アマガエルが伸ばした手を、真人はさっと避けると、言った。
「おまえ、気が変になったのか」と、真人は、人差し指で自分の頭を指さした。「蔵に閉じこもって、つまらない映画ばっかり見てるから、そんな偏った考えになるんだぜ」
アマガエルは、避ける真人を追いかけて、二度、三度と手を伸ばした。
「いちいち説明するのも億劫だがな」と、真人は言った。「あいつらの本拠地を潰さなきゃ、おまえの言うとおり、犠牲になる子供達が、これからも次々に出てくるんだぞ」
――ポン。
と、アマガエルの手が、真人の小さな肩に触れた。
しかし、真人はどこかに消え去る事なく、逆にアマガエルが、痛そうに目を押さえて、その場に膝を突いた。
「あーあ。だから、言わんこっちゃない」と、真人は、為空間で失ったはずの右腕を、アマガエルに向けて伸ばした。
真人の右腕が、内側からひび割れるように持ち上がり、機械的な音をさせて、奇妙な銃器に形を変えた。
「顔を上げて見ろよ。どうして俺が飛ばされなかったか、わかるだろ」と、真人が言うと、アマガエルはまぶしそうに目を開けながら、顔を上げた。
今まで、石蔵の中だとばかり思っていた場所が、文字どおり、スルスルと幕が落ちるように変わり、壁のなくなった目の前には、為空間からジャガーが戻って来た野球場が広がっていた。
「あっちから戻って来た俺が、これまでなにをしていたかなんて、想像もできなかっただろうな。おまえは当面のやっかいごとだから、いの一番に対策を考えさせてもらったぜ」と、真人は言った。「おまえは、見た物ならば正確に移動させられるが、そうでなければ、どこに相手を飛ばすか、自分でもコントロールできやしないんだ。だから、偽物の景色の中に迷いこませて、おまえの目を錯覚させることで、狙った場所には飛ばせなくさせてやったのさ」
アマガエルは、ひくひくと痙攣するようなまばたきをしながら、ふらふらと立ち上がった。
「どうだ。俺をひどいところに飛ばそうとした分、自分に向けて跳ね返ってきた衝撃は? 全身の骨が砕けそうなんじゃないか。どこに飛ばそうとしたかは知らないが、南極っていうのも、あながち間違いじゃなかったのかもな」――ひどいヤツだぜ。と、真人は、皮肉っぽく言った。
「いま、気を失うほど痺れさてやるからな」
真人は言うと、右腕に現れた銃がわずかに光り、アマガエルを狙った銃口が、いまにも火を噴き出しそうに、赤く膨らみ始めた。
「――くっ」と、片膝をついたアマガエルが、地面に手を触れると、野球場に敷かれた砂が、渦を巻いて舞い上がった。
「くそっ、抵抗するんじゃねぇよ」と、舞い上がった砂に、みるみるうちに覆われた真人は、咳きこむように言った。「――少しの間、眠っててもらうだけだって。もうそれ以上、無理するんじゃねぇよ」
竜巻のように舞い上がった砂が、ザザッと勢いを失って落ち去ると、アマガエルの姿も、どこかに消え去っていた。
「ふふん」
と、鼻で笑った真人が、球場の外に見える遊具の置かれた公園に向かって、右腕の銃を構えた。
どん。という短い震動に続き、目が焼けそうになるほどまぶしい光の矢が、真人の右腕から撃ち放たれた。
――サクリッ。
と、焦げ臭い匂いを漂わせて、アマガエルが隠れていた立木に、こぶし大の穴が開いた。
「地球の裏側まで飛んで行く力は、もう残っちゃいないんだろ」
と、クツクツと笑いながら、真人は言った。
木の幹に開いた穴から、真人をそっとのぞき見たアマガエルは、唇を噛んでいた。
戦うしか、ないようだった。しかし、真人が指摘したように、アマガエルには、もうほとんど力が残っていなかった。目の奥が、焼けつくように痛かった。
アマガエルは、降参したように木の陰から出てくると、やってくる真人と向き合った。
「覚悟はできたようだな」と、真人は言った。「――じゃあな」
と、薄ら笑いを浮かべた真人が銃を構えると、アマガエルは、ポケットから取りだした車のキーを、真人に向けて突き出した。
突き出されたアマガエルの手の内で、瞬間移動されたキーが、真人の視界を奪った。
「――うっ」と、不意を突かれた真人は、銃の狙いをはずすと、顔を背けた。
すぐに狙いをつけ直そうとした真人の前から、アマガエルは姿を消していた。
きょろきょろと、あわててアマガエルを探す真人の後ろに、ふらふらのアマガエルが現れ、真人を思いきり押しつけた。
振り返った真人が、右腕の銃を向けようとすると、ガツンと硬い感触が、背中から伝わってきた。そして、鈍い痛みと共に、気を失うほど重たい衝撃が、全身を襲った。
アマガエルに押された真人は、砂場に設えられたコンクリートのすべり台に、背中から飛ばされていた。
「前」
「次」
「おまえ、気が変になったのか」と、真人は、人差し指で自分の頭を指さした。「蔵に閉じこもって、つまらない映画ばっかり見てるから、そんな偏った考えになるんだぜ」
アマガエルは、避ける真人を追いかけて、二度、三度と手を伸ばした。
「いちいち説明するのも億劫だがな」と、真人は言った。「あいつらの本拠地を潰さなきゃ、おまえの言うとおり、犠牲になる子供達が、これからも次々に出てくるんだぞ」
――ポン。
と、アマガエルの手が、真人の小さな肩に触れた。
しかし、真人はどこかに消え去る事なく、逆にアマガエルが、痛そうに目を押さえて、その場に膝を突いた。
「あーあ。だから、言わんこっちゃない」と、真人は、為空間で失ったはずの右腕を、アマガエルに向けて伸ばした。
真人の右腕が、内側からひび割れるように持ち上がり、機械的な音をさせて、奇妙な銃器に形を変えた。
「顔を上げて見ろよ。どうして俺が飛ばされなかったか、わかるだろ」と、真人が言うと、アマガエルはまぶしそうに目を開けながら、顔を上げた。
今まで、石蔵の中だとばかり思っていた場所が、文字どおり、スルスルと幕が落ちるように変わり、壁のなくなった目の前には、為空間からジャガーが戻って来た野球場が広がっていた。
「あっちから戻って来た俺が、これまでなにをしていたかなんて、想像もできなかっただろうな。おまえは当面のやっかいごとだから、いの一番に対策を考えさせてもらったぜ」と、真人は言った。「おまえは、見た物ならば正確に移動させられるが、そうでなければ、どこに相手を飛ばすか、自分でもコントロールできやしないんだ。だから、偽物の景色の中に迷いこませて、おまえの目を錯覚させることで、狙った場所には飛ばせなくさせてやったのさ」
アマガエルは、ひくひくと痙攣するようなまばたきをしながら、ふらふらと立ち上がった。
「どうだ。俺をひどいところに飛ばそうとした分、自分に向けて跳ね返ってきた衝撃は? 全身の骨が砕けそうなんじゃないか。どこに飛ばそうとしたかは知らないが、南極っていうのも、あながち間違いじゃなかったのかもな」――ひどいヤツだぜ。と、真人は、皮肉っぽく言った。
「いま、気を失うほど痺れさてやるからな」
真人は言うと、右腕に現れた銃がわずかに光り、アマガエルを狙った銃口が、いまにも火を噴き出しそうに、赤く膨らみ始めた。
「――くっ」と、片膝をついたアマガエルが、地面に手を触れると、野球場に敷かれた砂が、渦を巻いて舞い上がった。
「くそっ、抵抗するんじゃねぇよ」と、舞い上がった砂に、みるみるうちに覆われた真人は、咳きこむように言った。「――少しの間、眠っててもらうだけだって。もうそれ以上、無理するんじゃねぇよ」
竜巻のように舞い上がった砂が、ザザッと勢いを失って落ち去ると、アマガエルの姿も、どこかに消え去っていた。
「ふふん」
と、鼻で笑った真人が、球場の外に見える遊具の置かれた公園に向かって、右腕の銃を構えた。
どん。という短い震動に続き、目が焼けそうになるほどまぶしい光の矢が、真人の右腕から撃ち放たれた。
――サクリッ。
と、焦げ臭い匂いを漂わせて、アマガエルが隠れていた立木に、こぶし大の穴が開いた。
「地球の裏側まで飛んで行く力は、もう残っちゃいないんだろ」
と、クツクツと笑いながら、真人は言った。
木の幹に開いた穴から、真人をそっとのぞき見たアマガエルは、唇を噛んでいた。
戦うしか、ないようだった。しかし、真人が指摘したように、アマガエルには、もうほとんど力が残っていなかった。目の奥が、焼けつくように痛かった。
アマガエルは、降参したように木の陰から出てくると、やってくる真人と向き合った。
「覚悟はできたようだな」と、真人は言った。「――じゃあな」
と、薄ら笑いを浮かべた真人が銃を構えると、アマガエルは、ポケットから取りだした車のキーを、真人に向けて突き出した。
突き出されたアマガエルの手の内で、瞬間移動されたキーが、真人の視界を奪った。
「――うっ」と、不意を突かれた真人は、銃の狙いをはずすと、顔を背けた。
すぐに狙いをつけ直そうとした真人の前から、アマガエルは姿を消していた。
きょろきょろと、あわててアマガエルを探す真人の後ろに、ふらふらのアマガエルが現れ、真人を思いきり押しつけた。
振り返った真人が、右腕の銃を向けようとすると、ガツンと硬い感触が、背中から伝わってきた。そして、鈍い痛みと共に、気を失うほど重たい衝撃が、全身を襲った。
アマガエルに押された真人は、砂場に設えられたコンクリートのすべり台に、背中から飛ばされていた。
「前」
「次」