授業している。

「わたしの父は教師です。あなたのお父様何をなさっていますか?」 と訳せるのは大学生にも少ない。日本語の常識では、ひとの親を指して「あなたの父」、「あなたの父親」と言うのはとんでもない失礼なことである。残念ながら、こういうことは学校の国語の授業でも決して教えない。あなたは教わったことがあるか?

 

This library is 28 years old but our shcool is 60 years old.

「この図書館は28歳ですが、わたしたちの学校は60歳です」 と訳して事足れりとしている人間の言葉のセンス。「言いたいことが伝わればいいではないか」という居直りこそが言葉の貧困を招いている。

「この図書館は築28年ですが、うちの学校は創立60年です」

 

Ninety-nine out of a hundred women may have given up, but Marie Curie was that hundredth woman.

「100人の女性のうち99人は諦めたかもしれないが、マリー・キュリーはあの100番目の女性であった」 

この訳はかなりいいところまでいっている。しかし、that  でつまづいている。

「100人の女性のうち99人は諦めたかもしれないが、マリー・キュリーはその100番目の女性であった」  ちなみに、キュリーという名前を知らない高校生は意外に多い。

 

To Benjamin Franklin social responsibility was as much his busisness as trying to discover whether the ant possessed some system of thought communication or to understand how sea shells could be found in the rocks of mountains a mile above the surface of the sea.

この英文和訳問題は大学入試レベルであるが、きちんと訳せる受験生はまれである。たしかに構文は複雑であり、高度ではある。しかし、非常に具体的な事柄を挙げてはいないだろうか。 ant,   sea shells,   rocks of mountains,    the surface of the sea ...  これほど具体物をたくさん挙げている文は珍しいくらいである (蟻、 貝殻、山々の岩、海の表面 ・・・)  この文が何のことを言っているのかの手掛かりは山ほどあるのだ。にもかかわらず、この文の言っていることがつかみきれないのは、一重(ひとえ)に科学的常識、論理的思考が不足しているためである。つまり、そうしたものが欠如している人間にはこれが日本語で書かれていても即座に理解できない内容なのである。そういう頭の人間にどれだけこの英文が和訳できるか。

「ベンジャミン・フランクリンにとって、社会に対する責任は非常に大事なことであった。それは蟻には情報伝達の何らかのシステムがあるのかどうか突きとめようとしたり、海抜1マイル以上の山々の岩の中にどうして貝殻が見つかるのか理解しようとするのと同程度に大事なことなのであった。」

英語以前の問題は多く、それぞれ重大である。英単語をたくさん覚えれば解決するようなことではないのだが、英語教師の側でもそれがわかっている人間は少ない。