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Snapeの英語指南

英語長文対策、英語速読法、英語学習法、高校生、中学生、社会人の英語学習に役立つヒントを紹介。

biscuit と cookie の違い

2009-08-03 00:05:50 | 英語の語源、歴史

「ハリーポッターと炎のゴブレット」の原書の英国版に出てくる biscuits は、米国版では cookies に置き換えられている。ということは、同じものをイギリスでは「ビスケット」と呼び、その同じものをアメリカ(北米)では「クッキー」と呼ぶということである。しかし、日本人のわれわれは何となくビスケットとクッキーは違うもののように思っていたりする。少なくとも日本では両方の名称が混在していながら、混乱には至らないという不思議な状態にある。

どちらの呼び名が古いかと言えば、やはりビスケット(biscuit)だろう。ビスケットの最初期のものとされるものは、ローマ時代に現れたようだが、今日のものの原型はイスラム起源のもので、それが中世のヨーロッパの各国に広まったもののようだ。現在の英語の biscuit のスペルは、フランス語の bis (2回) cuit(焼いた)から来ている。そのフランス語は、さらにさかのぼってラテン語の panis biscoctus(二度焼いたパン)から来ている。panis biscoctus=「二度焼いたパン」というのは、日持ちを良くするために、パンを乾かして水分を減らし、もう一度焼いたものをいう。これがビスケットの始まりである。

以下、いずれも”2回焼いた”の意味である。

● biscotti    中世イタリア語

● zwieback  ドイツ語

● beschuit  オランダ語

● biscotto  イタリア語

● biscuit    フランス語

● biscuit   英語

一方、cookie (クッキー)という名称は、1703年にアメリカで生まれた。生まれたというより、アメリカの地でオランダ語から英語に入った。アメリカに渡ったオランダ人が使っていた「小さなケーキ」を意味するオランダ語の koekje または koekie から、英語に入って cookie となった。ちなみにオランダ語の koke は、英語の cake と起源が同じで、もとはゲルマン語の”丸いもの、丸いかたまり”の意味である。よく誤解されるような英語の cook (焼く、料理する)とは無関係の起源である。"cake"の「丸いかたまり」の意味は、現代の英語にもちゃんと残っていて、「一定の型の固まり」の例として "a cake of soap"「石鹸ひとつ」がある。靴にこびりついた「ひと固まりの泥」も "a cake of mud" と言うのだ。

オランダ語から英語に入ったと書いたが、実は話はもうちょっとややこしく、オランダ語から直接英語に入ったのではなく、スコットランド語を経由している。スコットランド語の "cookie" はスコーンのようなケーキを意味していた。

まとめてみる。

cookie  は18世紀初頭のアメリカの地で、オランダ語からスコットランド語を経由して英語に入った。

cookie は cake と起源が同じであって、そのスペルから多くの人が無意識に連想している cook とはまったく無関係である。

  クッキーに関する最初の文献によれば、クッキーはケーキを焼くときにオーブンの火加減を見るためにケーキの余りを丸めてオーブンに放り込んだもが起こりとされている。最初期のクッキー的な焼き菓子は、7世紀のペルシヤにさかのぼる。小麦粉があっても、砂糖がなくては焼き菓子にならない。当時ヨーロッパ人の知らない砂糖の味を知っていたペルシヤ帝国では、贅沢な焼き菓子や美味しいパンが王宮で消費されていた。当時、砂糖はインド、東南アジアからの貴重な輸入品であった。サトウキビの栽培は、はじめアラビア人によってイタリア,スペインに導入され,古来のハチミツに代わって日常の甘味料となったのは、十字軍遠征後のことといわれる。

ちなみに、英語の sugar の語源は、サンスクリット語の Sharkara → アラビア語/ペルシャ語の shakar → スペイン語の azucar  → 英語の sugar という風に、砂糖という贅沢品が伝播していった流れのままにその呼び名が伝わっている。人工甘味料の「サッカリン」は、ギリシャ語sakkharon(砂糖)を借入したラテン語saccharumの語幹に,化学的製品を表す語尾-inを付けたものである。

さて、中世の時代に小麦粉の焼き菓子はヨーロッパ中に広がり、14世紀の末のパリの市場でも売られていたという。ここで”小麦粉の焼き菓子”という表現を使ったが、クッキーとビスケットという名称の変遷以前にそれらが指す小麦系の焼き菓子の歴史をたどるのが先決と思うからである。実際にはクッキー系の呼び名は18世紀の初頭まで出てくることはなく、ヨーロッパのほとんどの国ではビスケット系の呼び名が支配的だったようである。それらの呼び名が指しているものは、ヨーロッパの国々や言語圏で微妙に違っていたはずだが、その違いがそのまま名称に反映していたわけではなさそうである。

ビスケット系の呼び名で呼ばれていた焼き菓子は、携帯しやすく、日持ちがするという利点から船員用や軍隊用の保存食として大量に生産されるようになった。15世紀半ばに始まる大航海時代の帆船は出航するときには数カ月分、ときには1年分のビスケットを積み込んでいったのである。

さて、小麦粉系の焼き菓子のビスケットは、保存食として航海用、軍隊用として業務用的需要が高まる一方、家庭での嗜好品として、より美味しく洗練され、種類も増えていった。

その他、クラッカー、乾パン、プレッツェル、スコーン、ビスコット、ラスク、パイ、マフィン 等々、硬軟さまざまなものが登場して今日に至る。

本稿の最初に、同じものをイギリスではビスケットと呼び、アメリカ(北米)ではクッキーと呼ぶと書いた。しかし、いろいろ調べてみると、呼び方はたしかにその通りであるとしても、実体のほうは1種類ではなく、一般にビスケットと呼ばれているものと、クッキーと呼びならわされているものとの間には、やはり違いがあると言わざるをえない。アメリカ英語では、権威というか定評のあるメリアム・ウェブスター英語辞典によれば、「クッキー  cookie」とは、「小さくて平たい、もしくはやや盛り上がったケーキ」であり、「ビスケット  biscuit」のほうは、「固くて、パリパリしていて乾燥している焼き菓子の総称であり、アメリカ英語における「クラッカーcracker」や「クッキーcookie」と同様のもの」としている。違いがあっても、イギリス人はその違いに頓着せずにどちらもビスケットと呼んで済ませているのであろう。同じように、アメリカ人やカナダ人は、ビスケットっぽいものを見てもクッキーと呼んで片づけてしまうのだろうと想像される。

以下は、日本人として私なりに立てた区別であるが、おそらく英米人からすると、あまり意味のない区別に違いない。

 

● ビスケット (ハードビスケットとして区分)

・ トップの写真のように、針穴があったり、文字や図柄がついているのが特徴。

・ きめが細かいものが多い。

・ グルテンの少ない小麦粉を使用。

・ 砂糖、油脂の比率が小さい。

・ 薄めに焼かれることが多く、パリッとした食感。

・ それ自体にあまり味付けがされていなく、パンのようにジャムを載せたりすることがある。

・ 2枚のあいだにクリーム等をはさんだものも多い。

 

● クッキー (ソフトビスケットとして区分)

針穴もないし、文字や図柄がついていることもあまりない。

・ グルテンの多い小麦粉を使用。

・ 砂糖、油脂の比率が大きい。

・ きめが粗くて崩れやすく、サクッとした食感。

・ それ自体がすでに甘く味付けがされていて、さらにチョコチップなどが入ることがある。

 

 

 


”枕木”は翻訳語?

2009-07-29 09:32:46 | 英語の語源、歴史

枕木を英語で“sleeper” という。日本語の“枕木”は英語の“sleeper”の直訳ではないにしても、その影響下に出てきたと私は考えている。少なくとも、あの、レールの下に等間隔に置かれている材木というその実物が、明治時代の日本で急遽必要になった時点以降に作られた言葉であろう。

鉄道という交通システムは明治時代にワンセットで移入されたものである。切符から枕木までシステムとしてまるごと入ってきた場合、それぞれを指す膨大な専門用語、技術用語もいっしょに入ってきたはずである。そのときにそれらをすべて日本語に置き換えた人たちがいたはずだが、その時点で“sleeper”が“枕木”と訳されたと推測されるのである。

明治以来、日本は総力をあげて西洋の文化・文明の移入に取り組み、一度に多数の欧米諸国からの文明・文化が並行して移入された。それまでの漢学・蘭学だけではなく、英、米、独、仏、西、伊、露など、実に多数の言語からの翻訳語が日本語の中に流れ込んできた。経済、軍事、科学、農業、林業、畜産、哲学、芸術、宗教など、社会のあらゆる諸相において 「翻訳」 「移入」がなされ、同時多発的にさまざまな分野で膨大な量の翻訳語が作られた。一つ一つの翻訳語は、さながら城を築くときの土台となる大量の砂利のようなもので、この翻訳語の砂利で固めた土台の上に、その後の日本が構築されていったのである。こうして日本は百年足らずして極東の島国から世界有数の近代国家になり得たのであるが、その礎(いしずえ)となったのは数多くの無名のひとびとによる優れた翻訳語だったのである。

“枕木”などという、字面にしても、その「マ・ク・ラ・ギ」という響きにしても、まるで元から日本語として存在していたかのようなこの言葉は、明治期の数多くの優れた翻訳語の一つに数えられるだろう。最近は枕木もコンクリート製のものや金属製のものが登場してきて、必ずしも木材ではなくなってきたために、”枕木”ではなく、”まくらぎ”と、かな表記するようになったようである。

さて、明治期に急速に行われた我が国への西欧近代技術の移入の中でも、鉄道の知識・技術は主にイギリスに仰いでいたという事実がある。フランスでもドイツでもアメリカでもなく、鉄道、つまり蒸気機関車発祥の国のイギリスがお手本になったのは至極自然な選択であっただろう。なんといっても、機関車トーマスの国である。

ちなみに、かつては日本が鉄道のお手本として仰いでいた鉄道発祥の国のそのイギリスが、今や日本の新幹線の導入を決定し、2012年のロンドンオリンピックに活躍が期待されているそうだ。最高時速は225キロ、イギリスの国内線ではもちろん最速で、2009年12月に営業開始予定らしい。そういえば日本の新幹線も当時の東京五輪にあわせて計画されたわけで、新幹線とオリンピックは国威発揚の定番セットかもしれない。

さて、"sleeper" には鉄道用語として、もう一つ別の意味がある。それが何であるか、当ててもらいたい。鉄道の世界では、数が少なくなってしまい、今や珍重されるようになってしまったものである。ヒント: sleep の意味に立ち返って考えてほしい。正解を知れば、だれもが納得するものである。正解は文末。

しかし、新幹線などというものが登場してからというもの、sleeper も徐々に退場しつつある。やはり新幹線には sleeper をつけるべきではなかろうか。イギリスの新幹線に期待したい。

 

正解: ahsiadnihs ← む読に逆

 


"red herring" 「燻製ニシン」

2009-07-26 19:12:20 | 英語の語源、歴史

red herring : 人の注意を他にそらすもの


スネイプ流定義では、「本命から注意をそらして掴ませる見かけ倒しのクズ」 となる。

red herring という言葉は、もともとは燻製ニシンのことであり、smoked herringの別の呼び名であった。ニシンを燻製にすると赤くなることから、こう呼ばれたに過ぎない。しかし、これから出来た慣用句としての red herring は,燻製ニシンの強い臭いで猟犬の注意がそらされることに由来する。


ちなみに、ニシンは北大西洋で獲れるありふれた魚で、イギリスを含むヨーロッパ北部で多く収獲・消費されてきている歴史がある。とくにイギリスでは燻製にしたニシンは食卓の定番であった。


英語に限らず、試験問題の作成者は自分の納得のいく問題を作ろうとして苦労している。特に選択問題の場合、受験者を悩ます選択肢を考え出すのにまずは自分の頭を悩ますものである。たとえば、次の問題を見てもらいたい。


 I'm looking forward  (1.to see  2.seeing  3.to seeing  4.seeing to ) you and your family.


4つの選択肢の中から、正しいものを1つ選ばせる問題である。正解は3.であるが、誤って1を選ぶ者が非常に多い。゛look forward to゛というイディオムをまったく知らない者も、ちょっと記憶のある者も、1を選んでしまう。このように正解レベルに達しない者が正解だと思ってつかむようように作った選択肢は、まさに英語の慣用句 red herring  の好例である。あいにく日本語には、これにぴったり合う語彙が存在しない。近いものはとしては「落とし穴」、「ワナ」、「引っかけ」があるが、いずれも、騙されて嬉々として食らいついてしまう"積極的な選択"のイメージが乏しいのが難点である。


CSI というアメリカのTV番組がある。次々起こる難事件を科学捜査班(CSI = Crime Scene Investigation、厳密には"犯罪現場鑑識班"か?)が最新科学を駆使して、現場証拠から犯人及び犯行過程を解明していく犯罪ドラマである。このドラマでも、警察の裏をかく犯人が、アリバイのない別人の髪の毛や汗を殺人の現場に上手に遺留するストーリーがある。ベテランの捜査員もそれが犯人のものと思い、振り回されてしまうが、やがてその遺留品が仕込まれたものであることに気がつくというストーリー展開である。まさに red herring である。「正解レベルに達しない者が正解だと思ってつかむように仕込まれたもの」と言えるが、それよりも「本命から注意をそらして、掴ませる見かけ倒しのクズ」という定義のほうが、捜査の焦点が自分に向かないように苦労している犯人の心理をよりよく表しているかもしれない。

しかし、この面白い言葉も、日本語のカタカナで「レッドヘリング」として通用させるのはかなり無理があると思う。いっそのこと「燻製ニシン」、または「ニシンの燻製」でどうだろうかと思う。嗅覚的イメージが、その言葉の意味の理解を助ける気がするのだが。


受験生に英語を教えていて、英語の入試問題を山ほどこなしているのだが、上記のような red herring の選択肢がいくらでも出てくる。どれも問題作成者が、「正解レベルに達しない者が正解だと思ってつかむようにと、ニヤニヤしながら考え出して仕込んだもの」である。私はそれらを「掴ませ」と呼んで、「こういう選択肢はうっかり掴まないように」と警告をすることがある。Be careful of RED HERRINGS!