ゆいもあ亭【非】日常

映画や小説などのフィクション(非・日常)に関するブログ

等身大の女子高生を見ることが出来る!

2007-01-14 | 映画
リンダ リンダ リンダ

わざわざ時間を割いて各人の背景を語らないというのに、「みんな」の背後に潜んでいる事情がなんとなく察せられてくるのが心地よいという作品だ。別に「スウィングガールズ」と比較する必要などないのだが、本質的にコメディ要素を大いに残した「スウィングガールズ」たちは、その性格付けが大げさなところがあり、結局のところ等身大の女子高生というのとはやっぱり違っていたのだな、と「リンダ リンダ リンダ」を見るにつけ、しみじみと納得させられる。

わたしが教員だから感じるのだが、主役四名のみならず、高校生のリアルなこと! 「わたしが教員だから」という条件は、つまり、本当に現役の高校生にとって彼女らが「リアル」かというと、彼女らにリアルな身近の友だちを嗅ぎ取ることはあっても「そのものだ」とは思うまいという想像による。現実の彼女らの傍にいながら、どっぷりと彼女らの中にはいない「教員」とか「学校事務員」とかの立場から見たときに一番リアルを感じると思う。そう! フィクショナルな仕組みとしては最上のリアルだといえるように思う。





公式サイトからこの映画の紹介文を引いてみる。

 高校生活最後の文化祭のステージに向けて、オリジナル曲の練習を重ねてきたガールズバンド。ところがまさにその直前、ギター担当の怪我をきっかけにボーカルが抜け、バンドは空中分解寸前となる。残されたドラムの響子(前田亜季)、キーボード転じてギターの恵(けい)(香椎由宇)、ベースの望(関根史織)はひょんなことからブルーハーツのコピーをやることに! そして彼女たちがボーカルとして声をかけたのは、なんと韓国からの留学生・ソン(ペ・ドゥナ)?!
『リンダ リンダ リンダ』は、今なお根強い人気を誇るブルーハーツの創成期に生まれた女子高生たちが、文化祭の数日間でブルーハーツの名曲を完全コピー、思ってもみなかった輝きを放っていくバンド・ムービー。ユーモアとせつなさをちりばめながら、つたなくも、いとおしい青い春の達成感をリアルに切り取っていく、笑って泣ける青春映画の傑作である。




そう。文字で書いてしまうと、確かにこの通りになるのだ。でも、言葉で書いたとおりには映画は進まない。

恵(キーボード転向ギター)が(ボーカルだった)凛子に対し、反発を持っているらしいことは、見ていて自然に知れてくる。また、別の場面では、それに対して望が「近親憎悪」と表現し、恵と凛子がともに意地っ張りであることが示される。そして、負けず嫌いでタフな恵の輪郭は、自宅改造のスタジオ持ちであるアマチュアバンドマンの元カレが登場するにつけて、恐らくはステディな関係であったと想像できるのに、周りにからかわれると赤くなるような純情さも持ち合わせているとわかる。

ソンについても、留学生として、きちんと周囲に受け入れられているかというと、小学生から借りたマンガを読む早さが「最近速くなったね」と評価される始末で、思うような友達が作れていないことが察せられる。そして恵によってバンドに誘われ、ボーカルを務めるため、ひとりでカラオケ店にブルーハーツのナンバーを練習に行ったはずが、そのうち韓国語で「キャン・ユー・セレブレイト」を歌いだし、彼女の留学先が日本であったのは、やはりマンガやJポップなどのサブカルチャー好きが昂じてのゆえなのだと想像できるようになっている。

2DKの団地住まいで、弟たちの面倒をいつも見ており、食事の準備も(ソンは味付けが辛いというが)お手のものなベースの望の、生活観に根ざした安定ぶりが、終盤にはドラムの先走りをきちんと諌めるあたりと見事に呼応していく。

ドラムの響子は、実に「普通」な女子。片思いの彼氏に告白もままならない。そのテンポの悪さが、ドラムの乗りの悪さに通じているのじゃないかしらと、何となく想像されてしまう。

メインの四人だけではない。

屋上で自称「マンガ喫茶」を営む(文化祭だから!)「中島さん」は、恵との会話で「みんな(卒業して)行っちゃったからね」と微妙な立場を伺わせながら、恵にとても優しい目を向けてくれているとわかる。

あるいは冒頭・中盤に「芝高『ひいらぎ祭』」の記録「映画」を撮っているらしい生徒会役員(?)それとも映画研究部員の存在感の凄いこと!

まあ、これらが最後、徹夜続きで「スタジオ」で寝入ってしまい、演奏時間に遅れて、折からの大雨にずぶぬれになりながら到着した四人の演奏に収束していくのであるが……本人たちが言っているとおり、「演奏している時間はわずかだし、夢中だから何も残らないんだよね。こうして、練習している間にあった出来事こそ後まで残るんだよね」……まったく、そのとおりだと思う。

ラストの演奏の途中から無人の校舎、大雨で溢れるプール、(後夜祭の?)ファイアストームのために組み上げられていた焚き木といった、ある種の郷愁と物寂しさを刺激される映像が挿入される。上手いねぇ。

青春のさ中にある人よりも、少し過ぎた人たちにこそお勧め!

*香椎由宇は本当に大人っぽいけれど、こういう女子高生は、うん、いるのだよ。撮影当時はどうやらほとんど現役高校生を卒業したばかりのころと想像できるし。その娘が昨年は「マイボス・マイヒーロー」で、眼鏡の女子教員を演じていた模様。実際は間もなく20歳という感じらしい。*