「フィガロの結婚」といえばマリーアントワネットの果たした役割が思い出されるが、彼女を巡っては「首飾り事件」という有名な大詐欺事件があり、これについては数年前に「マリー・アントワネットの首飾り」という映画があった。
1785年に起きたこの事件は、まさに「事実は小説より奇なり」を地でいく面白い事件、まさに大衆小説にぴったりの題材、筋書きを実演したようなもの。
そこではマリーアントワネット自身は無関係、全く「蚊帳の外」で、政治的には取るに足らない事件なのだが、フランスの一般庶民に対して、ベルサイユ宮殿王室の華美、堕落、浪費振りを見せ付ける結果となり、彼女のイメージを後世に至るまで定着させる、アンシャン・レジームを代表する話になりあがる。
一体何が起きたのか、主役は三人。
先ずは、「ヴァロワの血を受けた憐れな孤児」ジャンヌという乞食娘。ある貴族に救われ女中働きするが、竜騎兵大尉ラモットと結婚、この夫も勝手に伯爵をなのるいい加減男で、二人は貧乏暮らしに飽き足らず一攫千金を狙いマリーアントワネットに近ずこうとする。
次に愉快なのが、シュトラスブルグ大司教区のロアン大司教という大物。中央政府の閣僚ポスト、あわよくば宰相の地位まで狙っているが、何故か王妃に嫌われお目見得すらかなわない。自身の名誉、栄達のため何とか王妃との関係修復を図らんと躍起になっている。
そして大詐欺師、カリオストロ。貴族の社交場を遊泳しているうちに、ラモット伯爵夫人とロアン大司教の魂胆を見抜き、大詐欺事件を仕立て上げる。
細かいストーリーは映画でのお楽しみ・・・要はある宝石商が持ち込んだ超高価な真珠の首飾りをマリーアントワネットが欲しがっているという話をでっち上げ、大司教に買わせようとする。大司教が金だけ払ったところでラモット」婦人が騙し取るということ。
この話はマリーアントワネット伝の定番、シュテファン・ツワイクの「マリー・アントワネット」(岩波文庫)に詳しいが、これをベースに遠藤周作が軽い乗りで書いた「マリーアントワネット」が楽しい。
この事件だけでいえば非難、笑はれるべきはロアン大司教だと思うが、世間の目は彼に同情的で(もはやこの時代、大司教など聖職者の堕落振りは世間の人の常識になっていたということか?)、被害者である王妃、王室のほうに批判の矢が向けられる。彼女の乱費と放蕩が批判の的となり、王家に対する非難が急速に高まりフランス革命へとつながってゆくのである。
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