くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

大魔人(61)

2021-08-09 19:08:29 | 「大魔人」
 どんな価値があるのか、二人も詳しくは知らなかった。宝石について、確かに教えてはもらったが、この地上に二つとない貴重な物、という以外、理解することはできなかった。
 たどり着いた島で、思いがけず人工の宝石を作る技術を身につけた二人が、国に戻って宝石店を営むのは、しごく自然の成り行きだった。
 二人と一緒に宝石を作った男は、こう言っていた。
「いいか。こいつはよ、おまえらもよく知っている、大豆くらいの大きさだがな、月くらいなら、粉みじんに吹き飛ばすくらいのパワーを持ってるんだぜ」と、指輪の土台に設えられた緑色の宝石を見ながら、男は言った。「俺はもうきっと長くはないが、これをおまえ達に預けるからな。この島を出ても、この宝石だけは、絶対になくすなよ。次に会うときはどんな姿か、今はまだわからないが、必ずおまえ達の所に、引き取りに行くからな」
 ――いいか。と、うなずく二人に、男は念を押すように言った。
「この石がぼんやり光り出したら、それが合図だ。コイツの周波数はわかってるだろ。それを知ってるのは、この三人だけだ。俺が取りに行く前に、固定周波数を刺激して、この宝石を光らせる。それが、俺の挨拶代わりだ。わかったな」
 と、杉野と多田は、男の顔を見ながら、何度もうなずいた。

 ――え? 封筒ってなんだよ。なんのことなんだ。

 と、ニンジンは怒ったように言った。
「封筒を、とにかく封筒を送りました――」と、多田は外に人影を見つけて、あっと声を出しながら、あわてて電話ボックスをあとにした。
 隠してあった銃器を見つけられただけなら、会社から逃げ出す必要はなかった。だが、宝石店創立時のレガシーとして、支店の一角に展示されいた宝石が、光り始めた。会社の歴史を物語る資料として、それとなく置かれていた宝石だったが、店内の清掃に来てもらっているおばちゃんの一人が、鈍い光を放っているのを、たまたま見つけた。
 おばちゃんが仲良くしていた秘書の女性から、多田はその話を聞いた。多田は、自分の目で事実を確かめると、有無を言わさず、すぐに展示室を封鎖し、秘書には箝口令を敷いた。
 間違いなかった。緑色をしていた石が、紫色に変わっていた。これは、予告されていた合図ということ以外、考えられなかった。すぐに宝石をつけた指輪を展示からはずすと、多田は杉野に連絡を入れた。
 相談するというような、内容ではなかった。工藤の動きに注意を払っていた多田が取ったのは、指輪を持って逃げることだった。杉野は反対したが、もとより、杉野の考えを聞く気はなかった。窃盗の犯罪者として追いかけるなら、そうすればよかった。そのために家族が後ろ指を指されようと、宝石がなんらかの刺激を受けて爆発することで、数え切れないほどの人が被害に遭うよりは、よっぽどましだった。
 自分が指輪を持って逃げなければ、工藤が指輪を横取りするのは、目に見えていた。会社の闇の部分に興味を持つあまり、工藤が得体の知れない連中と連絡を取り合っているのは、本店に勤めている多田の娘からも、情報を受けていた。
 連中の正体が、十字教というヨーロッパに本拠を置く宗教組織であること。彼らが、どういう訳か、世界中に強いネットワークを待っていることも、次第にわかってきた。
 そして彼らは、杉野と多田が漂着した“島”と繋がっていることも、わかってきた。
 工藤が、会社内に極秘のグループを作り、創業者である杉野と多田をはじめ、重役達の目を誤魔化して、なにかを探しているらしいということは、杉野から聞かされていた。杉野も、工藤から直接その話を聞いたわけではなかった。ただ、出席した会議で一緒になった知り合いから、業界でこんな宝石の噂を耳にしたことはないか、と工藤から聞かれたのだという。どんな宝石なのか、くわしく話しを聞くと、まず間違いなく、杉野と多田が秘密にしていた宝石と、同じ特徴をしていた。
 偶然にしてはできすぎているが、よもや探している宝石が、自分が務めている会社に保管されているなど、工藤は思いもしていなかった。
 どうして、その宝石を探しているのか。杉野の知り合いが言うには、地球上のどこかにある島を探すために、必要な物なのだという。宝石にある角度で光を当てると、島の方角を指す、“太陽の石”と呼ばれる物だった。それは、いにしえのバイキングが、航海に用いたとされる伝説上の石だった。しかし、その石を実際に目にした人物は、誰一人としていなかった。
 話を聞いた杉野も、初めて聞くことだった。多田にも確認したが、二人と一緒に宝石を作った男も、そんなことは言っていなかった。ただ、とてつもなく大きな破壊力を持つということだけは、強く言い聞かされていた。
 杉野と二人でいた島で、何があったのか。どうやって、宝石を作ったのか。隠したい事実を話してまで、工藤を説得し、宝石に関わることを思いとどまらせるつもりはなかった。秘密を打ち明けたところで、協力を得られる人物でないことは、明らかだった。
「逃がすなよ」と、数人の男達が多田を追いかけていった後、一人の男が、多田がいなくなった電話ボックスに、遅れてやって来た。
 開けっ放された電話ボックスの扉の奥、受話器が、ぶらぶらと揺れているのが見えた。
 誰かが、受話器の向こう側で、叫んでいた。
 男は、そっと受話器を持つと、静かに元に戻して、電話を切った。
「――」と、暗い色のスーツを着た男は、上着のポケットから、無言で携帯電話のような物を取りだした。
「これがあれば、逃げられやしないんだって」と、つぶやいた男は、画面に映ったいくつかの点を見ながら、顔を上げて、周囲を見回した。
 男は、多田を追いかけていった男達のあとを、すぐに追っていくかに思えた。しかし、その表情が、見る見うるちに強ばっていった。
 電話ボックスから離れた男は、早朝で車の往来がない道路の真ん中に立ち、なにやら混乱した様子で、手にした道具の画面と周りの状況を、繰り返し見直していた。

「――いたぞ! 急げ!」

 と、多田を追いかけていった男達が、どういう訳か、こちらに戻って来た。
「おまえら、こっちにはいないぞ――」と、電話ボックスの外にいた男は、戻って来た男達に言った。




コメント
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よもよも

2021-08-09 05:51:58 | Weblog
はてさて。

新しいカレンダーは祝日だけど、

宣伝でもらったカレンダーは今日は平日。。

とうとうオリンピック終わったけど、

入れ替わりで台風って、

なんかのイヤミかい??

北海道も今週後半には大雨の予報が出てるし、

急な仕事が入るかもと思ったら、

涼しくなって少しは寝やすくなるかなと思ったけど、

台風どっか行き過ぎるまで無理っぽいねXXX

五輪も皮肉だよね。。

アスリートから勇気をもらってほしいってさ、

そんな形の無いものより、

住むところとか食べるものだとか、

まず命の確保があっての、勇気だよね。

なんか終わってみれば、大がかりな

興業にしか思えない。。
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