以下は2007年に英国で出版された報告書 White Lies の序文である(翻訳はブログ主)。この報告書は英国においてたいへんな物議をかもし、その余波は収まるどころか広がる一方である。政府に保護された巨大な牛乳産業に向けて放たれた一本の白い矢ともいえる。
白いウソ ― 牛乳・乳製品の真実


序文
コリン・キャンベル教授
健康科学の分野では、私たちの日々の食生活における牛乳と乳製品の役割についてほどの熾烈な論争は他にはほとんどありません。牛乳と乳製品に健康に対する悪影響があるかどうかという問いを今さらどうして立てるのか不思議に思う人たちもいます。そういった人たちにとっては、牛乳は自然の一番完全な食品なのです。丈夫な骨と歯をつくり、カルシウムとタンパク質のすぐれた源泉なのです。さらにまた、牛乳は私たちの生活における牧歌的な側面を表してもいます。そこでは、白黒模様の優しい牛たちがモーモーと鳴きながら青々と繁った牧草地をうろうろしているというわけです。わたしはこれを知っています。というのは、私は酪農家で育った人間だからです。牛の乳を搾り、青い牧草地で放牧し、飼料の穀物を収穫し、冬に備えて干し草を保存しました。私は牛乳を飲みました。がぶがぶ飲みました。自家製のアイスクリームやバターもよく作りました。
There is hardly another controversy in health science more contentious than the role of cow’s milk and its products in our daily diet. Some wonder why we would even dare to question whether there are adverse health effects. For them, cow’s milk is Nature’s most perfect food. It builds strong bones and teeth and is a good source of calcium and protein. Besides, it represents a bucolic side of life where gentle, lowing cows, black and white, roam in lush green pastures. Iknow this, for I was raised on a family dairy farm, milking cows and walking those green pastures, then combining grain and putting up hay for the winter. I drank the milk, lots of it, and we often made our own ice-cream and butter.
私は、バージニア工科大学とマサチューセッツ工科大学での自分の研究歴の初期段階から、より多くの、肉・ミルク・卵を食べることによる健康の向上のために専念していました。つまり、私が当時信じていた‘高品質の動物性タンパク質’の摂取です。それは牧場で育ったという私の経歴からしても当然の成り行きでしたし、私自身アメリカの食事が世界で一番だと信じて疑わず得意になっていました。
Early in my research career at Massachusetts Institute of Technology and Virginia Tech, I worked to promote better health by eating more meat, milk and eggs, what I believed to be ‘high-quality animal protein’. It was an obvious sequel to my own life on the farm and I was happy to believe that the American diet was the best in the world.
後に私はフィリピンの栄養不良の子どもたちの状況改善プロジェクトのための、バージニア工科大学の学内コーディネーターになりました。このプロジェクトの第一目標は、フィリピンの子どもたちがタンパク質をできるだけたくさん摂取できるようにすることでした。しかし、このプロジェクトに参加して、私は或る不自然なことに気づきました。いちばん高タンパクの食事をしていた子どもたち、—特に動物性タンパク質— が、肝臓がんになる傾向がいちばん大きかったのです。私はこのフィリピンでの自分の調査結果に似たケースがないものか世界中の報告を調べ始めました。動物性タンパク質が健康的ではないと言うことは当時の栄養学にあっては異端的なことでしたが、私はがんの原因としての栄養の役割について掘り下げて研究し始めました。
この研究プロジェクトは、コーネル大学、オックスフォード大学、そして中国予防医学アカデミーの20年間に及ぶ共同プロジェクトとして結実しましたが、そのテーマは、中国・台湾の農村における病気と生活様式ファクターの調査というものでした。「ザ・チャイナ・スタディ」として一般には知られているこのプロジェクトはついに、さまざまな食事因子と疾患についての8,000件以上の統計的に有意な関連を提示しました。
この調査の発端となったものは、中国政府による2,400の郡におけるがんの死亡率調査でした。この調査はがん発生の一部の郡における顕著な集中と他の郡におけるずっと少ない発生を示していました。私たちはさらに、食事と生活様式の特徴について、異例ともいえる包括的で前例のない組織的な追加調査に取り組みました。これはがん発生の地理的分布のこうした特異性を説明するのに役立つはずの調査でした。個人的には、私の関心は広範な論拠に基づいた仮説にありました。その仮説とは、栄養学的な側面から特徴づけられる動物性の食事と植物性の食事が、慢性的な、がんのようないわゆる欧米風の疾患に関して相反する影響をもつのではないかというものでした。
この大規模な研究の成果を、私たちの初期の調査や他の研究者たちの調査と関連づけて考察してみて、わたしはある確信を得ました。それは、健康上の恩恵を最大限に採り入れた食事というものは、多種多様な植物性の食材、それも未精製の食材からなるものだということでした。しかし、そうした食事は、加えられる脂肪、塩、砂糖、高度に加工された食材が少ないことも条件です。注目すべき点は、中国農村地帯で動物性食品(乳製品や肉など)の摂取量が比較的少ないことは、ある生物学的な条件と結び付いていたことです。それは欧米の工業化社会に典型的に見られる慢性的疾患の発生に関わるものでした。
そうなると、次の仕事はこの栄養学的影響がどの程度広範なものであるのかを突き止めることでした。私の息子、トム・キャンベルは私と一緒に他の研究者の調査研究に目を向けました。こうした調査研究の公開された文献は想像を絶するほど膨大なものでした。
さらに、植物性の食事のもつ健康上の恩恵は幅広いもので、私たちの調査が示していたものをはるかに越えるものでした。予防効果、つまり、転移がん、さまざまな心臓疾患、糖尿病(Ⅰ、Ⅱ型)、多発性自己免疫症、骨粗鬆症、精神神経疾患(注意欠陥障害、臨床的うつ病、アルツハイマー病、認知障害など)、眼疾患、腎臓障害、皮膚疾患、肥満といったもののリスクを下げるはたらきがありました。
重要な点は、動物性食品は総体として植物性食品とは実質的に異なる栄養学的な特徴があるということです。そしてまさにこうした栄養学的な特徴こそが、代謝レベルにおいて高度に統合されて、健康と病気に関して植物性食品と動物性食品とが、相反する影響をもつ主な理由なのです。さらに、こうした影響には無数の食物化学物質が関わっており、食物消化のあらゆる局面に影響を及ぼします。もちろん、乳製品には他の動物性食品と一貫して共通する栄養特性と病気との結びつきとがあります。実際、それどころか、牛乳と乳製品には他の動物性食品よりもはるかに多くの問題があるように思われます。
残念なことに、乳製品がもつ健康と病気の特性と関連についての科学文献は、他の動物性食品の場合よりも一般大衆の目にふれないようにされてきた感があります。たとえば、今から40年から60年前の調査によって、牛乳のタンパク質(カゼインとラクトアルブミン)がヒトの血中コレステロールを顕著に上昇させて、動脈硬化プラークの形成を併発させることが明らかになっています。ここ最近になって、健康に対して牛乳が有害である証拠がますます積み上がってきています。そして、「白いウソ」というこの時宜にかなった報告書は、こうした最近の研究を十分に踏まえた、その広い視野とその深い科学的整合性において優れた報告書となっています。
最後に2点、注意を促したいと思います。まず第1点は、乳製品の有害な影響は多くの研究において過小評価されています。その理由は、そうした有害な影響が観察されるのは人間の身体においてですが、そこはすでに他の動物性食品によって当の乳製品様の栄養的影響が最大限になっている場所だからです。第2点は、リスク要因と結果の不正確な計測によって本当の結果が数値的に薄められているという点です。
だからといって、こうしたさまざまな乳製品の影響が本当にあるということが、タバコの喫煙が肺がんや心臓疾患を引き起こすことが独立に証明されている以上に、疑いの余地のないほどに独立に証明されているというわけではありません。むしろ、証拠の信頼性を決定づけるものは積み上げられる証拠の重さと広範性、そして生物学的な高い公算です。こうした基準で見るならば、乳製品についての証拠が十分であることは疑いようがありません。少なくとも、乳業界とその支援者や弁明者たちがさんざん並べてきたいかにももっともらしい牛乳についての能書きを疑ってみるに足る証拠です。
ここで明らかにされる情報が多くの人々にとって非常に具合が悪いものとなることは十分に承知しています。私自身がそうでした。しかし、私たちはどこかでこうした観察事例について声を上げなければなりません。そして、必要とあらば、率直で、オープンで透明性のある意見交換の場、それもできるだけ商業的なバイアスのない意見交換の場を提供すべきでしょう。
T. Colin Campbell, PhD
Jacob Gould Schurman Professor Emeritus of Nutritional Biochemistry
Cornell University, Ithaca, NY
April 2006
ジェーン・プラント教授 CBE
乳製品の消費が人間の健康におよぼす有害な影響について書かれたこの優れた、そしてよく調査された報告書の序文執筆を求められて、私は喜びました。私の著書 Your Life in Your Hands 邦題「乳がんと牛乳」は、私や他の女性たちが転移性乳がんを克服するのに乳製品を断つことがどれだけ役立ったかを書いています。同書が2000年に初めて出版されたとき、私は正統派医学の医師たち、慈善団体、そして栄養学者たちから、寄ってたかってのバッシングにあいました。何らかの理由で彼ら全員が、乳製品の摂取が身体に悪いという私の考えに嘲笑を浴びせました。こうしたことの理由は、この報告書でもジャスティン・バトラー医師が明らかにしているように、私たちがみんな酪農・乳業界による絶え間ない宣伝にさらされてきたことにあるのかもしれません。その宣伝とは、乳製品は充実していて、自然で、私たちの健康に良い、というものです。
I was delighted to be asked to write a foreword for this excellent and well-researched report into the adverse health impacts of dairy consumption on human health. My book, Your Life in Your Hands, describes how giving up dairy produce has helped me and other women to overcome metastatic breast cancer. When it was first published in 2000, I faced a barrage of criticism from orthodox doctors, charities and nutritionists. All of them, for whatever reason, poured scorn on the idea that consuming dairy could be bad for health. This may have been because, as Dr Justine Butler shows in this report, we have all been subjected to relentless publicity from the industry that tries to persuade us that dairy is wholesome, natural and good for our health.
2005年に私は自分の著書を通じて科学に貢献したことを認められて、英国王立医学会の終身会員の称号を授与されましたが、これは医学界の見解が過去数年の間にどれだけ変化してきたかを示す目安となります。しかしながら、乳製品についての真実が一般に受け入れられるようになるには、私たちの道はまだまだ遠いです。その意味で、この報告書はタイムリーであり、歓迎されるべきものです。
It is a measure of how far medical opinion has changed in the last few years that in 2005 I was awarded a life fellowship of the Royal Society of Medicine in recognition of my contribution to science through my books. We have a long way to go, however, until the truth about dairy is generally accepted, so this report is both timely and very welcome.
私の著書「乳がんと牛乳」Your Life in Your Hands は同業研究者間チェックを受けた科学文献から500件以上を参照先としていますが、執筆に向けてそれらを調査していて私は驚きました。乳製品が病気の促進において果たす役割について何とまあたくさんの情報が出回っていることでしょう。それも乳がん、前立腺がん、卵巣がん、他のがんだけではありません。湿疹や他のアレルギー性トラブルに始まって心臓疾患、糖尿病といったがん以外のものまであるのです。私の著書に対するありとあらゆる批判にもかかわらず、2000年に私が書いたその本のうちのたった一文の変更を余儀なくさせるようなたった一件の科学的事実ですら誰も私に示していません。もしこの自分が間違っていたり、誤解していることを示す説得力のある証拠が得られたとしたら、訓練を積んだ科学者の一人として、私はみずからそうしていたことでしょう。ところが、実際は乳製品消費に不利な証拠のほうがますます積み上がってきているのです。これについては前述書の第二版と第三版、そして私の他の著書「前立腺がんと骨粗鬆症」(そうです、歩けなくなる骨の病気の進行における、乳製品に不利な、反論しがたい事例、特にチーズ、が出てきています)と「健康のための食事」Eating for Better Health で詳述しています。この報告書「白いウソ」は、乳製品が人間の健康に対してもつ有害性についての証拠をさらに積み上げます。
昨年ロンドンで開催された“インクレディブル・ベジー・ショー”Incredible Veggie Show で、ビバ!と ベジタリアン&ビーガン基金を代表するJuliet Gellatley 氏の優れて刺激的な講演を聴きました。そして、このとき初めて私は現代の牛乳産業の実態を知ったと言えます。このとき彼女が提示した動物に対する残虐行為の画像は忘れようにも忘れられないものです。この報告書「白いウソ」は現代における工業化された牛乳産業とそれが私たちの健康に対してもつ重大な意味を赤裸々に明らかにします。
私は、この報告書「白いウソ」が当然それにふさわしい社会的認知を受けることを望むものであります。そして、これに力を得て心ある政治家たちが牛乳産業に対して強い姿勢で臨むことを期待します。そうすることは人間の健康を向上させ、環境を改善させ、動物の福祉についての重大な問題提起につながります。さらに、BSE危機、口蹄病災害、そして今や牛結核病、の元凶ともなっている牛乳産業に注ぎこまれている援助金を減らすことによって、納税者の負担を軽くすることができるでしょう。
牛のミルクは急速に成長する仔牛にとっては完璧な食物ですが、それが人間の赤ちゃんや人間の大人(!)にとっても良いということにはなりません。食生活でたった一つ何かを変えるだけで自分の健康を向上させたいならば、あなたの食生活から乳製品をすべて排除することをお勧めします。
Professor Jane Plant CBE (DSc, CEng)
Life Fellow of the Royal Society of Medicine
Professor of Applied Geochemistry
Imperial College, London
March 2006
序章
私たちが消費する食べ物は、私たちの健康と福祉に計り知れない重要性があります。食と健康問題についてのテレビやメディア報道の最近の増加によって、私たちは食事と健康の間に存在するつながりについての理解を深めています。私たちが食べる食べ物の種類は私たちの文化に強く結びついており、食の問題は感情的な反応を引き起こすことがあります。英国およびその他北ヨーロッパ諸国、そして北アメリカにおいて、私たちは、牛乳は大人にとってさえも、自然で健康的な飲み物であるという考えに強い情緒的愛着を育んできました。
The foods we consume are of immense importance to our health and well-being. The recent increase in television and media coverage of food and health issues has improved our understanding of the links that exist between diet and health. The types of food that we eat are strongly linked to our culture and food issues can cause emotional responses. In the UK and other northern European countries as well as North America, we have developed a strong emotional attachment to the idea that milk is a natural and healthy drink for us, even as adults.
牛乳は私たち人間が最初に口にする食べ物です。私たちが幸運であれば、自分の母親の母乳ですが、幸運でないならば、英国では一般的に牛のミルクもしくは豆乳から特別に作られた代用品ということになります。私たちは牛乳に対して安らぎと育みというイメージを抱いており、赤ちゃんの正常な成長と発達に欠かせない食べ物のうち、バランスがとれていて栄養豊富なものとみなしています。
Milk is the first food that we consume, our mother’s breast milk if we are fortunate, if not then specially formulated substitutes based on cow’s or soya milk are generally used in the UK. We associate milk with comfort and nurturing and consider milk to be a wholesome nutrient-rich component of the diet that is essential for normal growth and development, which for a baby it is.
しかし、地球上の人間以外のすべての哺乳類は早い時期に乳離れをします。一方一部の人間は大人になっても牛乳を飲み続けます。しかもそのミルクは他の動物種のものです。こういう例は他の哺乳類にはありません。公平に見て、一般の観念とは裏腹に、世界のほとんどの人間はミルクを飲みません。人類の多くはミルクを飲むと具合が悪くなります。しかし英国では、私たちは牛乳を飲む国民ですが、これはほとんどの北欧諸国と北米と同じです。乳児、幼児、青年、大人、そして高齢者までの全世代が大量の牛乳、チーズ、バター、ヨーグルトを毎年消費しています。しかし、なぜ私たちは牛乳が一種の驚異の食べ物であると確信しているのでしょうか。
ミルクによって減量できると言われます。しかし、ミルクで太ることもあります。ミルクで健康的な肌になると言われます。しかしまたニキビの原因にもなります。骨の健康のためにはミルクが必要と言われます。しかし、骨粗しょう症の発症率はミルクを多く消費する国で最も高いです。こうした相反する報告によって私たちは混乱するばかりで、誰の言葉を信じたらいいのかわかりません。乳業界は牛乳の宣伝と販売促進のために莫大な予算をつぎ込んでいます。乳業界は経済的利益が動機となってバイアスのかかった視点を私たちに提示している可能性があります。
牛乳は、乳業界が私たちに信じ込ませようとしているような驚異の食べ物などではないことを示す科学的な証拠が現在山のように積み上がってきています。この報告書における考察は牛乳の消費を広範な健康上の問題に結びつけることに留まりません。この報告書に述べられている健康に対する乳製品の有害な影響について客観的であることはむずかしいと多くの人々は感じるかもしれません。健康問題の専門家ですらそう感じるでしょう。なぜならば、牛乳は自然で健康的であるというイメージに対して私たちの多くは情緒的な愛着を抱いているからです。
この報告書の目的は、牛乳と乳製品が健康に及ぼす影響についての研究を提示・点検することによって、牛乳についての見方の不均衡を是正することにあります。
訳 者: 日本で牛乳を賛美、推奨する学者はほとんど酪農・乳業界とつながりのある“回し者”である。牛乳有害説を真っ向から否定したのは酪農学園大学の教授である。バイアスが相当かかっている御用学者たちがテレビや新聞で“安全神話”を繰り返して、“疑わしい産業”を必死に擁護している可能性が多分にある。
3.11のときはどうだったか覚えているだろうか。彼らにとって大事なのは科学的真実性でも国民の健康や生命でもない。ただただ自分たちの自己保身である。かつては原子力産業、そして今は牛乳産業・・・