夜半突然吹きだした南風に安眠の夢を破られ、たまらず起きだして家じゅうの戸締りを確かめました。
これですっかり桜は終わるでしょう。今を盛りのレンギョウ、雪柳、黄と白の山吹など黒いひとむらが身を寄せ合い揺れてざわめくのを見ると、眠れぬ夜の心にひとつ哀愁が湧いてきます。
陽気に誘われてようやく重い腰があがり、近くの美容院へ足を向ける気になったのは数日前のこと。
10時過ぎてもどうかすると玄関をロックしたままののんびりパーマ屋さんに、電話で在宅と待ち時間などないのを確かめてから、しばらくぶりで戸外の空気を腹いっぱい吸って、新鮮な気分と気力を貯え出陣しました。
伸びきった髪をカットし、ロットに巻いて薬をかけて、
美容院行きは女性にとったら普通楽しいものだと思うのですが、私は苦手で覚悟が決まるまでつい一日延ばしにしてしまうのです。
さて、どうにか長いコースを終え、洗髪を済ました軽やかな姿が映し出されるはずの鏡面を見て驚きました。
どう見てもあまりきれいとは言えない銀髪の
見たこともないヘンな人が。
最近、手を加えず自然な形に戻そうと、というよりヘアダイの煩わしさから逃れようと、一大決心のつもりで髪の毛は伸びるにまかせてみたのですが、
ときどきこれじゃあんまりと、自分の目に映る部分だけ気まぐれに色をつけてみたりで、これがいけない。
あらゆる成長は止まるどころか逆現象を起こすことになって何年か、もう忘れてしまいました。
「髪の毛、自然に任せる?
うーん。もう少し待ちなよ」
「なんで?」
「白髪頭じゃ、ババァだか、コドモだか」
口の悪い息子は一足先にグレイの頭です。
それならばと、お風呂のとき、手のひらにぐいと絞り出して、髪に塗りたくって、洗い流して、それでだんだん艶を増してゆくという、めんどくさがりには便利なヘアダイ見つけました。
でもそれがパーマ液で脱色してしまうヘアマニキュアだとは知らなかった…
銀髪。年に不足はないけれど、夜中起きだして硝子戸に映る姿は、そうね、ちょいと間抜け面の山姥とでもいいましょうか。
季節もちょうど花残月。
たとえるには少し心痛むし、厚かましくもあるけれど。