くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

大魔人(65)【11章 正体】

2021-08-13 19:10:28 | 「大魔人」
         11 正体
 父親である住職と共に、朝のお勤めを終えたアマガエルは、久しぶりに寺の蔵に籠もって、頭の整理をしようか、迷っていた。
 2日前。宝石店の支店長だった男が、ヨハンに追い詰められ、橋の上から転落した。アマガエルも見ていた目の前で、自ら川に身を投げた男は、アマガエルの緊急通報を受けた警察と消防によって、数時間後に痛ましい姿で発見された。
 遺体が発見されるまで、アマガエルは、現場から離れなかった。
 どうにかして、助けてあげられなかったのか。後悔にも似た思いに、駆られていた。
 しかし、その時の光景を何度思い返しても、同じように、躊躇するばかりだった。
 支店長だった男の様子が、どこかおかしかった。周りにいた男達も、やはり違和感を感じていたのか、追い詰めこそすれ、逃げる男をどうしたものか、判断しかねている様子だった。
 はじめて目にした審問官は、逃げる男に“ストーン”はどこか、と在処をたずねていた。
 意外だった。
 審問官は、悪魔を追っているとばかり、思っていた。その後ろをつけていけば、真人の行方にたどりつける。そして、真人の行方がわかれば、恵果の居場所も、自ずとわかるに違いない。と、アマガエルは考えていた。
 しかしその判断が、結果的に、男の命を救うチャンスを逃すことに、繋がってしまった。
 正直、悔しかった。
 依頼を受け、悪魔送りと呼ばれる秘密裏な儀式に関わることになったが、誰かを救うどころか、行く先々で、後戻りのできない出来事に巻きこまれてばかりだった。
 “ストーン”とはなんなのか。悪魔送りに関係ないとすれば、どうして審問官が在処を探しているのか。魔人と言われた真人との関連は、どういったものなのか……。
 関われば関わるほど、わからない疑問が、次々と積み上がっていった。
 しかし、ただひとつ。アマガエル自身が求めるものは、恵果の行方だった。
 彼女の居場所を突き止めなければ、キクノさんの依頼を果たしたことにはならなかった。また以前のような明るさを取り戻してもらわなければ、そもそも依頼を受けた意味がなかった。

「――?」

 寺の事務所の窓から、アマガエルがぼんやりと遠くを見ていると、外の通りを過ぎていった誰かが鳴らした、口笛のような音が聞こえてきた。
 はっ、としたアマガエルは、玄関を出ると、ジャガーを駐めてある車庫に向かった。
 駐車場の一角にある車庫に向かって、アマガエルは、敷き均した砂利を、ザクザクと踏みしめながら歩いていった。歩きながら、時折後ろを振り返り、寺の外に延びる道路と、砂利の敷かれた駐車場とを、見比べるように目を凝らした。
 車庫から車を出したようなタイヤの跡は、あたりまえに残されていた。ただ、それがいつつけられた物なのか、地面に薄らと残されたタイヤの跡を見ただけでは、はっきりとはわからなかった。
 ここのところ、自分の軽自動車には何度か乗る機会があった。しかし、父親のジャガーを借りて、どこかに出かけたことはなかった。住職である父親も、月命日の法要や会合には、もっぱら母親の軽自動車を使うことが多かった。最近、両親がドライブに出かけた、という話しも、聞いたことがなかった。もちろん、だからといって、住職がジャガーに乗っていない、と言い切れるものでもなかった。

 ガシャン――……。

 と、持ち上げようとしたシャッターには、しっかりと錠がかけられていて、開けられなかった。
 やはり、誰かが車に乗っているということは、ないかもしれなかった。
 それでも――と、アマガエルは、持ってきたキーでシャッターの錠を開けると、ガラガラガラ……と、車庫を開けた。
 あまり、開け閉めされていないせいか、シャッターの持ち上がる滑り具合が、ずしり、と重く感じられた。
 車庫に収められたジャガーの車体が、くりり、と大きな目をした顔を現した。
 きらり、とシルバーに輝くジャガーのエンブレムが、すっくと黒いボデーの先に立ち、静かな咆哮を上げていた。

「――」

 と、目の錯覚に違いないが、アマガエルは思わず、息を飲んで動きを止めた。
 時間とはいえないわずかな時間、ジャガーの左右のライトが、まばたきをしたように、ちらついて見えた。
 アマガエルは、手にしたキーをズボンのポケットに仕舞いつつ、青空に流れる雲のシルエットが写ったボデーを、指先で軽く撫でるようにしながら、車の様子を確かめていった。
 金属の持つ冷たさが、指先から伝わってきた。しかし、気のせいか、ゆっくりと進んで行くにつれ、温度だけではなく、ドキドキと、車が身震いするような感触も、指先から伝わってくるようだった。
 ため息にも似た深い呼吸をしながら、アマガエルは車庫の前に戻ると、ジャガーの正面に立ち、あきらめたように、シャッターに手を伸ばした。
 と、カチリッ――。見間違いでなければ、今度こそ確かに、車のライトが短く点滅した。なにかを、伝えたがっている? そんな、意志を持ったメッセージに思えた。
 シャッターに伸ばした手を下ろし、もう一度車庫の中に入って、なにか見落としがないか、車の周囲を見直していった。
 と、わずかだが、薄らと埃のついたトランクの取っ手が、その部分だけ、きれいに拭き取られたようになっていた。誰かがトランクを開け閉めすれば、取っ手の埃は、きれいにぬぐい取られるだろう。だが、ここしばらくは、誰もジャガーを車庫から出していないはずだった。だとすれば、トランクの取っ手がきれいになっているというのは、ありえないことだった。




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よもよも

2021-08-13 06:18:28 | Weblog
はてさて。

ようやく気温が落ち着いて、

ひさびさぐっすり眠れた気がする。。

いままで寝汗ぐっしょりで朝方目が覚めたり、

寒くって夜中に窓閉めるのに飛び起きたり、

そんなのばっかだった・・・。

18日連続真夏日とか、記録的とか、

皆既月食とか日食とか、なんたら流星群とか、

地球規模の自然現象で一生に何回か、

くらいのイベントならひと目見たい、とか思うけど、

100何十年ぶりの気象現象とか言われても、

迷惑なだけXXX

またぞろ来週暖気が戻ってくるとかってやってたけど

嫌気がさして、嫌悪感しか覚えないわ。。
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