1948年から

文句たらたらどうでも日記

冷たい桜の花の下

2019-04-07 22:08:59 | 舞台・音楽


坂口安吾の小説『桜の森の満開の下』と『夜長姫と耳男』から
野田秀樹が作・演出したシネマ歌舞伎「野田版桜の森の満開の下」を
見てきました。(平成28年歌舞伎座公演の映像)
原作を何回か読んで、この有名な話がどんなふうに歌舞伎化されるのか、
楽しみにしていた作品。
夜長姫(中村七之助)耳男(中村勘九郎)兄弟の主演です。

嘘かまことか空想か、妖気ただよう作品、最初と最後がすばらしい舞台で
魅了され、救われました。
中間はせりふを聞き取るのが難しいほどの言葉の氾濫で、
頭が痛くなりました。
これはとてもついていけない、だめだ、と思ったほど。

後でよくよく考えると、その言葉、せりふのやり取りの一つ一つに
意味がこめられ、それが理解できないとこの舞台の本当の面白さは
得られない。
ならば、もう一度見に行く・・・そうすればあのテンポの速い激しいやり取り、
登場人物の衣装、身に付けているもの、小道具、鬼やら何やらの存在の意味が
もっと理解できるでしょう。

歌舞伎役者の所作、せりふ、演技はさすが、次から次へと2時間、
動きまわり、しゃべりまくり、決めるとことはビシッと決める所作、
すごい運動量です。

最後の場面、夜長姫の最期と耳男の心の虚無、存在の虚無、
満開の桜はひたすらに冷たく感じられ心に響きました。
坂口安吾というと、私には思い出さずにいられない人がいます。
舞台を見ながら、冷たく悲しい過去がよみがえって苦しかった。

音楽が良かったです。
クラシックと邦楽、最初と最後の場面に流れるソプラノ、
ああ、この曲はよく耳にするオペラのアリア。
プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」の「私のお父さん」でした。

シネマで歌舞伎を

2019-01-29 21:16:31 | 舞台・音楽
先週、シネマ歌舞伎「沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)」
「楊貴妃」の2本立てを東劇で見てきました。
大阪夏の陣で大阪落城、豊臣家が滅びる様を描いた「沓手鳥・・・」は
坪内逍遥の作品、明治時代初演の歌舞伎で、淀君を坂東玉三郎、
秀頼を中村七之助が演じてます。
秀頼の妻で家康の孫の千姫が大阪城を脱出、
その後の淀君の狂乱、錯乱の様が見せ場ですが、あまりにすごすぎて、
少々うんざりしてしまいました。

大阪夏の陣は多くの時代小説で様々に描かれてますが、歴史に翻弄され、
人生の始めから何一つ思い通りにならなかった淀君という女性は
哀れで悲しい。
生まれた家、生きた時代、権力に取り込まれた淀君、
我が子秀頼のみが愛せる対象だった、と解説で玉三郎が語っています。
運命、そうならざるを得ない悲しみとも。

「楊貴妃」は夢枕獏の作品、楊貴妃を玉三郎、美しい。

先月は同じシネマ歌舞伎で有吉佐和子の「ふるあめりかに袖はぬらさじ」
を見ました。
私はこのお芝居が好きで2回目、芸者お園を玉三郎、花魁を七之助、
そして勘三郎、三津五郎など故人の芸をたっぷり見ることができます。
笑いあり、哀切あり、芝居冥利につきます。

心の底でうずくもの、オネーギン再び

2018-09-26 15:22:44 | 舞台・音楽
先日、METライブビューイングのアンコール上映で
チャイコフスキー「エフゲニー・オネーギン」を見てきました。
このオペラを見るのは2回目ですが、前回とは演出も配役も異なります。

昨年亡くなったD.ホボロストフスキーがオネーギン役、
相手のタチアーナはルネ・フレミング。
オネーギンを歌うために生まれてきたようなバリトン歌手と言われるように、
もう何もかもぴったりで、すばらしかった!
もちろん、フレミングのタチアーナも。
ソプラノのフレミングが歌うのは、
静かで控えめで本を読むのが大好きな純真な16歳のタチアーナ。

私はプーシキンのこの原作『オネーギン』がとても好きで、
何回も読み返しています。
オネーギンの心の変化、虚無、おごりと、本人は気付かずも彼の心の奥底には
純真なものへのあこがれがひそんでいます。
切々と手紙でオネーギンに愛を告白するタチアーナ、
しかし彼に拒否されます。
年月を経て他の男と結婚しても、秘めた本当の気持にひとりうずく。
どうにもならないことは分っていても、
消すことのできない人間の愛情の奥深さが読めば読むほど心にしみわたります。

この『オネーギン』、原作とオペラだけかと思っていたら、バレエもあるそうで
引退したプリマバレリーナがこれについて語ってました。
有名な手紙の場面、バレエではこんなふうになっていると知って驚きました。

タチアーナからの恋文を手にしたオネーギンは、目の前でそれを破り捨てます。
そして日が過ぎ、結婚したタチアーナをモスクワの社交界で見かけたオネーギンは
かつて心の奥底にあった恋情をいだき、抑えきれずタチアーナに哀切な手紙を送ります。
その手紙を今度はタチアーナが破り捨てる、そんな馬鹿げた演出振付です。
YouTubeでバレエを見ると、たしかにそういう場面がありました。
元バレリーナも、当然でしょ、破られたから破り返すんですよ、仕返しです、
と解説していて、驚きました。

そんな低劣なやりとりは、もちろん原作にもオペラにもありません。
最初のタチアーナからの恋文を手に、オネーギンは今の自分の生き様を語り
結婚とは、愛とは、と切々と彼女を説諭するのです。
そして日が経ち、タチアーナの結婚を知った彼からの手紙を読みながら彼女は
もう何も変わらない、変えられない、と一人涙にくれるのです。
こんな大切な手紙の場面で原作を改悪するなんて、がっかりしました。

神話伝説は面白い

2018-08-03 21:30:10 | 舞台・音楽


7月のことですが、国立劇場の歌舞伎鑑賞教室に行ってきました。
前半20分が歌舞伎解説、後半は近松門左衛門作「日本振袖始」。
出雲伝説の八岐大蛇退治のお話です。
以前、シネマ歌舞伎で坂東玉三郎主演で見て、とても面白かったので、
生の舞台で是非見てみたいと思っていたところ、
今回は中村時蔵の岩長姫(実は八岐大蛇の化身)でした。
時蔵初演だそうです。

神話によると、このお話、もとは女の嫉妬が発端のようです。
醜さゆえ、后の座を妹の木花開耶姫に奪われた岩長姫は、
毎年村一番の美女を生贄に要求するようになります。
その生贄の着物の袖に一振り名剣を隠し収めたことから、
振袖始という題がついたとやら、そんな解説がありました。

花道側の席から真近に見る時蔵はびっくりするほどきれいでした。
写真などで見るよりもずっと美しい舞台姿です。
ただ、映像で見た玉三郎には美しさの底に、ただの姫ではない、
隠し持った恐ろしい本性を予見させる凄みがありました。

シネマ歌舞伎は役者の目の動き、微細な身体の動きなど
アップで見せられるので、単純に生の舞台と比較はできません。

画像の左の本は、池波正太郎『又五郎の春秋』中公文庫です。
先代の中村又五郎の役者魂の実写、そして国立劇場で今も続いている
一般人を対象にした歌舞伎俳優音楽研修制度の猛烈に熱心な指導者としての
の姿が書かれていて、舞台で主要な役を演じるだけでない壮絶な人生を
知ることができます。

☆この本の解説に、池波正太郎の長編小説『剣客商売』の主人公
秋山小兵衛のモデルがこの中村又五郎で、作者みずから告白していた、と
書かれています。
池波正太郎の本はほとんど読み尽くしましたが、その中の一番は
『剣客商売』、そして一番好きな主人公はこの秋山小兵衛です。
空想と実在、生きた世界も違うけれど、こんな人物が実際にもいたのか、
となにかほっとするような気持になりました。

半額鑑賞券

2018-06-06 21:44:10 | 舞台・音楽
  

半蔵門の国立劇場。
日曜日(6/3)に歌舞伎鑑賞教室で「連獅子」を観て来ました。

都民半額鑑賞券に応募したら当選、国立劇場の1階花道近くの一等席が
2千円ちょっと。
歌舞伎鑑賞教室は今回で93回目、毎月行われているようです。
前半が歌舞伎についての説明、舞台のしくみ、音楽、鳴り物、裏方の仕事、
そして今回の演目、中村又五郎、歌昇親子による「連獅子」の
詳しい説明。
舞台脇の電光掲示板に長唄の言葉が大きく表示されるので、
内容がよくわかり、とても面白く、興味深く観ることができました。

獅子の精の踊りのあと、このお話の舞台、
清涼山の石橋へ向かう二人の僧が登場。
宗派の違う二人による掛け合い「宗論」がはさまれます。
これは狂言の「宗論」とほぼ同じ、以前、国立能楽堂で観ていたので、
内容もよく分り、能、狂言、文楽、歌舞伎のつながり、
日本の古典芸能の深い結びつきの一端を知ることになりました。
こういうつながりはほんとに面白いし、次々に知りたいことが出てきます。
これからたくさん観て、関連する本を読んでいきたいと思いました。

後半、有名な白毛(親)と赤毛(子)が花道を通って舞台へ向かいます。
その威厳、ぴ~んと張り詰めたものが真近に感じられます。
又五郎さんは62歳、歌昇さんは30歳。
実の親子による激しい気振りは恐ろしいほど、
これでもかこれでもかと毛振りが続きます。

全部で2時間、一般でチケットを買っても一等席が四千円です。
来月は中村時蔵主演で「日本振袖始」です。
八岐大蛇のお話、以前、玉三郎主演のシネマ歌舞伎で観ています。
時蔵さん初役だそうで、彼のインタビュー記事を読んだら観たくなり、
今日発売、席を確保しました。
楽しみです。

椅子が硬くて

2018-05-14 16:47:51 | 舞台・音楽
 
もう時期的に花は終わってしまいましたが、トチノキの花。
これは石川島公園で撮ったもの、
宇都宮に行ったとき、街路樹がこの木でした、栃木県だから。

連休中、歌舞伎を観てきました。
新歌舞伎座は初めて、旧歌舞伎座へは、ずいぶん昔一度だけ
観にいったことがあります、四谷怪談でした。
今回は團菊祭「雷神不動北山櫻」、海老蔵が一人5役の長い芝居。

平安時代のお話、
皇位継承争いから、いろんないきさつがあり、
鳴神上人によって雷神が閉じ込められたため、世の中は旱魃。
それを救ったのが雲の絶間姫、最後は勧善懲悪で決着。
筋は単純なのに、話が込み入っていて、あれれ、と思う場面も。
とにかく海老蔵が一人でいい役を全部やってしまうので、
たくさんの役者さんがかすんでしまう。
なんだか、上手いのかそうでもないのか、私には分りません。

とっても派手な舞台で、最後は大立ち回りでものすごい技の連続、
役者さんの身体能力にびっくりしました。
これを25日間休みなく続けて演じるのだから、大変な仕事です。
歌舞伎は見るもの、見て楽しむもの、と言われますが、
一等席でも細かいところはよく見えないし、花道も途中までしか見えない。
こういう点はシネマ歌舞伎のほうがいい、素人観客には。

新歌舞伎座の一等席だからいい椅子でゆったり見られると期待したけれど、
残念でした。
通路も左右も狭い、前の男性の頭が邪魔になって、見えない。
椅子が硬くて途中で腰がどうにも痛くなり我慢ならず、
昼の部の最後の「女伊達」という舞踊は観ずに退席しました。
途中二回の休憩を挟んで4時間半は長かった。

ロマンティックなラブコメディー

2018-03-05 21:16:21 | 舞台・音楽
メトロポリタンオペラのライブビューイングをしばらくぶりに観てきました。
ドニゼッティ「愛の妙薬」、楽しくて、面白くて、せつなくて、
美しい音楽に癒された2時間50分でした。

素朴で誠実な農夫(ネモリーノ)と、村一番のお利口さんの娘(アディーナ)
の恋物語です。
なかなか想いを伝えられず、悶々とする農夫、賢い娘はそれを気付いてか、
気付かないふりか、天真爛漫にふるまう。

そこへ表れたイカサマ薬売り、飲めば何でもかなえられる、
と安ワインを売り込む。
それに農夫が飛びついて、有り金をはたいて買って飲んだものの・・・
というお話。

主役の二人がすばらしい歌と演技、イカサマ薬売りの軽妙洒脱さも秀逸。
テンポいいやりとり、合唱と、しっとり歌い上げるアリア。
農夫役のM.ボレンザーニが歌う「人知れぬ涙」に感動しました。
よく聞く曲ですが、舞台のストーリーの流れの中で聞くと格別で
ほんとに胸が一杯になります。

役になり切った舞台人、
歌って踊って演技していても、この歌手の素の人となりは、
とても誠実で謙虚で、人間性に優れているように、
その役柄を通して、おのずとうかがえるときがあります。
幕間のインタビューの受け答えを聞いても、ああやっぱり、
と思ったりするのです。

五人の花子

2018-01-20 17:08:27 | 舞台・音楽
シネマ歌舞伎を見てきました。
「京鹿子娘五人道成寺」と「二人椀久」の二本立て約一時間半。
娘道成寺はYouTubeなどで断片的に見ることができますが、
最初から通しで見ると、とても面白いものでした。
安珍清姫伝説をふまえた踊り、もしかしたら退屈するかも、と思ってましたが
そんなことはありませんでした。

最初の場面、所化(修行中の坊主)たちが「聞いたか聞いたか、聞いたぞ聞いたぞ」
と言いながら花道を舞台へと歩いていくリズム、音の心地よさ、面白さ。
そして白拍子花子の出、それも今回は坂東玉三郎の趣向で花子を五人で踊ります。
女人禁制の道成寺門前で、花子と所化の問答も面白い。

公式サイトによると、玉三郎さんも20歳のとき、
この娘道成寺に所化の一人として舞台に立っています。
25歳で初めての花子役、以後40年踊っています。

揃いの桜色の裃を着て舞台にずらりと並ぶ三味線、長唄、鼓、太鼓の面々、
この演奏の小気味いいこと、すっかり酔いしれました。
テンポの速いころがるような音、き~んと響く鼓の響き、
日本の音っていいなあ、心に響きました。

主演の玉三郎さんの解説では、
若い役者さんたちと一緒に舞台に立つことで、教える、教わるではなく、
それぞれが様々なことを学びとっていく機会にしたい、と。
五人が一緒だったり、一人だったり、二人だったり、
それぞれの花子を踊る様は見事、歌舞伎役者の芸魂のすごさです。

その中の一人に中村勘九郎がいて、父親によく似た顔立ち、
「立役の僕が女形四人と一緒に踊る、ほんとに最初はどうしようと思いました。
初日なんか緊張して間違えちゃったし」なんて言ってました。
こういうインタビューや舞台裏の衣装変えの様子、張り詰めた出番前の様子なども
見られるのは、シネマ歌舞伎ならではです。
実際の舞台は二年前のもの、今度は是非、生で見たいです。

バレエで第九を

2017-12-26 20:57:20 | 舞台・音楽
12/23に公開された映画「ダンシング・ベートーベン」を見てきました。
ズービン・メータ指揮のベートーベンの交響曲第九番合唱付きを
モーリス・ベジャールの振付で踊る、その舞台を作り上げていく人々の
ドキュメンタリー映像です。

ベジャールバレエ団と東京バレエ団の共演で2014年に上演されてます。
踊り手、オーケストラ、合唱団、全部で350人という大掛かりな舞台、
今度はいつ上演されるでしょうか、是非、生の舞台を見てみたい。

ドキュメンタリーなので、稽古風景、それにかかわる人々の人間模様、
ベジャールの考え、思想の紹介、解説が織り込まれます。
そのたびに音楽とバレエの映像は途切れ途切れになり、とても残念、
いらいらしてしまう。
ドキュメンタリーであって、ライブビューイングではないのだから
仕方ないのですが・・・

それにしても舞踏評論家のM氏の話はほんとに不快でした。
長い沈黙の後のギャハハハ~と笑う顔、話の中身もつまらない。
音楽も振付もダンサーも超一流の作品です。
宗教的観念のおしつけ、理想のおしつけはいらない。
見る人が感じ取ればいいのです。

この「バレエ第九」という壮大な作品を作り上げていくダンサー、
音楽家、演出家、様々な裏方にかかわる人たちの話には、
その世界の実感と生々しさがにじんでいます。
でも、外側から見て知って論じる評論家の話は軽い、不要です。

第九で4人のソリストが歌う最初の場面、
まるでソロを踊る男性の口から、バスの歌声が響いてくるようでした。
有名な合唱の場面、
黄色、橙色、赤のタイツで全員が一歩一歩前へ歩いてくるシーンは、
無の地平線からゆっくり上ってくる大きな太陽が地上に光をふりそそぐ
夜明けのようでした。

Rest in peace

2017-11-23 21:51:07 | 舞台・音楽
今朝のニュース記事で、ロシアのバリトン歌手 
D.ホヴォロストフスキーさんの死去を知りました。
亡くなったのは昨日、オペラ関係のYouTubeには、
もう彼の特集がたくさん組まれ、
Rest in peace 安らかに眠ってください
と世界中のファンが投稿しています。

今年5月に行われたメトロポリタン劇場50周年ガラコンサートに
ゲスト出演した映像から、
またオペラの舞台に戻ってくることを期待していたので、とても残念です。
55歳、脳腫瘍の治療で、舞台をキャンセルしていて、
最後にライブビューイングで観たのはイル・トロバトーレ。
彼が舞台に出てきただけで大変な拍手、最後のカーテンコールでは
白いバラの花がオーケストラビットからたくさん投げ込まれ、感無量でした。
私が初めて観たのは椿姫のジェルモン役、深く響くバリトンに、
涙が出るほど感動しましたが、これを生の舞台で聴いたらどんなにすごいだろう、
と思いました。

脳腫瘍といっても様々で、100種類以上あるそうですが、怖い病気です。
もう20年近く前、夫側の姪が33歳で長い闘病のすえ亡くなってます。
詳しくは書けませんが、今、水泳関係の大切な人が闘病中、
先週無事手術を終え入院中、何とか元気に復活して欲しいと祈ってます。