1948年から

文句たらたらどうでも日記

幸福という尺度

2021-05-01 21:13:05 | 読書
  
クロッカス(サフランクロッカス?)とクリスマスローズ

モーム『人間の絆 上・下』中野好夫訳 新潮文庫、
一度読み始めて、途中(上の前半)でやめて置き去りにしていた本。
『サミング・アップ』を読んで、この自伝的小説への作者の強いこだわりが
伝わり再び手に、今度は一気に読み終えました。
自伝的小説というように、すべてありのままではないので、様々なことに
直面したときの主人公の振る舞い、考えに興味がわき、心を動かされました。

91歳まで生きた作者の半生を、ペルシャ絨毯の経糸と横糸で
織り成される模様になぞらえて語られます。
最初はよく分らなかった、意味がつかめなかった、けれど、
終わり近くになって、そんなに深く込み入ったことを述べてはいない、
人の一生は、生まれ、生きて、死ぬ。
案外、単純簡素なもの、流れ、と言っている?
そんなふうに読みました。

・・・経糸の織り成す模様、その中に、最も明白で、最も完全で、
最も美しい模様が一つだけある。即ち、人が生まれ、成長し、
結婚し、子供をつくり、パンのために働いて、死ぬ、
という模様がそれだ。
・・・幸福への願いを捨てることによって、彼(主人公)は、
いわば最後の迷妄を脱ぎ捨てていたのだった・・・
幸福という尺度で計られていた限り、彼の一生は、思っても
たまらないものだった。
人の一生は、もっとほかのものによって計られてもいい、
ということがわかってからは、彼(主人公)は・・・
幸福とか、苦痛とか、そんなものは、ほとんど問題でない。

この部分が自分の身においてもじんと心にひびきました。

最近、絆という言葉がよく出てきます。
なぜか良きつながり、輪、積極的に求めたいもの、のように
いい意味で使われてます。
でも絆はくびき、人と人とを結びつけるもの、
切りたくても切れない、逃れられないつながり、
決していい意味だけではありません。