ゆいもあ亭【非】日常

映画や小説などのフィクション(非・日常)に関するブログ

カーペンターとコスミック・ホラー

2007-01-22 | 映画
マスターズ・オブ・ホラーの1編、ジョン・カーペンターの「世界の終わり」(Cigarette Burns)を見た。

なんということだ! これはホラー映画(まあ、設定上はホラーに限定されるわけだが、実のところは普遍的な意味での映画ということでもよいはずだ!)が世界を侵食する話である。

カーペンターの先行作品でいえば「パラダイム」(Prince of darkness)や「マウス・オブ・マッドネス」(In the Mouth of Madness)のように、ヴィジョンが世界を侵し、滅ぼしていく話である。

若き映画館主カービー・スウィートマンは、資金提供者から返済期限を一週間と切られる。このパトロンはかつての恋人の親父。恋人はリストカットで自殺していた。
折も折、フィルムコレクターである大富豪ベリンジャーの呼び出しを受ける。とあるホラー・ファンタジー映画祭で一度だけ上映され、観客同士の殺し合い事件から、事実上未完のままのプレビューだったその一回きりの上映で没収・廃棄されたという噂の「世界の終わり」という映画を探せというのだ。ガセネタでない証拠に、大富豪はその映画の出演者のひとりをコレクションしているという。真っ白な肌に背中の大きな傷。それからまた、映画の大事な小道具(プロップ)だという2枚の大きな翼……。
カービーはかつてその上映を見たという評論家を訪ね、監督のバコヴィックのインタビューテープを手に入れる。そのテープを聴くうち、恋人の死の瞬間をリアルに夢見るが、不思議にその切れ目には「フィルム交換の合図(Cigarette Burns=煙草の焼け焦げのような丸印)」がちらつく。
フィルムの「真実」が「力」を持って現実に侵食してきたのか? フランスはパリ、カナダはバンクーバーと、幻のフィルムを求めて、カービーは深い狂気の中に迷い込んでいく……。

まあ、最後の核心を書かずに紹介すればこんなところだろうか。

クトゥルー作品の味わい! コスミック・ホラーっぽいのだな。

映画という幻影が、リアルを侵食するというアイデアはありがちだが、ウド・キアに「フレッシュ・フォー・フランケンシュタイン」を踏まえた末路を用意しただけでも、非凡な作品といえよう。