くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

大魔人(59)【10章 審問官】

2021-08-07 19:26:42 | 「大魔人」
         10 審問官
 この1ヶ月、アマガエルは、教団を追い続けていた。
 行方不明になったまま、姿を現さない二人の姉弟のことが、気がかりだった。
 ニンジンが、為空間で襲われたという二人組の外国人は、文字どおり、どこかへ消えてしまったまま、姿を見せなかった。なにがあったのかは知らないが、表だった活動休止の裏で、なにかが動いているのは、間違いなかった。
 特技を使って、教団の事務所にも潜入したが、ひまそうなアルバイトの女性が一人いるだけで、教団がなにを企てているのか、はっきりとした情報は、得ることができなかった。
 ただ、ヨハンという名の審問官が、遠くヨーロッパの本部から、こちらに派遣されて来ているということは、知ることができた。
 教団の審問官とは、どんな人物で、その役割はなんなのか。外から事務所を見張っているだけでは、いたずらに時間ばかりが過ぎていくだけで、その姿を捉えることすらできなかった。事情を知っている誰かに、直接話を聞いてみるしか、手がかりを得られそうになかった。
 アマガエルは、勧誘のパンフレットを見て詳しい話を聞くため、思い切って事務所を訪ねてきた。という設定で、教団のドアを叩いてみることにした。
「――はい。なにかご用でしょうか」と、眠そうな顔をした女性が、口元によだれの跡をつけたまま、事務所のドアを開けた。「誰も、いないんですけど」
 ドアを開けた女性は、アマガエルが見る限り、まだ大学生くらいのようだった。
「えっ、困ったなぁ」と、アマガエルは、頭を掻いて言った。「もっと詳しい話を聞かせて欲しいと思って、休みを取ってきたんですけど」
「社会人の、方?」と、女性は言った。と、アマガエルは、にこりとうなずいた。「ですよね……」
 アルバイトの女性は、「あいにく、教団の人は誰もいないんですけど」と、アマガエルを追い返そうとしたが、既に事務所の中を捜索していたアマガエルは、見つけた教団の関係者の名前を出して、なんとか事務所の中に通してもらうことができた。
「ほんとに、その人の知り合いなんですか?」と、大学生らしい女性は、困ったような顔をして言った。
「はい。教団の教えについて、いろいろ話してくれたんですよ」と、アマガエルは言った。「ヨーロッパの本部から、審問官が来ているとかで、機会があれば会えるかもしれないって、言われていたんですけど――」
「来ているみたいですね」と、女性は言った。「私も、講義のない日に事務所の留守番をしているだけなんで、詳しいことはわからないんです」
 アルバイトの女性は、ヨハンという名の審問官が、本部から派遣されて来てすぐ、雇われたのだという。しかし、その日以来、教団の事務所にほとんど人が出入りすることはなく、ただ電話やメールで、連絡があるだけなのだという。
「――この前も、朝出勤してきたら、事務所の中の書類が心なしか散らかっていたりして、怖かったんですよ」と、女性は言った。アマガエルは、それが自分の仕業だとわかっていたが、正直に名乗り出るわけにはいかなかった。「きっと、教団の人が探し物に来たんでしょうけど、メモのひとつも書いておいてくれればいいのに、困っちゃいます」
「鍵も、預けっぱなしなんですか」と、アマガエルは言った。
「そうなんです。電話の応対と、簡単な案内だけだって聞いてたんですけど」と、女性は言った。「でも、働いている内に気になり出して、いつのまにか、掃除もするようになっちゃってました」
「ここに来ればいいって、言われてたんだけどなぁ――」と、アマガエルは、残念そうに言った。「ここじゃないとすれば、どこに行けば、教団の人に会えますかね」
 と、アルバイトの女性は、思いついたように言った。
「そうだ。きっと、宝石屋さんですよ」
「――えっ、宝石ですか」と、アマガエルは言った。
「何日か前に、問い合わせがあったんです」と、女性は言った。「駅前にある宝石店の者だって。工藤って人でしたけど、ヨハンはいるかって。どんな人かは知りませんけど、審問官のことを、呼び捨てにしてました」
「へぇ――」と、アマガエルは首を傾げた。「宝石店で、なにかイベントでもあるんでしょうか」
「違うと思いますよ」と、女性は首を振った。「なにか協力してやってるみたいでしたけど、教団のイベントではないと思います。ただ、気になるのは、ほら――」
 と、アルバイトの女性は、宝石店で起きた強盗事件のことを話した。
「――あの宝石店って、このまえ事件があったじゃないですか」と、アルバイトの女性は言った。「電話をかけてきた人は、本店の人みたいでしたけど、ここの人達が巻きこまれていやしないか、心配してるんです」
 アマガエルは、せっかく出してもらったお茶をごちそうになってから、お礼を言って、事務所をあとにした。
「宝石ね」と、つぶやいたアマガエルの足は、事件があったという宝石店に向かっていた。

 ――――……

「赤木さんですか……」と、宝石店の多田支店長は、地下鉄の駅に近い電話ボックスで、誰かと話をしていた。

 ――ええ、赤木探偵事務所です。なんかご用ですか?

 電話の相手は、ニンジンだった。朝5時前の電話に、受話器を通しても、イライラした様子の雰囲気が、伝わってきた。
「杉野さんに、あの、仕事を頼まれませんでしたか」と、多田は言った。
 杉野は、戦争後、一緒に引き上げてきた戦友だった。なにもないところから、二人で宝石店を立ち上げ、地元でも大企業のひとつに数えられるまで、会社を大きくしてきた。
 もともと上官だった杉野が代表に就くのは、自然の流れだった。しかし、実質的に会社を切り盛りしていたのは、多田だった。
 戦争後の混乱に乗じて、法に触れるぎりぎりを綱渡りしたことも、幾度となくあった。
 会社が次第に大きくなってくると、会社の代表である杉野と、意見の食い違いこそなかったものの、会社を二分する派閥ができるようになってしまった。




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よもよも

2021-08-07 05:37:27 | Weblog
はてさて。

暑くて眠れない。

あとどのくらい我慢すれば

心地よい秋になるんだろ??

無理な想像で暑さを紛らわそうとしたって、

そりゃ無理だわな・・・。とほほ。。

それにしても、

昨日の女子バスケットの試合。

最近地元チームのプロリーグの試合が中継されるようになって、

ちょこちょこ見るようになってたんで、

女子はどんなだろって見てたんだけど

あの大きな外国と対を張って試合してるの見てたら

熱くなって思わず声あげて応援してた。。

日本代表のラグビーが快進撃始めたワールドカップの感じと重なってたよね。

ヒロインが活躍すると、面白いわあ。。

決勝戦が楽しみ。


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