( 阿尾城址・氷見市の観光写真より)
“ 私の耳は貝の殻 海の響きを懐かしむ “
冬の日に珍しい輝くような朝、不思議なことにひとりでに体が動いて私は海へ出かけたのです!
前夜読んだ詩集の好きな一節で触発されたとしても、この寒い時期
帽子襟巻き手袋、厚手のショールも鞄に入れて。
棲家を出て3時間、我ながら思い切った大冒険と驚きつつ、でも浮たつ思いを止めることができません
ときどき立ち止まって休みながら記憶をたどれば、民家の間に海辺へと通じる小路があるはず…
半世紀以上もさかのぼったその頃と変わらぬ日本の原風景を、見ることはできるだろうか?
あった!
表道路は軒並み改築されたらしい家々ばかり、心細くなっていたけれど。
人ひとりやっと通れる小路を見つけたときは思わず胸が高鳴りました。
その先に広がる砂浜、ところどころに小さな畑、残雪の中から覗く大根の葉、
うら寂びた農漁村とひと気のない静かな海と、手の届きそうな阿尾の断崖も、あの頃のまま。
眼前に広がる海は、色とりどりにちりばめた思い出がいっぱい乗っかった、大きなトレーです
傾ければこぼれ落ちて、また新たに生まれ出て光の中で踊りだすもの、一瞬輝いて遠く海阪に消えゆくもの
ひとつひとつが何かを語りかけてくるような。
たまたま見かけたひとり黄昏の海辺を歩く人 あのひとも心に憂いを抱いていたのだろうか
ときには無心で共に戯れた近所の子供たち みんな元気に暮らしているだろうか
荒れた北の海にひとり向かわずにはいれなかった当時の思いや
心の奥深く封印したはずの記憶までが鮮やかに甦ってきました。
きっと、このときを期待して寒い北の海を訪れたのでしょう。(-。-)y-゜゜゜
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途中でニ、三度は寝がえりをうって意識も半ば戻ったような気がします
その度夢ではないのだと反芻しつつ、再び三たび夢の中への浮遊を繰り返しました。
朝、目覚めたあとも現実との区別はおぼろに霞み、霞みの中にその体感をいつまでも確かめながら
前夜整えた旅行鞄だけが形見のように残っているのを見たのでした。