くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

大魔人(53)

2021-08-01 19:31:00 | 「大魔人」
 …………

 おおよそ、2週間が過ぎようとしていた。
 アマガエルは、青いTシャツに黒っぽいハーフコート姿で、ニンジンが入院している病院にやって来た。
 入院した当初は、体が石のように硬くなる症状で、ぼんやりと意識はあるものの、話すことなど、まるでできなかった。
 特殊な症例ということで、個室の病室にいたニンジンは、アマガエルを見ると、

「よう」

 と、照れくさそうな笑顔を見せた。
「顔色が、だいぶん良くなったみたいですね」と、アマガエルは、パイプ椅子を寄せながら言った」
「こっちに戻って来た時以来、じゃないか」と、ニンジンは、体を起こしながら言った。
「――本来なら、あなたの回復を喜んであげたいんですけどね」と、アマガエルは、申し訳なさそうに言った。
「わかってるさ」と、ニンジンは言うと、静かに息を吐いた。「おまえには、少しでも早く、伝えなきゃならなかったんだ」
 と、アマガエルは小さくうなずいた。
「いつ頃、退院できそうなんですか」と、アマガエルは言った。
「このまま症状がぶり返さなければ、10月には退院できるらしい」と、ニンジンは病室のカレンダーを見ながら言った。「1ヶ月は長いぜ――」
「なにが、あったんですか?」と、アマガエルは言った。「子供達が、二人とも行方不明なんです」
「ああ。知ってるよ」と、ニンジンがうつむきながら言った。「昨日、眼帯から聞いたんだ。――あ、眼帯って、警察ね。姉弟が行方不明だって」
「警察が、どうしてここに――」と、アマガエルは、厳しい表情を浮かべた。
「母親が、子供達に会いに来たぼくのことを、覚えていたらしい」と、ニンジンは言った。インターホン越しに、話しただけなんだけどな――「母親が家に火を点けるなんて、どう思うよ」
 アマガエルは、ニンジンを見ながら言った。
「彼らの仕業でしょうね。悪魔の生まれ変わりだけじゃなく、最初っから、一家もろとも消してしまう計画だったんでしょう」
「――」と、ニンジンはうなずいた。
「Kちゃんは、悪魔じゃなかったんだ」と、ニンジンは言った。「悪魔は、弟の方だった」
「マコト君、ですか――」と、アマガエルは、考えるように言った。
「ああ。驚いたよ」と、ニンジンは言った。「二人の話しぶりからすると、Kちゃんは、どうやったのか、弟が悪魔の生まれ変わりになるのを、抑えこもうとしていたらしい」
「――だけど、悪魔は計画どおりに現れた」と、アマガエルは言った。
「見当違いだったけどね」と、ニンジンが言った。「現れたのは“悪魔”じゃなく、“悪魔の仕業みたいな現象が”、だよ」
「まぁ確かに、弟については、姉に振り回されている。みたいなイメージでしたからね」と、アマガエルは、考えるように言った。
 と、ニンジンは大きくうなずいた。「きっと、抑えこもうとした悪魔の力が強すぎて、異状な行動が、現象として現れたんだと思う。その事があったせいで、Kちゃんが悪魔じゃないかって、あいつらに目をつけられたんだ」
「それを、いつ?」と、アマガエルは言った。
「あいつらがいた“イクウカン”でだよ」と、ニンジンは言った。「宙に浮かんだり、顔に似合わない汚い言葉を使ったり、それを悪魔的っていうんなら、あいつらのやり口こそ、悪魔そのものだったよ」
「――」と、アマガエルは、じっとニンジンの目を見ていた。
「ゴーレムとかいう化け物が出てきたり、道路が蝋細工みたいにぐにゃぐにゃになったり、空に穴が開いたかと思えば、モザイク状のブロックに変わったり、いろいろだった……」
 と、ニンジンは、覚えている限り、「為空間」で見聞きしたことを、アマガエルに話した。

「あいつらも、Kちゃんが“悪魔”だって、確証はなかったらしい」

「――じゃあ、どうしてそんな攻撃を」と、アマガエルは首を傾げて言った。
「悪魔  じゃない。魔人が言ったんだ」と、ニンジンが言った。「あいつらは、苦しませてるだけだって。悪魔が正体を出さなければ、なにもしないってさ」
「ちょっと待ってくださいよ。だったら――」と、アマガエルは考えるように言った。「ケイコちゃんが魔人じゃないって、彼らもわかったはずなのに、どうして戻ってこないんですか」
「――そこから先は、石にされかかって、かすかにしか覚えていないんだ」と、ニンジンは言った。「確か、まこととあいつらがやり合った拍子に、誰にも抑えられない、別の空間が口を開けたんだ。その空間に、Kちゃんは、飲みこまれてしまったんだと思う」
「――」と、アマガエルは言わなかったが、ニンジンが為空間から車と戻って来た時、確かに、恵果も一緒に戻って来ていた。
「まことは、魔人の正体を見破られて、本気になったあいつらから、みんなを助けようとして、腕をなくしたんだ」と、ニンジンは言った。「それは、なんとなく覚えてるんだ。片腕になっても向かっていこうとするまことを、走り出そうとした車に、ぼくが無理矢理引っ張り上げたんだ」
「だけど、戻って来たのは、君だけだった――」と、アマガエルは言った。
「そんなはずはない」と、ニンジンは、首を振って言った。「千切れた腕から血を流しながら、はなせって暴れるまことを、逃がさないように、必死で抑えてたんだから」
 アマガエルは話を聞くと、窓の外を見て、深く息を吐きだした。




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