くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

大魔人(67)

2021-08-15 19:04:01 | 「大魔人」
「そりゃ、気のせいさ」と、真人は、ごまかすように言った。「自分とそっくりな人間は、世界中に3人はいるって、言うじゃないかよ――」
「他人のそら似ですか? その割には、ずいぶんとそちらの事情に詳しいようですがね」と、アマガエルは言った。
「どうしてここがわかった」と、真人が言った。「誰かが耳打ちしたのか」
「秘密は、守るたちなんです」と、アマガエルは言った。「近しい存在であればあるほど、人には口外しないもんでしょ」
「――あのポンコツめ」と、真人がくやしそうに言った。「念を押しといたのに、裏切りやがった」
「おやおや。人の愛車を、ずいぶんひどく言うじゃないですか」と、アマガエルは言った。
「悪いね。すっかりお邪魔させてもらってたよ」と、真人は、悪びれもなく言った。
 石蔵の中に、広い工作台がいくつか並べられ、なにに使うものなのか、大小いくつもの機械が、乱雑に置かれていた。
「これは、おまえが作った“為空間”か」と、アマガエルは言った。
「――ははん。その方が理解しやすいなら、それでいいさ」と、真人は、右腕をためつすがめつさせながら言った。「あわてて忍びこんだ場所だからな。部屋の装飾には、ほとんど手をつけられなかったんだ」
 “気をつけろよ。それはまだ、不安定だからな――”と、多田が、声をひそめて言った
「あの時、間違いなくおまえはいなかった」と、アマガエルは、工作台の前に立って言った。「ケイコちゃんを、どこにやった」
「――」と、真人と多田が、わずかにぽかん、とした表情を浮かべた。
「俺を追ってきたわけじゃないのか?」と、真人は言った。「勘違いしてたかな。てっきりあんたは、教団とは別に、俺のことを追いかけていると思ってたんだけどな」
「間違っちゃいないさ――」と、アマガエルは言った。「おまえを追いかければ、ケイコちゃんの居場所がわかる、と思ってたんだ」
「あれは特別だ」と、真人が言った。「この俺だって、頭を押さえつけられて、自由に動けなかったんだからな」
「だったらなおさら、彼女には、戻って来てもらわなきゃならないですね」と、アマガエルは言った。
「ちぇっ、なんだよ。車のトランクになんか、隠れなくてよかったんじゃねぇか」と、真人はため息をついた。「なぁ、探偵から聞かなかったのか。あの子は、誰も踏み入れられない無限のエリアに、迷いこんだんだって」――おっと。あのへっぽこな探偵じゃ、そこまで理解できちゃいないか。と、真人は言った。
 アマガエルは、公園にジャガーが戻ってきた時、トランクまでは調べていなかったことを、思い出していた。
「――ここと同じ空間を、あそこに作ってたのか」と、アマガエルは、遙か彼方に見えるトランクの出入り口を、指さして言った。
「ここまで広い空間は、あの短い時間じゃ、作れやしないぜ」と、真人は工作台を回って、アマガエルの前に立つと、言った。「千切れた右腕と、なくした左目の傷を治療しなきゃならなかったからな。この小さな体を利用して、じっと縮こまっていたんだよ」
「都合のいい言い訳だな」と、アマガエルは言った。「悪魔である正体がバレて、逃げただけじゃないか」

「あの子を、どこにやった――」と、アマガエルは、ぐっと身を乗り出して言った。

「悪魔だと? 知ったような口をきくじゃねぇか」と、真人は、小さな胸を突き出すように言った。「寺の坊主らしいセリフだがな。十字教のやつらが言う悪魔ってのは、俺の創作なんだよ。おまえが原子の姿でどこぞをさまよっている大昔に、俺が書いた教団の聖典に、自分で登場させたキャラクターなんだ」――ちぇっ、めんどうだな。と、真人は大きくため息をついた。
「いいか、よく聞けよ」と、真人は左目にはめた義眼をつまみ出すと、後ろにいる多田に放り投げた。「もう、おまえの出る幕はないんだよ。けゐこは俺を庇って、無限の牢獄に捕まっちまった。あそこから助け出せるのは、俺か、じゃなければ天使か、神くらいだ。すぐに助けに行きたいところだが、十字教の連中に命を狙われてたんじゃ、おちおち助けに行く準備もままならない」
 と、真人がちらりと振り返って、多田を認めると言った。
「なにしてるんだ。打ち合わせたとおり、さっさと行けよ」
「――どこに行く気です」と、アマガエルが多田に向かって言った。「私からは、逃げられやしませんよ」

「どうしたらいい」と、真人から受け取った義眼を手に、多田が困ったように言った。

「まったく――」と、真人は、頭をグシャグシャとかきながら言った。「時間稼ぎしてる意味がねぇだろ」と、真人が手でくいくいと、多田を追い払うような仕草を見せた。
「わかった」と、多田は言うと、手にした義眼をぎゅっと強く握った。「無茶はするなよ。必ず迎えに行くからな」

 ボムッ…… 。

 と、風船が破裂するような音と共に、多田の姿がかき消えた。

「――おまえは、逃がさない」と、アマガエルは、真人を見ながら言った。

「おいおい」と、真人が困ったように言った。「まだわかっちゃいないようだな。けゐこを助けたければ、オレが行って救い出すしかないんだ。おまえの能力で、俺を南極の氷の中に閉じこめでもしたら、あの子を助け出せるヤツは、もう誰もいなくなるんだぞ」
 アマガエルは、口を真一文字に結ぶと、考えるようにして言った。
「悪魔は人の心を巧みに利用するなんてことは、信仰を多少なりとも持っているなら、知らない人間なんて、いやしませんよ。あなたの話が本当だとして、悪魔を目の前に、みすみす逃がしてしまえば、また誰かが悲しむに決まってるじゃないですか。だからまず、二度と悪さができない場所にあなたを飛ばして、あの子の行方は、……そうですね。十字教にでも、聞きに行くことにしますよ」



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