1948年から

文句たらたらどうでも日記

伝記小説

2006-06-04 23:05:41 | 読書
藤沢周平さんの伝記小説を2冊、続けて読んだ。
『喜多川歌麿女絵草紙』と『一茶』。
言うまでもなく、浮世絵師と俳人という江戸文化を代表する人物だ。

私はこういう伝記物がわりと好きで、その人が生きた時代背景や社会を思い、
行動した場所を、古地図に現在の地図を重ねてなぞるのが面白い。

歌麿の美人画も、一茶の俳句も、なにげなく見たり読んだりしてきたが、
単純に、才能ある者がそれを形として残した、というのではなく、
芸術家としての苦悩と、一人の人間として誰もが経験するような苦悩、
貧困やら、遺産相続、親族との確執、醜い自分、卑しい自分、他人との比較、
男と女、小説とはいえ、それらを知ると、さらなる興味がつきない。

自らの作品の評価に心を痛め、
芸術で食べていくための妥協に悩みながら生み出された作品には、
深くて長い、人の一生が隠されている。

弱いもの、小さいものを詠んだ素朴な一茶の俳句から、
情のあふれる穏やかな文化人を想像したくなるし、勝手にそう思っていた。
でも、この小説に描かれた一茶は、生きるために、
なまなましい修羅場を乗り越えようと、もがいた人だった。

すでに、絵を描くことで、俳句を詠むことで生きていかれる、
プロとしての芸術家がいた江戸時代って、やはりすごい。